・限局性肺小細胞がんに加速過分割照射はまだ必要か?

 前回の記事では、限局型肺小細胞がんに対するシスプラチン・エトポシド併用療法+同時併用加速過分割胸部放射線照射に関するエビデンスをおさらいしました。

 それを踏まえての、今回の報告です。

 限局型肺小細胞がんに対してシスプラチン・エトポシド併用療法に加える胸部放射線照射は、変わらず1.5Gy×2回/日を15回の加速過分割照射がベストなのか、あるいは1日1回、総線量70Gyの高線量照射の方が優れるのか、その検証を目指した試験です。

 総線量70Gyの1日1回高線量照射も忍容性の観点からは適用可能と、1998年の論文で既に報告されており(Choi et al., J Clin Oncol 1998;16:3528-36)、今回は総線量70Gy1日1回高線量照射(70GyTRT)が45Gy加速過分割照射(45GyHF-ART)よりも治療効果が優れるのではないかとの仮説を検証しました。

 患者集積に非常に苦労している様子がうかがわれ、2008年03月から患者組み入れを開始し、2019年12月にようやく患者集積が終了しました。

 限局型肺小細胞がんは、肺がんを扱う医師にとっても遭遇することが比較的稀(ざっと原発性肺がん全体の5%未満)で、しかも正確・迅速な診断が求められるため、臨床試験の企画立案・患者集積が極めて難しいです。

 実に11年近くもの間、息長く継続されてきた臨床試験ですが、結論から言えば70GyTRTは優越性を証明することはできず、加速過分割照射の標準治療としての位置づけは揺らぎませんでした。

 しかし、70GyTRTによる生存期間中央値は30.1ヶ月、5年生存割合は32%と優れた成績を残しており、この結果を以てなし崩し的に70GyTRTを実地臨床に適用する動きが出てくるかもしれません。最後の結論部分は、言い得て妙です。

 

 

 

High-Dose Once-Daily Thoracic Radiotherapy in Limited-Stage Small-Cell Lung Cancer: CALGB 30610 (Alliance)/RTOG 0538

 

Jeffrey Bogart et al.
J Clin Oncol. 2023 Jan 9;JCO2201359.
DOI: 10.1200/JCO.22.01359 

 

目的:

 限局型小細胞肺がんに対する根治的胸部放射線治療として、1日2回、総線量45Gyの加速過分割照射が標準治療とされているが、実地臨床ではほとんどの患者がより高線量の1日1回照射を受けている。総線量を挙げることにより治療成績が向上するかどうかは、前向き臨床試験で検証されるべき課題として残っている。

 

方法:

 今回の第III相CALGB30610/RTOG0538試験(ClinicalTrials.gov identifier: NCT00632853)は、二段階の臨床試験としてデザインされた。

 第一段階では、限局性小細胞肺がん患者を以下の三群に割り付けた。

1)1日2回、総線量45Gyの加速過分割照射群(45群)

2)1日1回、総線量70Gyの通常照射群(70群)

3)1日1回、総線量61.2Gyの通常照射+追加照射群(61.2群)

 照射は、併用する計4コースの化学療法の1コース目もしくは2コース目にあわせて開始することとした。

 第二段階では、中間解析における有害事象分析の結果を受けて61.2群への患者集積を中止し、45群と70群の2群に絞って臨床所見を継続した。主要評価項目はITT解析における全生存期間(OS)とした。

 

結果:

 2008年03月15日から患者集積を開始し、2019年12月1日に患者集積を終えた。45Gy群、70Gy群に無作為割り付けされた全ての患者を解析対象とした(45Gy群:313人、70Gy群:325人)。追跡期間中央値4.7ヶ月の時点で、70Gy群におけるOS改善効果は認められなかった(ハザード比0.94、95%信頼区間0.76-1.17、p=0.594)。生存期間中央値は45Gy群で28.5ヶ月、70Gy群で30.1ヶ月、5年生存割合は45Gy群で29%、70Gy群で32%だった。毒性は忍容可能で、食道毒性や肺毒性といった重篤な有害事象の頻度は両群間で同様だった。

 

結論:

 1日2回、総線量45Gyの加速過分割照射は依然として標準治療としての地位を保ったが、本試験の結果は限局性小細胞肺がん患者に対する胸部放射線治療に関して有益なエビデンスを残した。