・外来診察中の小噺

 悟りました。

 ブログタイトルに沿った話をずっと続けるのは、私には無理なようです。

 ときどき肺がんとは関係のない話題でつなぐことにしました。

 

 褒められた話ではないのですが、私の外来診療は時間がかかります。

 いつも知恵を絞って予約を組んでいるものの、かかりつけの患者さんが、

 「検診で異常を指摘されたので詳しく調べてほしい」

とか、

 「眼科を受診したいので紹介状を書いてほしい」

とか、

 「最近体重が減っているので、原因を詳しく調べてほしい」

とかおっしゃると、対応するためにそれなりに時間がかかります。

 また、

 「他の病院で痛み止めを処方してもらって飲んでみたんだけど、1日何回までなら飲んでもいいだろうか」

とか、

 「うちの妻は、尿意があるときは教えてくれるんだけど、うんちの方はうまく行かないみたいで、いつも失禁してる、どうにかならないだろうか」

とか、

 「他の病院を受診している父が大腸カメラを受けたいというんだけど、先生のところで受けさせるにはどうすればいい?」

とか、簡単には回答できない質問が次から次へと出てきて、かつ外来診療では当意即妙の対応が求められるので、常に頭はフル回転です。

 それでいて、患者さん一人当たりの私の持ち時間はせいぜい10分程度。

 丁寧に対応すればどんどん診察時刻は遅れていきます。

 時間厳守で診療すれば、おのずと診療はおざなりになります。

 どこでバランスをとるかというのは永遠の課題です。

 

 そんななか、脂質異常症で診療している女性患者さんから、以下のようなコメントがありました。

 「いまどき、先生みたいに聴診器を当てて診察する先生は他にいませんね」

 「待合室で、先生かかりつけの他の患者さんと話すことがあるんだけど、みんなそんな風に話してます」

 「最近は、診察中も電子カルテの端末を見てばかりで、とうとう目も合わせずに診察が終わってしまうような先生ばかり」

 「そんな中、きちんと対面して、丁寧に診察してくれるって、先生の評判はいいみたいですよ」

 「待たされるし、時間はかかるけど」

 この患者さんのご主人も私の外来かかりつけ患者さんなのですが、診療開始時刻から15分程度(それでも予約枠内ではあったのですが)お待たせさせてしまったところ、仕事に間に合わないからとおっしゃって、処方のみで帰ってしまわれました。

 そのことをお詫びしたら、返ってきたのが上記のコメントでした。

 

 私にとっての診察(ちょっとした世間話と自覚症状の確認、体温・脈拍・血圧・SpO2の確認、上半身及び下肢の視診・触診・聴診)には、以下のような私なりの哲学があります。

・診察には余計なお金がかからない

・診察には(一部を除いて)合併症のリスクがない

・診察にはその場で結果が分かる、すぐに再確認できるという良さがある

・見落としをしたら申し開きができない

・なにか次の展開につながるきっかけになる

・過去の所見と比較しながら思いを巡らせることができる

 初診時に問診、診察を丁寧に行うことはもちろんですが、かかりつけの患者さんを大事にして、何かの兆しがあれば早くつかまえる、という取り組みもおろそかにできません。

 

 とはいえ、予約時刻をきっちり守ってほしい、という声が多いのも事実。

 私の診療が長引くと、介助してくださる外来看護師や事務職員にも迷惑がかかります。

 

 そこで、上記の患者さんを含め、3人くらいに以下の質問をしてみました。

 「短時間で診察を終えて皆さんの予約時刻を守るために、要望があれば胸部聴診を省きますが、あなたはどうしますか?」

 回答はみなさん同じでした。

 「それはもう、きちんと聴診してもらいたいですね」

 「しっかり診てもらっている、という安心感は、何物にも代えがたいです」

 「目も合わさずに診察が終わるよりも、丁寧に見てもらって待たされる方がいい」

 異口同音にそのようにおっしゃられました。

 私の外来診察時間が短縮される日は、まだ先になりそうです。

 

 なお、上述の女性患者さん、当院で大腸カメラを受けたい、とおっしゃったので、

 「○○さん、セクハラと言われるのを覚悟であえてお伺いしますが、○○さんにとって大腸カメラのロストバージンはいつですか?」

とお尋ねしました。

 大腸カメラを初めて受けたのはいつですか?とお伺いしたつもりだったのですが、「大腸カメラの」という部分を完全に聞き洩らされてしまったようで、少し間をおいてから、

 「16歳・・・」

という答えが返ってきました。

 私にとっても予想外、ど真ん中ストレートのお答えだったのでドギマギしてしまい、

 「いや、そういうことぢゃなくて、大腸カメラを初めて受けたのはいつですか、という意味で・・・」

 「・・・はじめて・・・です」

 「あー、そうですか。僕にとってのはじめては20代の頃で、大学の同級生にしてもらいました。はじめてだったせいかすごく痛くて、時間も長くかかって、とてもつらかったのを覚えています」

 「その点、ここの先生はすごくお上手で、全然痛くなかったし、短時間で終わりました。定期的にその先生にしてもらうことにしています」

 

 話せば話すほど、傷が開いていくばかり。

 背後の外来看護師さんからの無言の圧力と視線で、私の背中は血だるまです。

 ・・・何も知らない人が断片的に聞いたら、いろいろと誤解を招きそうな会話になってしまいました。

 次回ご主人が来院されたときには、張り倒されそうな気がします。

 

 そして診察が終わって帰りがけ、診察室を出ていく直前に、くだんの患者さんは腕時計をちらっと確認して出て行かれました。

 ああ、心が折れる・・・。