・CheckMate227試験 日本人サブグループ5年間追跡調査結果

 先日少しだけ取り上げたCheckMate 227試験の5年間追跡調査後の日本人サブグループ解析について、改めて取り上げます。

 CheckMate 227試験は、PD-L1発現状態別にいろいろとてんこ盛りで検証しようと極めて複雑な臨床試験デザインが組まれ、しかも途中で大きなプロトコール改訂が行われたため、いまだになにをどのように検証したかったのかよく分からない試験です。

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 それでも、進行非小細胞肺がん患者さんに対するニボルマブ+イピリムマブ併用療法の意義を確立した重要な試験であることは間違いありません。

 PD-L1発現状態によらず、進行非小細胞肺がん患者さんのがん薬物療法において殺細胞性抗腫瘍薬を用いない治療選択肢を提示し、かつ比類ない高い有効性を示したという点で、本当に画期的な結果を残したと言えます。

 結果が出るまでの経過はともかくとして、検証したいコンセプトを粘り強い臨床試験運営でやり遂げることの大切さを示した点が、本試験の最も示唆的な部分のように思います。

 本試験の追跡調査結果は過去にも何度か取り上げて記事にしています。

 

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 2022年の日本肺癌学会総会で報告された今回の結果は、日本人患者集団での5年追跡調査結果ということで、いよいよ5年生存割合が明らかとなりました。

 CheckMate 9LA試験のそれと比較しながらデータを見ていきますので、以下の記事も参考にしてください。

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 それでは始めます。

 患者背景です。

 全体集団1,166人のうち日本人集団は143人で、日本人のプレゼンスは12%強です。

 CheckMate9LA試験では7%程度でしたから、本試験の方がより多く日本人が組み入られています。

 全体集団と比べて、65歳以上の高齢者、男性、PS0、非扁平上皮がんがやや多いようです。

 9LA試験でもそうでしたが、喫煙歴のある患者さんが9割弱を占めており、経済合理性を考えれば世の中からたばこを無くす方ががん薬物療法開発より遥かに意義深いように思えてなりません。

 

 続いて、プロトコール治療終了後の後治療の内訳です。

 全体集団と比較して、日本人集団では後治療を受けた患者さんの割合が多く、Nivo+Ipi群では78%、化学療法群では88%に上ります。

 CheckMate 9LA試験の併用群と比較して、本試験ではNivo+Ipi群で放射線治療を受けた患者さんが多いようです(18% vs 42%)。

 そもそも患者数が少ないし、別の臨床試験なんだから比較しても意味がないと言われそうですが、化学療法の上乗せにより姑息照射を回避できるのかもしれない、という見方はできそうです。

 Nivo+Ipi群で放射線治療を受けた方のうち、治療開始3ヶ月以内に受けた人が多かった、等の知見があれば、よりそれっぽく聞こえます。

 化学療法群では、80%強の患者さんが後治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用しています。

 CheckMate 9LA試験でも、化学療法群の患者さんのうち75%は後治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用していました。

 これにより、化学療法群でも一部の患者さんが長期生存しそうなことは容易に想像できます。
 日本人患者集団では、Nivo+Ipi群の21%、化学療法群の31%が後治療で分子標的薬を使用しています。

 

 PD-L1≧1%の患者集団における生存期間解析結果です。

 日本人患者集団の生存期間中央値はNivo+Ipi群で58.3ヶ月、化学療法群で28.9ヶ月、5年生存割合はNivo+Ipi群で46%、化学療法群で34%です。

 絶句してしまうほど素晴らしい成績です。

 

 続いて、PD-L1<1%の患者集団における生存期間解析結果です。

 日本人患者集団の生存期間中央値はNivo+Ipi群で41.5ヶ月、化学療法群で18.2ヶ月、5年生存割合はNivo+Ipi群で36%、化学療法群で19%です。

 これも十分に優れたデータです。

 5年生存割合だけをまとめると、PD-L1≧1%ならNivo+Ipi併用で46%、化学療法で34%、PD-L1<1%ならNivo+Ipi併用で36%、化学療法で19%です。

 Nivo+Ipi群の5年生存割合の高さもさることながら、化学療法だけで19-34%という高い5年生存割合は到底考えにくく、後治療の免疫チェックポイント阻害薬の影響がいかに大きいかを思わせます。

 

 PD-L1≧1%の患者集団における無増悪生存期間解析結果です。

 まず目を引くのは、日本人患者集団におけるNivo+Ipi群のデータです。

 無増悪生存期間中央値24.0ヶ月、5年無増悪生存割合33%は明らかに図抜けています。

 しかも3年無増悪(36%)を達成出来たら、90%以上の確率(0.33÷0.36=0.92)で5年無増悪も約束され、免疫チェックポイント阻害薬の特性が顕著に現れた結果と言えます。 

 

 一方こちらは、PD-L1<1%の患者集団における無増悪生存期間解析結果です。

 化学療法群よりもNivo+Ipi群が優れているのは間違いなさそうですが、PD-L1≧1%の患者集団ほどのインパクトはありません。 

 それでも、3年無増悪生存を達成すれば5年無増悪まで高率に期待できる、という傾向はPD-L1≧1%の患者集団同様に認められます。

 

 腫瘍縮小効果に関するデータも同様で、PD-L1≧1%の患者集団におけるNivo+Ipi群の有効性が際立っています。

 PD-L1<1%の患者集団においても、奏効割合は化学療法群とさほど違いはないものの、その持続性についてはNivo+Ipi群が遥かに優れています。

 

 本試験では、無治療期間解析という興味深い試みがなされています。

 Nivo+Ipi併用療法の効果持続性を、プロトコール治療終了後に後治療開始が必要となるまでの期間(=無治療期間)で評価しています。

 PD-L1≧1%の患者集団におけるNivo+Ipi群の無治療期間が長いことは言うまでもないのですが、PD-L1<1%の患者集団においても、ごく一部の患者さんでは無治療期間を長くとれているようです。

 

 今度は、5年生存を達成した患者さんに限ったデータ解析です。

 まずは日本人集団全体としての5年生存割合を確認しておきます。

 Nivo+Ipi群で27÷66=41%、化学療法群で20÷77=26%です。

 Nivo+Ipi群の5人に2人、化学療法群の4人に1人は5年生存を達成しています。

 進行期非小細胞肺がん患者さんが5年生存するなど夢のまた夢だった20世紀には想像すらできなかったデータです。

 とはいえ、5年生存したら肺がんとは無縁の生活が送れる、というわけでもないようで、5年無増悪生存割合はNivo+Ipi群52%、化学療法群16%に留まっています。

 裏を返せば、Nivo+Ipi群の48%、化学療法群の84%は5年以内に病勢進行を経験し、肺がんと付き合いながら5年生存を達成したということです。

 治療を提供する側も、(特に高齢者ほど)長期的な視野に立って治療計画を組み立てなければならないということでしょうね。

 

 これもユニークな解析です。

 有害事象(≒副作用)によるプロトコール治療中止を余儀なくされた患者さんに関する有効性解析です。

 Nivo+Ipi群における優れた有効性が際立っています。

 5年生存割合58%、プロトコール治療中止後無増悪生存期間中央値54.3ヶ月、奏効割合65%、プロトコール治療中止後の3年奏効持続割合79%、プロトコール治療中止後の無治療期間中央値28.2ヶ月(≒2年半)、3年無治療割合47%、どれをとってもほかの薬物療法ではちょっと考えられない数字です。

 ドライバー遺伝子変異を有する進行非小細胞肺がん患者さんにおいて、主力の分子標的薬で治療継続不能な副作用に見舞われるとその後の治療が大きく躓いてしまいますが、Nivo+Ipi併用療法ではむしろ有害事象が出現すると喜ぶべきなのかもしれません。

 それだけに、有害事象発生時の迅速・適切な対応が治療成績に大きく影響します。

 

 日本人集団のNivo+Ipi併用療法群に限った免疫関連有害事象解析結果です。

 興味深いことに、より毒性が強そうなCheckMate 9LA試験と比較して、内分泌系・非内分泌系の有害事象共にGrade 3/4の重篤なものが目立つことです。

 Nivo+Ipi併用療法とNivo+Ipi+化学療法併用療法を治療内容で比較した場合、後者には制吐目的で治療初期に比較的高用量のステロイドが使用されます。

 プラチナ併用化学療法を上乗せしているために高い有効性と高い毒性が見込まれるCheckMate 9LA試験の治療ですが、案に相違してCheckMate 227試験の治療の方が有効性、毒性ともに高いのは、ステロイドが隠れた役割を果たしているせいかもしれません。

 

 最後に要点をまとめます。

・CheckMate 227試験における日本人患者集団の5年生存割合は、Nivo+Ipi群41%、化学療法群26%だった

・PD-L1≧1%の日本人患者集団の5年生存割合は、Nivo+Ipi群46%、化学療法群34%だった

・PD-L1<1%の日本人患者集団の5年生存割合は、Nivo+Ipi群36%、化学療法群19%だった

・Nivo+Ipi群で5年生存した日本人患者集団では、5年経過時点で59%が後治療を受けなくて済んだ

・Nivo+Ipi群で副作用によりプロトコール治療を中断した日本人患者集団において、治療が奏効した患者の79%は治療中断後も腫瘍縮小効果が続いていた