・最近の出来事

 相変わらず、新型コロナウイルス感染症対応に翻弄される毎日です。

 私立病院である私の職場ですらこうなので、公的医療機関にお勤めで新型コロナウイルス感染症対応を最前線でなさっている呼吸器内科の先生方は、他疾患も併せて診るのに本当にご苦労されているのではないかと思います。

 当院では、新型コロナウイルス感染症の患者さんは、基本的に所轄の保健所の指示のもとに入院して来られます。

 最近では、本当に重症化リスクの高い方に限られます。

 私が担当している患者さんたちは、90歳前後の方々ばかりです。

 そのため、隔離解除期間が明けてもすんなり退院できず、一般病棟で長期にわたって全身状態の改善に努めなければならない方がほとんどです。

 臀部に難治性の褥瘡ができた、食事がとれない、腎盂腎炎を併発した、家族の受け入れ態勢が整わない、などなど。

 隔離解除後に不整脈や急性心不全で突然死した、といった方もいらっしゃいますが、おそらくこうした方々は新型コロナウイルス感染症による死亡者数にはカウントされていないでしょうから、新型コロナウイルス感染症関連死としての死亡者数は公表されている死亡者数の数倍はいるのではないかと想像します。

 新型コロナウイルス対策と社会経済活動維持の両立が大切なことは理解しています。

 しかし、その両立には相応の犠牲者を伴うこともまた、肝に銘じるべきだと思います。

 

 そんなわけで、最近はすっかり頭の中が新型コロナウイルス診療と一般呼吸器内科診療に占領されていて、肺がん診療に思いを馳せる余裕が失われていました。

 最近になって肺がんに関連した出来事が身の回りで増えてきたので、少し書き残しておいて、後日掘り下げます。

 

・3年ぶりになんちゃって人間ドックをした

 自分自身の体のメンテナンスのために、先日3年ぶりに各種検査をしました。

 下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)のために、前日から仕込み作業があります。

 前日の仕事を終えたら豆腐とそうめんしか食べられません。

 当日は5時に起きて、約2リットルの下剤を1時間程度で飲み干します。

 10回くらい下痢をして、最後の方は肛門からおしっこをするような感覚でした。

 血液検査:問題なし

 CT:もともとあった左肺のすりガラス状結節影は、3年前と比べて変化なし

 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):相変わらず喉の(嘔吐)反射が強くてきつい思いをしましたが、検査結果自体は問題なし

 下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ):盲腸に小さなポリープが見つかって、そのままポリープ切除術を受けました。ポリープ周囲に生理食塩水を注射して、電熱線のわっかをひっかけてポリープ周囲の粘膜ごと焼き切って、できた潰瘍を金属製のクリップで綴じて止血する、いわゆる内視鏡的粘膜切除術(EMR)を受けました。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)|オリンパス おなかの健康ドットコム (onaka-kenko.com)

 生理食塩水を注射するときにチクッと痛みましたが、粘膜を焼き切るときやクリップをかけるときはこれといった痛みはありませんでした。

 検査が終わって、1時間程度安静にして、そのあと座って休んでいると、急に右下腹部から右臀部、右太ももの内側にかけて痛みが来て、冷や汗や吐き気を伴うくらいに具合が悪くなりました。

 切除部の痛みに伴う迷走神経反射だったのでしょう。

 念のため入院して様子を見ましたが、その後は痛みが悪化する様子はなかったため、昼食を食べて退院しました。

 日帰りとはいえ、人生で初めての入院体験でした。

 

脳梗塞認知症合併、施設入居中の肺がん患者さんが外来にやってきた

 EGFR遺伝子変異陽性局所進行肺腺がんの患者さんです。

 手術適応なしと判断され、ご家族と相談の結果オシメルチニブを一時期服用していたのですが、QT延長や徐脈性不整脈が顕著になったため中止し、現在は経過観察しています。

 幸い緩やかな経過で落ち着いてくれています。

 

・大腿骨頸部骨折後、進行肺がん合併が疑われる患者さんが転院してきた

 数年前から肺がんが疑われる病巣があるものの、本人・ご家族の希望で経過観察のみされている方が、最近ご自宅で転んで大腿骨頸部骨折を起こしました。

 手術後のリハビリ目的で転院して来られました。

 肺の方はと言えば、両肺多発転移、胸膜播種、胸水貯留ありで、明らかに進行期の肺がんです。

 治療するかどうかはともかくとして、同意が得られたらせめて胸水穿刺くらいはして、きちんと診断をつけておきたいと思います。

 分子標的薬の適応があれば随分人生が変わってきます。

 肺の治療をしなければ、リハビリから終末期医療に舵を切らなければならない可能性がありますので、油断できません。

 

・早期肺がんが疑われる患者さんが、他院で問題なしと言われて帰ってきた

 明らかに増大傾向にあるすりガラス状結節影の患者さんを、手術を前提に他院に紹介したところ、肺癌の可能性は0、手術はおろか経過観察の必要もなしと説明されて帰ってきたとのことで、他の内科医師から相談を受けました。

 CT画像を見せてもらったところ、全体がすりガラス状の10mm強程度の大きさの結節影なので悪性度は低そうですが、わずかながら胸膜引き込み像を伴っています。

 すぐに手術、とまでは言いませんが、経過観察は必要そうです。

 いったん外来に来ていただいて、患者さんと善後策を話し合うことにしました。

 

・早期肺癌が疑われる患者さんを、他院に紹介してほしいと頼まれた

 健康診断で肝機能障害を指摘された患者さんのCTを撮影したところ、たまたま一緒に調べた胸部CTですりガラス状結節影を認めた、とのことで、他の内科医師から相談を受けました。

 CT画像を見せてもらったところ、上記の患者さんと似たような影ですが、より胸膜引き込み像が強く、中心部の充実性部分もわずかながら見受けられます。

 いったん外来に来ていただいて、患者さんと善後策を話し合うことにしました。

 手術を依頼するにしても、紹介先をよく考えなければならないのは言うまでもありません。

 

・局所進行肺腺がんに対し他院で手術を受けた患者さんが、多発肺転移再発したとのことで相談を受けた

 根治切除+術後化学療法を受けた局所進行肺腺がんの患者さん、最近になって多発肺転移による術後再発が見つかったとのことで相談を受けました。

 術後検査でEGFR遺伝子変異陽性肺がんであることが分かっていた方なので、まずはEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を軸とした治療を組み立てて、その上で必要なら定位放射線治療を組み合わせることを考えてはどうでしょうかとお答えしました。

 

・義父のRET融合遺伝子陽性進行肺腺がんの治療経過

 2021年12月にセルペルカチニブを開始してから約8ヶ月、過敏反応をはじめとする有害事象に悩まされはしたものの、これまで8ヶ月は無増悪状態が維持できているようです。

 

・叔父の膵がん治療経過

 玉虫色の診断をよすがに、術前ジェムシタビン+S-1併用化学療法を2コース終了しました。

 体重が健常時の2/3くらいまで減少した印象で、本当にやせてしまいました。

 手術までたどり着けるかどうか、手術ができたとしても自立した生活を送れるのかどうか心配しています。

 

・母の進行肺腺がんの治療経過

 分割カルボプラチン+根治的胸部放射線照射を行うも頸部リンパ節転移で病勢進行、その後ニボルマブ+イピリムマブ併用療法を導入するもわずか2コースで放射線肺臓炎が悪化して治療中止となりました。

 しかし、その後完全寛解状態となり、1年4か月ほど経過しましたが、これまでのところ寛解を維持しています。

 とはいえ、いつ再燃してもおかしくありません。

 外来通院時に送り迎えをしてくれていた叔父が上記の顛末になってしまったので、最近では私が通院時に付き添うことにしています。

 

・・・とまあ、それなりにいろいろと起こっています。

 

 近々、EGFR遺伝子変異陽性原発肺腺がん術後再発でオシメルチニブを服用していた方が、最近発症した脳梗塞で食事もままならなくなったとのことで、リハビリ目的で転院して来られます。

 オシメルチニブ服用中のために回復期リハビリ病棟を利用することができず、最長2ヶ月の短期リハビリに留まります。

 オシメルチニブを中止すれば最長6ヶ月リハビリができるものの肺がんは進行するし、かといってオシメルチニブを継続すれば短期間しかリハビリが出来ずに社会復帰は絶望的だし・・・。

 そもそもこの状況でオシメルチニブを継続服用することが適切なのかどうかもわからないし、かといってこれまで定期服用していたオシメルチニブを脳梗塞を起こしたからという理由で中止することが倫理的に許されるのかどうかもわからないし・・・。

 

 悩みは尽きません。