・肺葉切除か、区域切除か・・・JCOG0802 / WJOG4607L

 肺がんに対する標準的な手術療法は、病巣を含む肺葉切除+2群リンパ節郭清術とされます。

 私たちの肺は、右は上葉・中葉・下葉の3つの部分に、左は上葉(上大区+舌区)、下葉の2つの部分に分かれます。

 例えば、肺がんの病巣が右肺上葉にあり、手術可能と判断された場合、標準手術は右肺上葉をまるごと切除し、加えて右肺門リンパ節・右側から切除可能な縦郭リンパ節の切除を行う、という内容です。

 ただ、CT画像で一定の基準を満たす小型肺がんでは、もっと患者さんへの負担が軽い手術で、同等の治療効果が得られるのではないかという疑問がありました。

 今回紹介するJCOG0802 / WJOG4607L試験は、「長径2cm以下、病巣最大径(T)に対する病巣充実性部分(C)の比率が0.5を超える非小細胞肺がんにおいては、より手術侵襲の小さな区域切除の方が優れる」という結論をはっきりと導き出しました。

 技術的には肺葉切除よりも区域切除の方が難しいのですが、この臨床試験の結果を受けて、少なくとも我が国では以上の条件を満たす肺がんの標準術式は区域切除になる可能性があります。

 

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Segmentectomy Versus Lobectomy in Small-Sized Peripheral Non-Small Cell Lung Cancer (JCOG0802 / WJOG4607L): A Multicentre, Randomized, Controlled, Phase 3 Trial

 

Hisao Asamura et al., AATS2021 Annual Meeting

Hisashi Saji et al., Lancet in press

 

背景:

 長径2cm以下の末梢小型肺がんに対する標準治療は、肺葉切除である。しかし、この病態に対する肺葉切除と区域切除の効果・安全性について無作為比較試験は行われたことがない。今回、肺葉切除を比較対象として、全生存に関する非劣勢、術後呼吸機能に関する優越性を部分切除が示せるかどうかを検証するための無作為化比較試験(JCOG0802 / WJOG4607L)を企画した。

 

方法:

 対象患者の適格条件は以下の通り。

・臨床病期IA期の末梢型非小細胞肺がんと確定診断されている、もしくはそう疑われる肺結節がある

・病巣の最大径は2cm以下である

・CT画像において、病巣最大径(T)に対する病巣充実性部分(C)の比率(C / T ratio)が0.5を超える

 適格条件を満たす患者は、一次登録後に手術を受ける。手術中に所見を確認した上で、その場で二次登録を行い、術中に肺葉切除か区域切除かの無作為割付を受ける。割付調整因子は組織型、性別、年齢、C / T ratioが1.0か1.0未満か、治療施設の5項目とした。肺葉切除および区域切除後の5年生存割合を90%と見積もり、非劣勢マージンはハザード比1.54(5年生存割合に換算して5%の差)とした。検出力(1-β)は80%、片側検定における第1種の過誤(αエラー)は0.05と設定、患者集積期間は3年間、追跡期間は5年間と設定し、予定集積患者数は両治療群合わせて1100人とした。A群が肺葉切除群(554人割付)、B群が区域切除群(552人割付)とした。主要評価項目は全生存期間(OS)で、副次評価項目は術後半年後、1年後の呼吸機能、無再発生存期間(RFS)、局所再発割合、有害事象とした。

 

結果:

 患者背景は以下の通り。

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 追跡期間中央値は7.3年。主要評価項目のOSについて、5年OSはA群91.1%、B群94.3%、A群に対するB群のハザード比は0.663(95%信頼区間0.474-0.927)、非劣勢に関するp値<0.0001、優越性に関するp値=0.0082と、B群の優越性が統計学的有意に示された。生存曲線は、いまだ5年以降で打ち切り例が多いものの、10年までは一貫してB群の生存曲線が上位にあった。組織型別でみると、腺がんではp=0.1417、非腺がんではp=0.0373と、非腺がんの患者集団ではB群が予後良好だった。副次評価項目のRFSについて、5年RFSはA群87.9%、B群88.0%、A群に対するB群のハザード比は0.998(95%信頼区間0.753-1.323)で統計学的有意差を認めなかった。

 

結論:

 本試験は、末梢型小型肺がんに対する区域切除術の有益性を証明した初の第III相臨床試験である。長径2cm以下、病巣最大径(T)に対する病巣充実性部分(C)の比率が0.5を超える非小細胞肺がんにおいては、区域切除術を標準外科手術とすべきである。