・脳転移を有する患者集団に対しても、免疫チェックポイント阻害薬は有効なのか

 ドライバー遺伝子変異を有する非小細胞肺がん患者は、脳転移を合併しやすい一方、対応する分子標的薬が脳転移巣にも有効なことが多いです。

 分子標的薬は一般に小分子化合物であるがゆえに、脳血液関門を越えて効果を及ぼしやすいということか、あるいは開発の段階で、脳血液関門を越えやすい化合物が選択されているためか、あるいはそのどちらも、なのかも知れません。

 

 一方、免疫チェックポイント阻害薬は基本的にモノクローナル抗体=分子量が大きいために、脳血液関門は越えにくいのではないか、したがって脳転移巣には効果を及ぼしにくいのではないか、という推測が成り立ちます。

 少なくとも私は、そのように信じていました。

 今回取り上げた報告は、そうした疑問に正面から答えてくれるものではありませんが、脳転移の有無は免疫チェックポイント阻害薬の効果にはさほど影響を及ぼさない、ということは示してくれているようです。

 そういえば、血管増殖因子阻害薬であるベバシズマブもモノクローナル抗体ですが、脳腫瘍や脳転移巣にも一定の効果があります。

 モノクローナル抗体は相対的に大きな分子で、脳血液関門を通過するハードルは高い、というのが通説だと思うのですが、中枢神経系の病変にも効果を示すことの理論的背景って、どんななんだろうと疑問に思いました。

 

 

 

Outcomes With Pembrolizumab Monotherapy in Patients With Programmed Death-Ligand 1-Positive NSCLC With Brain Metastases: Pooled Analysis of KEYNOTE-001, 010, 024, and 042

 

Aaron S Mansfield et al., JTO Clin Res Rep. 2021 Jul 1;2(8):100205.

doi: 10.1016/j.jtocrr.2021.100205. eCollection 2021 Aug.

 

背景:

 脳転移の有無がペンブロリズマブと化学療法の有効性に関連するかどうかを調べるため、PD-L1陽性非小細胞肺がん患者における治療効果を後方視的に検討した。

 

方法:

 KEYNOTE-001試験、KEYNOTE-010試験、KEYNOTE-024試験、KEYNOTE-042試験を対象に、既治療、あるいは未治療のPD-L1陽性(tumor proportion score(TPS)≧1%)進行非小細胞肺がん患者のデータについて統合解析を行った。対象となった患者は、ペンブロリズマブ(2mg/kg, 10mg/kg, もしくは200mgを3週間に1度、ないしは10mg/kgを2週間に1度)を使用するか、あるいはKEYNOTE-001試験以外の試験では化学療法を受けた。全ての臨床試験において、既に治療済みで安定している脳転移巣を有する患者が含まれていた。

 

結果:

 3170人の患者が解析対象となった。試験登録の段階で脳転移のあった患者が293人(9.2%)、なかった患者が2877人(90.8%)だった。データカットオフ時点での追跡期間中央値は12.9ヶ月(0.1-43.7)だった。化学療法を受けた患者と比較して、ペンブロリズマブを受けた患者は脳転移のあった患者集団でもなかった患者集団でも全生存期間が延長していた。PD-L1≧50%かつ脳転移巣のあった患者におけるハザード比は0.67(95%信頼区間0.44-1.02)、PD-L1≧50%かつ脳転移巣のなかった患者におけるハザード比は0.66(95%信頼区間0.58-0.76)だった。PD-L1≧1%かつ脳転移巣のあった患者におけるハザード比は0.83(95%信頼区間0.62-1.10)、PD-L1≧1%かつ脳転移巣のなかった患者におけるハザード比は0.78(95%信頼区間0.71-0.85)だった。脳転移の有無に拠らず、ペンブロリズマブは化学療法と比較して無増悪生存期間を改善し、奏効割合を高め、奏効持続期間を延長した。治療関連有害事象は脳転移巣を有する患者集団に限ってみるとペンブロリズマブによるものが66.3%、化学療法によるものが84.4%で、脳転移巣のない患者集団ではペンブロリズマブ群で67.2%、化学療法によるものが88.3%だった。

 

結論:

 ペンブロリズマブ単剤療法は、化学療法と比較して治療効果良好で有害事象は少なかった。脳転移巣の有無は、治療効果とは無関係だった。