・オシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法:既治療T790M陽性肺腺がんでは優越性を示せず

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 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と血管増殖因子阻害薬の併用と聞いて想起されるのは、JO25567試験、NEJ026試験、RELAY試験といったところでしょうか。

 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e944390.html

 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e974779.html

 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e960414.html

 

 エルロチニブを基軸として、血管増殖因子阻害薬はベバシズマブ、ラムシルマブのどちらかを使います。

 

 一方、未治療進行EGFR変異陽性非小細胞肺がんに対し、初回単剤治療を行うならば現時点で最強なのはオシメルチニブであることは論を待たないでしょう。

 じゃあ、そのオシメルチニブにベバシズマブやラムシルマブを併用したらどうか、という発想は当然出てきます。

 オシメルチニブとベバシズマブ併用療法を検証する第III相試験がEA5182試験です。

https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04181060

 また、オシメルチニブとラムシルマブ併用療法を検証するランダム化第II相試験がTORG1833試験です。

 TORG1833試験は既に患者登録が終わっており、現在追跡調査中とのことです。

 

 さて、以上の臨床試験群は、いずれも治療歴のない患者さんが対象です。

 今回2020年の欧州臨床腫瘍学会総会の演題から取り上げるのは、既治療進行EGFR陽性肺腺がん患者さんのうち、再生検でT790M陽性が確認された患者さんを対象として、オシメルチニブとベバシズマブ併用療法の有効性と安全性を検証したものでした。

 意外なことに、少なくとも無増悪生存期間、治療打ち切りまでの期間はオシメルチニブ単剤と比較してオシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法が有意に劣っており、全生存期間でようやく引き分けという結果でした。

 治療歴のある患者さんには、有効な治療戦略ではないのかもしれません。

 

 

A randomized phase II study of osimertinib with or without bevacizumab in advanced lung adenocarcinoma patients with EGFR T790M mutation (West Japan Oncology Group 8715L)

Yukihiro Toi et al., ESMO 2020 Abst.#1259O

 

背景:

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と血管増殖因子阻害薬の併用療法が、EGFR遺伝子変異陽性肺腺がんの患者に対して有望な治療戦略であることは数件の臨床試験で示されていたが、これらは全て第1世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に関するエビデンスだった。前臨床試験では、EGFR T790M変異モデルにおいてもこうした併用療法が有効である可能性が示されていた。そのため、T790M変異陽性進行肺腺がん患者に対して、オシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法を行って有効性と安全性を検証することは興味深い。

 

方法:

 第3世代以外のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬で治療をした後に病勢進行に至った進行肺腺がん患者で、T790M変異陽性が確認されたものを対象として、オシメルチニブ単剤(80mg/日)投与群(=O群)と、オシメルチニブ+ベバシズマブ(15mg/kgを3週間ごとに点滴投与)併用療法群(=OB群)に1:1の割合で割り付けた。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)とした。副次評価項目は奏効割合(ORR)、治療打ち切りまでの期間(TTF)、全生存期間(OS)、安全性とした。O群の無増悪生存期間中央値を9ヶ月と見積もり、OB群がハザード比0.55でO群を上回ると仮定して、80%の検出率、両側検定での有意水準を0.20と設定し、サンプルサイズは80人とした。

 

結果:

 2017年8月から2018年9月の期間に、81人の患者を集積し、無作為割付した(O群41人、OB群40人)。年齢中央値は68歳(41-82歳)、男性が41%、III期 / IV期 / 術後再発がそれぞれ7% / 70% / 22%だった。PS 0 / 1は46% / 54%だった。脳転移合併は26%だった。化学療法の前治療歴がある患者は21%だった。患者背景は両群で同様だった。奏効割合はOB群の方がよかった(OB群 68% vs O群54%)が、PFS中央値はOB群で短縮していた(OB群 9.4ヶ月 vs O群 13.5ヶ月、ハザード比 1.44、95%信頼区間は1.00-2.08, p=0.20)。TTF中央値もまた、OB群で短縮していた(OB群 8.4ヶ月 vs O群 11.2ヶ月, ハザード比 1.54, p=0.12)。OS中央値は両群で同等だった(OB群 未到達 vs O群 22.1ヶ月, p=0.96)。OB群で高頻度だったGrade 3以上の有害事象は、蛋白尿(23%)、高血圧(20%)、感染症(10%)だった。

 

結論:

 O群と比較して、OB群はT790M変異陽性の進行肺腺がん患者のPFSを延長することはできなかった。