・METエクソン14スキップ変異、キホンのキ

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 このところ、METエクソン14スキップ変異に関する記事を書くことが多くなりました。

 2020年からテポチニブとカプマチニブが保険診療で使えるようになり、今後臨床の現場で診断される機会も多くなるでしょう。

 METエクソン14スキップ変異に関する総説から、ポイントを抜粋して記事にしておきます。

 一読してみると、METエクソン14スキップ変異が臨床検査で調べられるようになるまでに乗り越えなければならなかった課題はたくさんあっただろうことが容易に想像できます。

 臨床検査や治療の開発に携わった方々に感謝して、日々の診療に当たらなければならないと感じます。

 

 

 

 

Targeting MET in Lung Cancer: Will Expectations Finally Be MET?

Drilon A, Cappuzo F, Ou SI, Camidge DR

J Thorac Oncol 12(1), 15-26, 2017

 

・MET遺伝子はhepatocyte growth factor(HGF)受容体をコードする(ややこしくなるので、HGF受容体は以下METタンパクと呼ぶ)

・MET遺伝子は7番染色体の長腕に位置する約125kbpの遺伝子で、21のエクソンを有する

・MET遺伝子は転写・翻訳されると150kDaのポリペプチドになり、さらに糖鎖がくっついて190kDaの糖タンパクになり、最終的に膜貫通型のチロシンキナーゼ受容体であるMETタンパクが出来上がる

・METタンパクはHGFがくっつくと二量体となり、細胞内部のチロシン残基がリン酸化される

・METタンパクのチロシン残基がリン酸化されると、その下流のRAS/ERK/MAPK経路、PI3K/AKT経路、Wnt/βカテニン経路、STATシグナル伝達経路が活性化される

・胎生期では、METタンパクとHGFは胎盤のtrophoblast細胞および肝細胞の形成に大切な役割を果たす

・成人では、METタンパクはいろいろな臓器に存在し、組織が傷害されたときに発現が高まる

・METシグナル伝達異常は、遺伝子変異、遺伝子増幅、遺伝子融合、METタンパクの過剰発現といったいろいろな形式で起こる

・METタンパクの異常は、最初は骨肉腫細胞株でTPR-MET融合遺伝子として発見された

・TPR-MET融合遺伝子から転写・翻訳されたTPR-METタンパクは細胞膜貫通部位のY1003を欠いており、この部分にc-Cblが会合することにより、METタンパクのユビキチン化とその後のMETタンパク分解が阻害される

肺腺がんの患者でも、The Cancer Genome Atlas projectのRNAシーケンスによってKIF5B-MET融合遺伝子が見出されたが、こうしたMETが関わる融合遺伝子は肺がん領域では稀である

・METタンパクを標的とした治療薬はいくつか開発された

・METタンパク標的薬のうち、小分子化合物にはMETを含むマルチキナーゼ阻害薬(crizotinib、cabozantinib、MGCD265、AMG208、altiratinib、golvatinib)と、METに特化したキナーゼ阻害薬(capmatinib、tepotinib、tivantinib)がある

・METタンパク標的薬のうち、モノクローナル抗体医薬は抗METタンパク抗体(onartuzumab、emibetuzumab)と抗HGF抗体(ficlatuzumab、rilotumumab)がある

・METタンパクにからんだ有望な治療標的として、METエクソン14スキップ変異とMET遺伝子増幅がある

・腎細胞癌その他のようにチロシンキナーゼ領域の変異がドライバーとなるがん種がある一方で、肺がんでは細胞外もしくは膜貫通領域の変異が発癌に関わっていることが多い

・細胞外のsemaphorin領域は受容体の活性化や二量体化に必須と考えられているが、この部分に変異が起こる頻度はよくわかっていない

・膜貫通領域の変異は、エクソン14の改変に関わっていることが多い

・METエクソン14領域の改変が関わるがんは、2003年に小細胞肺がんで、2005年に非小細胞肺がんで、それぞれ最初に報告された

・METエクソン14領域はc-Cbl E3 ユビキチンリガーゼが結合するY1003を含む膜貫通領域の一部をコードしている

・c-Cbl結合によるユビキチン化はMETタンパクを分解する方向に向かわせる

・膜貫通領域の変異はRNAスプライス切断部位を誤らせ、METエクソン14領域を欠いたMETタンパクを生じる

・こうしてできた不完全なMETタンパクはユビキチン化とそれに続くタンパク分解を受けなくなり、結果としてMET活性が増幅して、細胞のがん化を招く

・METタンパクの分解不全は、免疫染色などの手法で検出可能なMET過剰発現をきたすと考えられている

・METエクソン14スキップ変異は、スプライス切断される部位がさまざまで、非常に多様性に富む

・Y1003残基そのものに関わるMETエクソン14の点突然変異や欠失変異により、METエクソン14スキップ変異がなくてもユビキチン化が阻害されることがある

・METエクソン14スキップ変異が非常に多様性に富むために、これを臨床検査で検出するのはある種の挑戦である

・DNAを検査対象とするものとしては、次世代シーケンサーがある

RNAを検査対象とするものとしては、アンカード・マルチプレックスPCR法やNanoString法がある

次世代シーケンサーについては、これ自体はあくまで検査基盤に過ぎず、実務上重要なのはいかに必要十分な数のプライマーを準備して次世代シーケンサーのパネルに組み込むかである

・多種多様なMETエクソン14スキップ変異に関わるプライマーを用意したとしても、それが実地臨床にそのまま応用できるとは限らない

・同様に、RNAを検査対象とする手法も、実地臨床でルーチンに行えるわけではない

・METエクソン14スキップ変異を有する肺がんでは、免疫染色をするとMETタンパクの過剰発現が確認できることがあり、IA期からIIIB期の患者に比べると

IV期の患者の方が強陽性になるとの報告がある

・免疫染色によるスクリーニングでMET過剰発現が確認された患者を選んで遺伝子解析を行うことが提案されている

・METエクソン14スキップ変異は肺腺がんの3-4%に認められ、ALK融合遺伝子と同程度の頻度

・METエクソン14スキップ変異は高齢者に多く、非喫煙者の割合は他の遺伝子異常に比べて少ない

・687人のアジア人非小細胞肺癌患者を対象とした研究では、METエクソン14スキップ変異は予後不良因子だった

・METエクソン14スキップ変異は他の肺がんドライバー遺伝子変異と相互排他的な関係にある

・933人の非扁平上皮・非小細胞肺がんの患者の解析では、METエクソン14スキップ変異を有する患者はKRAS、EGFR、ERBB2活性化変異や、ALK、ROS1、RET融合遺伝子のいずれも合併していなかった

・肺肉腫様がんでは、約20-30%の患者でMETエクソン14スキップ変異を認める

・METエクソン14スキップ変異は、MET阻害薬の有望な効果予測因子である

・2015年半ば、METエクソン14スキップ変異を有する肺がんに対するcrizotinibの臨床効果が報告された

・同様に、cabozantinibによりPET評価上の完全奏効(通常の評価では病勢安定)が得られた報告もあった

・capmatinibによる部分奏効が得られた報告もあった

・METエクソン14スキップ変異を有する肺がんに対するcrizotinibの第I相試験では、18人が治療を受けて、8人が部分奏効に至り、奏効割合は44%だった

・crizotinibに対する耐性化機序の研究も進んでおり、D1228N変異が耐性機序のひとつとして既に報告されている