・NTRK融合遺伝子陽性肺がんに対するエヌトレクチニブ

 NTRK融合遺伝子陽性がんに対するエヌトレクチニブについて、きちんとした記事を残していなかったことに最近気付きました。

 備忘録として論文要約を書き残しておきます。

 極めてまれな遺伝子異常ではありますが、見つかれば一発逆転もあり得ます。

 

 

 

Entrectinib in patients with advanced or metastatic NTRK fusion-positive solid tumours: integrated analysis of three phase 1-2 trials

 

Robert C Doebele et al.
Lancet Oncol. 2020 Feb;21(2):271-282. 
doi: 10.1016/S1470-2045(19)30691-6. Epub 2019 Dec 11.

 

背景:

 エヌトレクチニブはトロポミオシン受容体キナーゼ(tropomyosin receptor kinase, TRK)A, B, Cの阻害薬であり、NTRK融合遺伝子陽性固形がんに対する抗腫瘍活性を示す。血液脳関門を通過できるため、中枢神経病変に対しても有効である。今回は、NTRK1、NTRK2、NTRK3融合遺伝子陽性の局所進行もしくは進行固形がんに対するエヌトレクチニブの有効性と安全性について、現在進行中の3つの早期臨床試験を統合解析した結果を報告する。

 

方法:

 ALKA-372-001試験、STARTRK-1試験、STARTRK-2試験の3つの現在進行中の第I / II相

試験について統合データベースを作成した。これらの臨床試験には18歳以上の局所進行もしくは進行NTRK融合遺伝子陽性固形がん患者で、少なくとも600mg/日のエヌトレクチニブを経口摂取したものを対象とした。全ての対象者はECOG-PS 0-2で、TRK阻害薬を除く抗がん治療を過去に施行されていてもよいこととした。主要評価項目は、奏効割合、奏効持続期間とした。有効性評価対象はNTRK融合遺伝子陽性固形がん患者で、TRK阻害薬治療歴がなく、少なくとも1回のエヌトレクチニブ投与を受けた患者集団とした。安全性評価対象にはSTARTRK-1試験、STARTRK-2試験、ALKA-372-001試験、STARTRK-NG試験に参加した患者で、少なくとも1回のエヌトレクチニブ投与を受けた患者集団とし、がん種や遺伝子異常の種類は問わないこととした。NTRK融合遺伝子陽性患者に絞った安全性評価も行った。

 

結果:

 ALKA-372-001試験には2012年10月26日から2018年3月27日まで、STARTRK-1試験には2014年8月7日から2018年5月10日まで患者募集を行った。STARTRK-2試験は2015年11月19日から患者募集を開始し、本論文公表時点でも継続中である。2018年5月31日のデータカットオフ時点で、有効性評価対象はNTRK融合遺伝子陽性進行固形がんの成人54人から成り、10の異なるがん種、19の異なる組織型で構成されていた。そのうち、非小細胞肺がん患者は10人(19%)含まれていた。追跡期間中央値は12.9ヶ月(四分位間8.77-18.76)、54人中31人(57%、95%信頼区間43.2-70.8)で奏効を認め、4人(7%)は完全奏効、27人(50%)は部分奏効だった。非小細胞肺がん患者では7人(70%、95%信頼区間35-93)が奏効していた。奏効持続期間中央値は10ヶ月(95%信頼区間7.1-未到達)だった。Grade 3-4の治療関連有害事象は体重増加(5-10%)、貧血(5-12%)だった。重篤な治療関連有害事象としては、神経系異常(3-4%)がもっとも頻度が高かった。治療関連死は認めなかった。

 

結論:

 エヌトレクチニブは持続的で、臨床的意義のある治療効果をNTRK融合遺伝子陽性固形がん患者にもたらした。また、安全性プロファイルも十分に管理可能な程度だった。