・EGFR遺伝子変異陽性肺がんの脳転移巣に対して、分子標的薬と放射線治療をどう組み合わせるか?

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 脳転移を有するEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者さんに対し、放射線治療とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬のどちらを先行するのが望ましいのか、を検証した後方視的研究に関する報告です。

 あくまで後方視的研究であることは踏まえておかなければなりませんが、定位脳照射を先行させて、その後にEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用するのが最も望ましいという結論です。順番が反対だと、実に21ヶ月もの生存期間の差が生じます。もちろん、様々な交絡因子(定位脳照射を行える時間的余裕がなかった、定位脳照射が行える環境がそもそもなかった、など)の関与が考えられるため、相当割り引いて考える必要があります。

 とはいえ、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬よりも定位脳照射を先行させられる環境を準備できる医療機関では、こうした事実は踏まえておくべきでしょう。実地臨床ではEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を先行投与して、必要に応じてできる限り早期に定位脳照射もしくは全脳照射を加えるのが現実的です。

 

 

Management of Brain Metastases in Tyrosine Kinase Inhibitor-Naïve Epidermal Growth Factor Receptor-Mutant Non-Small-Cell Lung Cancer: A Retrospective Multi-Institutional Analysis

 

William J Magnuson et al.

J Clin Oncol. 2017 Apr 1;35(10):1070-1077.

doi: 10.1200/JCO.2016.69.7144. Epub 2017 Jan 23.

 

目的:

 定位脳照射(SRS)、全脳照射(WBRT)、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)はいずれも、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者の脳転移巣に対する治療選択肢である。今回の多施設共同研究では、EGFR-TKI未治療の段階で脳転移巣が発覚したEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者に対し、最適な治療戦略を検討することである。

 

方法:

 参加6施設から、脳転移巣を有し適格条件を満たすEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者351人を集積した。EGFR-TKI治療歴のある患者、EGFR-TKI耐性変異を有する患者、WBRTもしくはSRS治療後にEGFR-TKI治療を受けられなかった患者、経過観察期間が十分でない患者は除外した。対象者を以下の3パターンに分類した。

1)SRS施行後にEGFR-TKIを使用した患者集団(n=100)

2)WBRT施行後にEGFR-TKIを使用した患者集団(n=120)

3)EGFR-TKI使用後の頭蓋内病変進行に対してSRSまたはWBRTを行った患者集団(n=131)

 全生存期間(OS)と頭蓋内病変関連無増悪生存期間(BM-PFS)は、脳転移巣が発覚した日から起算した。生存期間中央値は、1)46ヶ月、2)30ヶ月、3)25ヶ月だった(p<0.001)。多変数解析では、EGFR-TKIよりSRSを先行させたこと、EGFR-TKIよりWBRTを先行させたこと、年齢が若いこと、PSがよいこと、EGFRエクソン19変異があること、頭蓋外転移巣がないことがOSに関する予後良好因子だった。1)と3)の患者集団の背景因子は似通っていたが、2)は予後不良は背景因子を持つものが優位に多かった(p=0.001)。

 

結論:

 今回の多施設共同研究では、脳転移巣を有するEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者において、先行してEGFR-TKIを用い定位脳照射や全脳照射を延期することは、生命予後の短縮につながっていた。定位脳照射後にEGFR-TKIを用いる戦略が最も生存期間を延長し、かつ全脳照射による潜在的認知機能低下後遺障害の回避にも役立った。定位脳照射後のEGFR-TKIとEGFR-TKI後の定位脳照射を比較する多施設共同前向きランダム化比較試験が望まれる。