・血液脳関門とがん薬物療法

 先日、本来分子量が大きく脳血液関門を通過できないはずの免疫チェックポイント阻害薬が、中枢神経系で効果を及ぼす背景は何だろうと書き残したところ、以下のような趣旨のコメントを頂きました。

 

・脳転移巣は造影MRIや造影CTで描出される

・造影剤で描出されるということは、高分子である造影剤が脳転移巣に到達しているということ

・脳転移巣における血液脳関門は破綻しており、高分子化合物も到達可能と考えられる

 

 なるほど、一理あります。

 

 血液脳関門については、脳転移巣に対する薬物療法の効果を語るときに必ずと言っていいほど話題に上ります。

 というか、薬物療法の効果が乏しいことのいいわけにされます。

 一方で私自身、血液脳関門の細かいメカニズムはほとんど知りませんでした。

 安直ではありますが、以下のwikipediaのリンクを読んでみました。

 かなり詳細に記載されていて、私の理解の範囲を超えていましたので、概略をつかむにとどめました。

 以下、目を引いた記述を抜粋します。

 

ウィキペディアフリー百科事典 血液脳関門

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E8%84%B3%E9%96%A2%E9%96%80

 

血液脳関門は、血液と脳(そして脊髄を含む中枢神経系)の組織液との間の物質交換を制限する機構

・これは実質的に「血液と脳脊髄液との間の物質交換を制限する機構」=血液脳脊髄液関門 (blood-CSF barrier, BCSFB) でもある

血液脳関門は、全身に運ぶ必要があるホルモンなどの物質を分泌しする脳室周囲器官(松果体、脳下垂体、最後野など)には存在しない

血液脳関門は2種類の膜(基底膜、グリア限界膜)と3種類の細胞(内皮細胞、周皮細胞、星状膠細胞)から構成される

・神経組織維持のために必要な糖質、アミノ酸、脂質などを、それぞれ特異的なトランスポーターによって選択的に透過させる

・神経伝達に適した環境を維持するため、プロトンカリウムなどのイオンチャネル・トランスポーターで制御している

・各神経伝達物質は、それぞれ特異的な SLC トランスポーターで脳実質から血流側に排出している

・神経組織への障害性がある血中のアルブミンや凝血成分は、流入を制限している

・低分子の有機化合物は、薬物排出トランスポーターとしてよく知られている ABCトランスポーターで脳実質から排出することによって、神経組織を保護している

血液脳関門を構成する脳毛細血管は脳内を網目状に巡っていることから、血液脳関門を透過した薬物は脳神経細胞に到達しやすい

・多くの脳腫瘍、特に悪性のものは血液脳関門をほとんど有さない毛細血管が認められる

・この毛細血管は特に透過性が高く、正常の血液脳関門のような特別な輸送形態をとっていない

・異常な透過性により、一般に脳腫瘍では血管性浮腫が認められる

 

 病巣周囲の浮腫性変化を伴う脳転移巣には薬物がよく到達しそうな記述ですが、そうした患者さんはたいてい中枢神経症状が顕著に現れPSが低下していて、実際にはがん薬物療法を適用しにくいのが悩ましいところです。

 先日お世話した、周囲に浮腫性変化を伴う単発の脳転移巣がある原発性肺癌患者さんは、右腕に不随意運動が一日中見られていました。

 定位脳照射を先行して行い、その後に抗がん薬治療を導入する方針となりましたが、果たしてうまく行くかどうか、というところです。

 がん病巣と正常組織の血管透過性の差を広げるとされる血管増殖因子阻害薬を併用する、というコンセプトはあっていいと思います。実際に、ベバシズマブはこうした視点から使われることもあるでしょう。

 

 血液脳関門を克服するドラッグ・デリバリー・システムについて様々研究が進められていることも後半に書かれています。

 とはいえ、これらが実臨床で日の目を見るまでにはまだ時間がかかりそうな印象を受けました。