ROS1融合遺伝子陽性肺がん、調べられるようになったものの、そうそう簡単には見つからない。
これまでのところ、身の回りで見つかったのは1件のみ。
分子標的薬の治療選択としては、クリゾチニブ一択。
先日、コメント欄でROS1陽性肺がん患者さんから相談を頂いた。
一次治療:カルボプラチン+ペメトレキセド+ベバシツマブ
二次治療:クリゾチニブ
クリゾチニブに耐性となり、さあ、三次治療は何がいいでしょう、とのこと。
選択肢に適応外使用でのセリチニブ、海外治験参加前提のLorlatinibが挙がっていたのにはいささか驚いた。
もはや私よりも、患者さんの方が先を行っている。
少し調べてみたところ、以下の論文を見つけた。
参考までに書き残す。
Crizotinib-Resistant ROS1 Mutations Reveal a Predictive Kinase Inhibitor Sensitivity Model for ROS1- and ALK-Rearranged Lung Cancers
Francesco Facchinetti et al.
Clin Cancer Res. 2016 Dec 15;22(24):5983-5991.
ナナメ読みしたところ、概要は以下の通りの症例報告。
・2010年8月にIV期の腺癌、多発リンパ節転移、胸膜播種と診断された63歳の男性
・分子標的スクリーニングプロジェクトであるMOSCATO(NCT01566019)と経時的生検標本採取と遺伝子変異検索プロジェクトであるMATCH-R(NCT02517892)に参加することになった
・サンガー法で遺伝子変異検索を行ったが、EGFR, KRAS, PI3K, BRAF, HER2遺伝子変異はすべて陰性
・ALK検索も陰性
・一次治療はシスプラチン+ジェムシタビン+iniparib(PARP阻害薬)の治験に参加
・2012年4月に病勢進行確認
・二次治療はペメトレキセド単剤
・2013年1月にCTガイド下肺生検を施行、CGH法でHOXA7遺伝子増幅とROS1遺伝子3'末端の欠失を確認、FISHでROS1融合遺伝子確認
・ROS1融合遺伝子は血中ctDNA検索でも確認
・2013年9月までに、ペメトレキセド単剤療法を計17コース施行し、肺病変進行を確認
・三次治療として、クリゾチニブを適応外使用開始
・開始数日後には自覚症状が消失
・6か月後の段階で75%の腫瘍縮小率が得られた
・22か月後に病勢進行
・再度CTガイド下針生検を施行、全エクソンシーケンスを行ったところ、ROS1遺伝子のエクソン37、すなわち、ROS1のチロシンキナーゼドメインをコードする遺伝子異常が見つかった
・ROS1の1986番目のコドンにおいて、セリンがチロシンに置き換わる変異(S1986Y)とセリンがフェニルアラニンに置き換わる変異(S1986F)が混在していた
・ROS1とALKは構造上の相同性が高いとされるが、ROS1タンパクの1986番目の残基はちょうどALKタンパクの1156番目の残基と同等の位置にあり、ALKのC1156Y耐性変異においてはLorlatinibの効果が期待できることが細胞株レベルの研究で分かっていた
・四次治療として、Lorlatinibの効果を検証する第I / II相試験(NCT1970865)に参加した
・3か月後には、89%の腫瘍縮小率が得られた
・野生型のROS1、S1986Y変異を有するROS1、S1986F変異を有するROS1、ROS1耐性変異で最も多いとされるG2032R変異を有するROS1を細胞株に導入して各薬物の反応を調べたところ、S1986YおよびS1986Fでは、クリゾチニブ、セリチニブには耐性で、Lorlatinibには感受性だった
・G2032Rに対してはLorlatinibも効果が薄かった
遺伝子変異スクリーニングから治験に至るまで、様々な臨床試験に触れる機会があった上に、トランスレーショナルリサーチへの距離が近い環境で治療が受けられたからこその経過だと思う。
EGFR遺伝子変異よりも、ALK / ROS1の方が、耐性変異と治療薬の関係がすっきりしているようだ。
ただし、それを実臨床に生かせるようになるまでにはまだ時間がかかりそうでもある。
なんといっても、私の身辺では、まだたった一人しかROS1陽性肺がんが見つかっていない。
こうした希少疾患の治療開発を商業ベースで推し進めるのは、大変困難だろう。