・第II相BTCRC LUN 16-081試験・・・III期非小細胞肺がんに対する化学放射線療法後の複合免疫療法

 冒頭に掲げたのは、私の母の胸部レントゲン写真です。

 1枚目は放射線肺臓炎発症前、2枚目は放射線肺臓炎発症後です。

 2枚目の写真では左肺門部から心陰影に隠れた左肺下葉にかけて放射線肺臓炎が出現しており、左横隔膜の不明瞭化や左肋骨横隔膜下区の鈍化(=左胸水貯留疑い)の所見が出現しています。

 

 母には左乳がんの既往があり、乳腺部分切除+術後放射線治療を受けていました。

 その後、アロマターゼ阻害薬による術後補助薬物療法を行い、約10年無再発生存してやれやれと思っていたところ、新たに縦郭リンパ節転移を伴う左下葉原発の局所進行肺腺がんが発生しました。

 当初は自分で診療するつもりだったのですが、頭ではわかっていても、実の母親となるとどうしても冷静な臨床判断ができません。

 途中で白旗を挙げて、信頼する医師と医療機関に診療を委ねました。

 母は70代後半、後期高齢者です。

 想像を超える速度でリンパ節転移が進んでいましたが、左乳がん治療時の放射線照射野となるべく重複しないように同時併用化学放射線療法をしていただき、デュルバルマブ維持療法に持ち込む予定でした。

 しかし、デュルバルマブ開始前の評価で右側頸部の新規リンパ節転移が発覚します。

 照射野外の新規リンパ節転移に見舞われ、病勢進行の判断となり、率直に言って万事休すと感じました。

 担当医からは治癒不能の病態に対する初回治療として、以下を提案されました。

1)ナブパクリタキセル単剤

2)ニボルマブ+イピリムマブ併用

3)S-1単剤

 担当医にとっても2)の臨床適用は初めての経験だったようですが、せっかく化学放射線療法適用後でがん特異抗原が照射野の病巣から放出されているはずで、アブスコパル効果を狙わない手はない、と判断し、2)を行うことにしました。

 結局、2枚目のレントゲン写真のように放射線肺臓炎を発症し、ニボルマブは2回、イピリムマブはわずかに1回投与したきりで毒性中止(中断)となりましたが、幸いにもそれから1年以上、完全寛解の状態を維持しています。

 母が受けた治療は本報告のB群に相当する内容で、無増悪生存期間中央値25.4ヶ月、18ヶ月無増悪生存割合67%、2年生存割合82.8%というデータはとても参考になりました。

 

 

 

Consolidation nivolumab plus ipilimumab or nivolumab alone following concurrent chemoradiation for patients with unresectable stage III non-small cell lung cancer:  BTCRC LUN 16-081.

 

Greg Andrew Durm et al.
2022 ASCO Annual Meeting abst.#8509
DOI: 10.1200/JCO.2022.40.16_suppl.8509

 

背景:

 PACIFIC試験では、切除不能III期非小細胞肺がんに対する同時併用化学放射線療法(chemoradiation, CRT)後のPD-(L)1阻害による1年間の地固め療法が生存期間(overall survival, OS)を延長することが示された。免疫チェックポイント阻害薬による地固め療法の継続期間としてどの程度が最適なのかはわかっていない。進行非小細胞肺がんを対象とした研究で、PD-(L)1とCTLA-4の共阻害が化学療法単独よりも生存期間を延長することが示された。今回の臨床試験では、切除不能III期非小細胞肺がん患者を対象に、CRT後のニボルマブ(N)単剤地固め療法、あるいはN+イピリムマブ(IPI)併用療法を最長6ヶ月継続することの有用性を検証した。

 

方法:

 本試験は多施設共同ランダム化第II相試験であり、切除不能IIIA / IIIB期非小細胞肺がん患者105人を対象とした。全ての患者がCRTを受けたのちに試験登録され、1:1の割合でA群(N 480mgを4週間隔で最長24週間投与)とB群(N 3mg/kgを2週間隔で、IPI 1mg/kgを6週間隔で、最長24週間投与)に割り付けた。主要評価項目はCRT単独治療のヒストリカルコントロールデータと比較してのA群の18ヶ月無増悪生存割合(18-month PFS, 30%)とPACIFICレジメンのヒストリカルコントロールデータと比較してのB群の18-month PFS(44%)とした。副次評価項目にはOSと安全性を含めた。

 

結果:

 2017年09月から2021年04月までの間に、105人の患者がランダム割付された(A群54人、B群51人)。以下、(A群 / B群)と表記する。年齢中央値(65 / 63)、男性(44.4% / 56.9%)、stage IIIA(55.6% / 56.9%)、stage IIIB(44.4% / 43.1%)、非扁平上皮がん(57.4% / 54.9%)、扁平上皮がん(42.6% / 45.1%)。プロトコール治療を完遂した患者は(70.4% / 56.9%)。追跡期間中央値は(24.5ヶ月 / 24.1ヶ月)。18-month PFSはA群で62.3%(p<0.1)、B群で67%(p<0.1)、PFS中央値は(25.8ヶ月 / 25.4ヶ月)だった。OS中央値は両群とも未到達で、18-month OSは(82.1% / 85.5%)、24-month OSは(76.6% / 82.8%)だった。治療関連有害事象は(72.2% / 80.4%)、grade3以上の有害事象は(38.9% / 52.9%)だった。Grade5の有害事象は各群1件ずつ認めた(A群ではCoVID-19が1人、B群では心停止が1人)。grade2以上の肺臓炎は(12人(22.2%) / 15人(29.4%))で認め、うちgrade3以上は(5人(9.3%) / 8人(15.7%))だった。10%以上の頻度で認められた肺臓炎以外の有害事象は、A群では倦怠感(31.5%)、皮疹(16.7%)、呼吸困難(14.8%)、甲状腺機能低下症(13%)で、B群では倦怠感(31.4%)、下痢(19.6%)、呼吸困難(19.6%)、掻痒(17.7%)、甲状腺機能低下症(15.7%)、皮疹(15.7%)、関節痛(11.8%)、嘔気(11.8%)だった。

 

結論:

 切除不能III期非小細胞肺がんに対するCRTに引き続くN単剤やN+IPI併用での地固め療法は、治療期間を6ヶ月に短縮したにもかかわらず、ヒストリカルコントロールと比べて18-month PFSを改善した。OSに関するデータはまだ不十分だが、過去の地固め療法のデータと比較しても18-month OSや24-month OSは良好だった。N単剤、N+IPI併用療法の有害事象はいずれも既報と同様だったが、N+IPI併用療法はより毒性が高かった。

 

 

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