・少数の遠隔転移(オリゴ転移)に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と定位放射線照射の併用療法

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 少数の遠隔転移を有するEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんに対する局所療法の有効性について。

 個人的な見解に過ぎませんが、方法論としては放射線治療のほか、手術も考えていいのではないかと思っています。

 局所症状の治療ないしは予防に役立つし、腫瘍の性質を詳しく知るのに役立ちます。

 

 幸いなことに、大分ではサイバーナイフを用いた精密な定位照射が可能です。

 サイバーナイフのような精密定位照射施設に関していえば、需要当たりの施設数、アクセスのしやすさにおいて地方の方が恵まれているように思います。

 今回の報告を踏まえると、ときにはIV期の患者であっても、適応を考えてよいでしょう。

 

 オリゴ転移に対する局所療法の考え方は、日本肺癌学会による肺がん診療ガイドライン2021においても取り上げられています。

肺癌診療ガイドライン2021年版 (haigan.gr.jp)

 

 また、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)のガイドラインでも、EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんの一次治療後、一部の病巣のみ悪化が見られた際には手術や放射線治療といった局所療法を考えるとフローチャートで示されています(PDF版、p69)

Metastatic Non-Small-Cell Lung Cancer (esmo.org)

 

 

 

First-line tyrosine kinase inhibitor with or without aggressive upfront local radiation therapy in patients with EGFRm oligometastatic non-small cell lung cancer: Interim results of a randomized phase III, open-label clinical trial (SINDAS) (NCT02893332).

Xiaoshan Wang et al.

2020 ASCO Virtual Scientific Program

abst.#9508

 

背景:

 少数の遠隔転移を伴う(oligometastatic)進行非小細胞肺がん患者に対して、病勢制御の目的で積極的に局所療法を加えていくことが効果的かどうかはよくわかっていない。今回の多施設共同、無作為化、オープンラベル、第III相臨床試験は、EGFR遺伝子変異陽性で、少数の遠隔転移を伴う未治療進行非小細胞肺がん患者を対象に、診断時点で確認された全ての遠隔転移巣に対して定位放射線治療を治療初期から行った際の無増悪生存期間と全生存期間を検証した。

 

方法:

 本試験は、中国国内で異なる行政単位(省)に属する5か所の医療機関の共同で行われた。適格条件は、病理学的に確認された原発肺腺がんであること、遺伝子変異検索によりEGFR遺伝子変異が確認されていること、臨床病期IV期であること、5か所以下の遠隔転移巣を伴うこと、ECOG-PSが2以下であること、全身治療(薬物療法)未施行であること、無作為化前の段階で脳転移が確認されていないこと、とした。試験参加者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬単剤療法のみを受ける群(標準治療群)と、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用しつつ、全ての遠隔転移巣に対して定位放射線照射を並行して行う群(試験治療群)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は無増悪生存期間、副次評価項目は全生存期間とした。

 

結果:

 2016年1月から2019年1月にかけて、133人の患者が登録され、65人(48.8%)が標準治療群に、68人(51.1%)が試験治療群に割り付けられた。追跡期間中央値19.6ヶ月(四分位区間は9.4から41.0ヶ月)の時点で、無増悪生存期間中央値は標準治療群で12.5ヶ月、試験治療群で20.2ヶ月だった(ハザード比0.6188、95%信頼区間0.3949-0.9697、p<0.001)。全生存期間中央値は標準治療群で17.4ヶ月、試験治療群で25.5ヶ月だった(ハザード比0.6824、95%信頼区間0.4654-1.001、p<0.001)。有害事象は両群間で同等で、治療関連死は認めなかった。Grade 3/4の有害事象として、肺臓炎は標準治療群の2.9%、試験治療群の7.3%で認め、食道炎は標準治療群の3.0%、試験治療群の4.4%で認めたが、いずれも有意差はつかなかった。

 

結論:

 少数の遠隔転移を伴うEGFR遺伝子変異陽性原発肺腺がんの患者に対し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と定位放射線治療の併用療法は、EGFRチロシンキナーゼ単剤療法と比較して、無増悪生存期間と全生存期間を有意に改善した。

 

 

 

 

 本報告を受けて、というわけではないでしょうが、令和2年04月の診療報酬改定で、定位放射線照射はオリゴ転移(5個以内)で算定可能となったとのことです。

 本ブログをご覧になった方から教えて頂きました。

 参考までに、令和2年度の診療報酬点数表から抜粋して、一部加筆して記載を残します。

 

 

 

M001−3 直線加速器による放射線治療(一連につき)

 

1 定位放射線治療の場合:63,000点=630,000円

 

2 1以外の場合:8,000点=80,000円

 

 

1 定位放射線治療のうち、患者の体幹部に対して行われるものについては、別に 厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け 出た保険医療機関において行われる場合に限り算定する。

 

2 定位放射線治療について、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合している ものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、呼吸性移動対策を 行った場合は、定位放射線治療呼吸性移動対策加算として、所定点数に次の点数 を加算する。

 

イ 動体追尾法 10,000点=100,000円

 

ロ その他 5,000点=50,000円

 

通知

 

(1) 直線加速器による放射線治療は、実施された直線加速器による体外照射を一連で評価し たものであり、「M001」体外照射を算定する場合は、当該点数は算定できない。

 

(2) 定位放射線治療とは、直線加速器(マイクロトロンを含む。)により極小照射野で線量 を集中的に照射する治療法であり、頭頸部に対する治療については、照射中心の固定精度 が2ミリメートル以内であるものをいい、体幹部に対する治療については、照射中心の固 定精度が5ミリメートル以内であるものをいう。

 

(3) 定位放射線治療における頭頸部に対する治療については、頭頸部腫瘍(頭蓋内腫瘍を含 む。)及び脳動静脈奇形に対して行った場合にのみ算定し、体幹部に対する治療について は、原発病巣が直径5センチメートル以下であり転移病巣のない原発性肺癌、原発性肝癌 又は原発性腎癌、3個以内で他病巣のない転移性肺癌又は転移性肝癌、転移病巣のない限 局性の前立腺癌又は膵癌、直径5センチメートル以下の転移性脊椎腫瘍、5個以内のオリ ゴ転移及び脊髄動静脈奇形(頸部脊髄動静脈奇形を含む。)に対して行った場合にのみ算 定し、数か月間の一連の治療過程に複数回の治療を行った場合であっても、所定点数は1 回のみ算定する。

 

(4) 定位放射線治療については、定位型手術枠又はこれと同等の固定精度を持つ固定装置を取 り付ける際等の麻酔、位置決め等に係る画像診断、検査、放射線治療管理等の当該治療に伴 う一連の費用は所定点数に含まれ、別に算定できない。

 

(5) 「注2」の呼吸性移動対策とは、呼吸による移動長が 10 ミリメートルを超える肺がん、 肝がん又は腎がんに対し、治療計画時及び毎回の照射時に呼吸運動(量)を計測する装置 又は実時間位置画像装置等を用いて、呼吸性移動による照射範囲の拡大を低減する対策の ことをいい、呼吸性移動のために必要な照射野の拡大が三次元的な各方向に対しそれぞれ 5ミリメートル以下となることが、治療前に計画され、照射時に確認されるものをいう。 なお、治療前の治療計画の際に、照射範囲計画について記録し、毎回照射時に実際の照射 範囲について記録の上、検証すること。

 

(6) 「注2」の「イ」動体追尾法は、自由呼吸の下で、呼吸運動と腫瘍位置との関係を分析 し、呼吸運動に合わせて照射野を移動して照射する方法、又は呼吸運動に合わせて腫瘍の 近傍のマーカー等をエックス線透視し、決められた位置を通過する時に照射する方法のい ずれかの場合に算定する。