悪い知らせの伝え方「SPIKES(スパイクス)」。
がん診療においてなぜこの面談技術が必要なのか、一例を挙げてみます。
「SPIKES」はASCO(米国臨床腫瘍学会)公式カリキュラムの第1巻に収められています。
この冊子は非売品で、今でも大切に手元に保管しています。
たとえ確定診断されていても、患者さんやご家族がそのことを事前に知らされているとは限りません。
初対面の際、紹介状に書かれた内容をそのまま口に出してしまうと、取り返しがつかないことがあります。
たとえばこのケース。
「進行肺がん」と診断され、がん薬物療法を受けるためにこの医師のもとに紹介されてやってきた高齢女性とご主人、長男さん、長女さんです。
誰に、いつ、何を病状説明されたのか、紹介状には書かれていません。
当然ご本人、ご家族は紹介状の内容を説明され、理解しているとこの医師は考えて、
「進行肺がんと書かれていますね」
と話し始めています。
しかし、実際には本人もご主人も病状の説明を受けていなかったようで、初対面の医師からいきなり「進行肺がん」と言われ、困惑しきりです。
表情から察するに、長男さん、長女さんは何らかの説明を受けていたのでしょう。
事情があって、ご両親にはまだ病名を伏せていたのかもしれません。
そんな中で、この病院なら安心して治療をお任せできますよ、と紹介されてやってきたのに、いきなり初対面の医師から両親に「進行肺がん」と言われ、これまでの配慮は水の泡です。
明らかに長男さんは怒っていますね。
長女さんはご両親とは別の意味で困惑しておられるようです。
誰にも非はないと思うのですが、こうして損なわれた相互信頼を立て直すのは大変な作業です。
「がん診療の現場、あるある」ですね。
こんなことが常に起こりうることを踏まえて、紹介する医師にも紹介を受ける医師にも心構えが必要です。
とくに紹介を受ける医師には、「SPIKES」は必携の面談技術と言っていいでしょう。