・KRYSTAL-1試験、第II相部分

 同じ研究に関する発表ですが、学会発表と論文報告では感触が異なりますね。

 治療歴のあるKRAS G12C陽性肺がんに対して、第2の阻害薬、adagrasibが有用との報告です。

 

 

 

KRYSTAL-1: Activity and safety of adagrasib (MRTX849) in patients with advanced/metastatic non–small cell lung cancer (NSCLC) harboring a KRASG12C mutation.

 

Alexander I. Spira et al. 
ASCO 2022, abst.#9002
DOI:10.1200/JCO.2022.40.16_suppl.9002

 

背景:
 KRASはRAS / MAPKシグナル伝達系における重要な伝達物質であり、細胞増殖と浸潤を促進する。KRAS G12C遺伝子変異は、報告によっては非小細胞肺がんの14%に認められるとされる。Adagrasibは現在開発中の化合物で、KRAS G12C阻害薬であり、非可逆的・選択的にKRAS G12C蛋白に結合し、不活性状態に留め置くとされる。Adagrasibは長い半減期(最長24時間)、用量依存性の活性増強、中枢神経系に移行可能といった薬力学的に最適化された性質を持つ。Adagrasibは第I / Ib相試験において、腫瘍縮小効果と良好な安全性を示した。

 

方法:
 KRYSTAL-1(NCT03785249)は複数コホートから成る第I / II相試験で、KRAS G12C遺伝子変異陽性の進行固形がん患者を対象に、Adagrasib単剤療法もしくはAdagrasibと他の薬物の併用療法について評価することを目的とした。今回は、コホートAに登録された全ての患者について、最初の結果開示を行うことにした。本試験におけるコホートAは試験から得られる臨床データを以て薬事承認を目指している集団であり、プラチナ併用化学療法や抗PD-1 / PD-L1抗体による治療歴のある非小細胞肺がん患者を対象に、adagrasib600mgを1日2回経口投与し、有効性と安全性を評価することになっていた。評価項目には有効性(奏効割合(objective response rate, ORR)、奏効持続期間(duration of response, DOR)、無増悪生存期間(progression free survival, PFS)、全生存期間(overall survival, OS))、安全性、薬物動態、その他の探索的項目が含まれていた。腫瘍縮小に関する評価はRECIST v1.1に基づいて、独立委員会により行われた。

 

結果:

 2021年10月15日のデータカットオフまでに、116人のKRAS G12C陽性非小細胞肺がん患者が登録され治療を受けた。追跡期間中央値は12.5ヶ月だった。年齢中央値は64歳、全体の65%が女性、ECOG-PS 0が15.5%、ECOG-PS 1が83.6%、全体の98.3%の患者は免疫チェックポイント阻害薬と化学療法に引き続いてadagrasibを使用しており、全治療のレジメン中央値は2レジメンだった。ORRは42.9%(48/112)、病勢コントロール割合(disease control rate, DCR)は79.5%(89/112)だった。カットオフ時点で31人(28%)の患者はadagrasibによる治療を継続していた。DOR中央値8.5ヶ月(95%信頼区画6.2-13.8)、PFS中央値6.5ヶ月(95%信頼区間4.7-8.4)、OS中央値12.6ヶ月(95%信頼区間9.2-未到達)だった。治療関連有害事象(treatment related AEs, TRAEs)は97.4%、grade3以上のTRAEは45.7%の患者に認められた。grade5(死亡)に至るTRAEは2人、治療中止を余儀なくされるTRAEは8人に認められた。25%以上と高頻度に認められたTRAE(全グレード)は下痢(62.9%)、嘔気(62.1%)、嘔吐(47.4%)、倦怠感(40.5%)、ALT / AST上昇(27.6% / 25%)、血中クレアチニン値上昇(25.9%)だった。grade 3 / 4で5%以上と高頻度に認められたTRAEはリパーゼ上昇(6%)、貧血(5.2%)だった。

 

結論: 

 治療歴のあるKRAS G12C変異陽性非小細胞肺がん患者に対し、adagrasibは忍容可能な毒性プロファイルを示し、有望な効果を示した。同様の患者集団を対象として、adagrasib単剤療法とドセタキセル単剤療法を比較する第III相試験が進行中である。

 

 

 



 Adagrasib in Non–Small-Cell Lung Cancer Harboring a KRASG12C Mutation

 

Pasi A. Jänne et al.
N Engl J Med 2022
DOI: 10.1056/NEJMoa2204619

 

背景:

 KRAS G12C阻害薬であるadagrasibは、KRAS G12C変異に由来する蛋白に非可逆的かつ選択的に結合し、本蛋白を非活性状態に保つ。adagrasibは第I-II相試験から成るKRYSTAL-1試験の第I-Ib相部分において、忍容可能な毒性プロファイルと臨床的有用性を示した。

 

方法:

 薬事承認を目指した第II相コホートにおいて、プラチナ併用化学療法と抗PD-1 / PD-L1阻害薬療法の治療歴があるKRAS G12C変異陽性非小細胞肺がん患者を対象に、adagrasib 600mgを1日2回服用する治療について評価した。主要評価項目は独立委員会判定による奏効割合とした。副次評価横目には奏効持続期間、無増悪生存期間、全生存期間、安全性を含めた。

 

結果:

 2021年10月15日までに、総計116人のKRAS G12C陽性非小細胞肺がん患者がプロトコール治療を受けた(追跡期間中央値は12.9ヶ月だった)。対象者のうち98.3%は化学療法と免疫チェックポイント阻害薬療法の治療を施行済みだった。測定可能病変を有する112に人の患者のうち、48人(42.9%)で奏効が確認された。奏効持続期間中央値は8.5ヶ月(95%信頼区間6.2-13.8)、無増悪生存期間中央値は6.5ヶ月(95%信頼区間4.7-8.4)だった。2022年1月15日までの追跡期間(追跡期間中央値は15.6ヶ月)において、生存期間中央値は12.6ヶ月(95%信頼区間9.2-19.2)だった。既に治療され、安定した状態にある中枢神経系転移を合併した33人の患者において、頭蓋内奏効割合は33.3%(95%信頼区間18.0-51.8)だった。治療関連有害事象は全体の97.4%に認められ、grade 1 / 2の患者は52.6%、grade 3以上の患者は44.8%に上り、うち2人は有害事象により死亡していた。治療中止に至ったのは全体の6.9%だった。

 

結論:

 過去に治療歴のあるKRAS G12C陽性非小細胞肺がん患者に対し、adagrasibは臨床的有用性を示し、新規の有害事象は認めなかった。