・NEOSTAR試験 第2章・・・術前イピリムマブ+ニボルマブ+プラチナ併用化学療法

 

 筍が旬を迎えていますね。

 私はいつも頂いてばかりなのですが、竹林へ筍狩りに行かれる方のお話を伺うと、毎年毎年イノシシやモグラとの争奪戦なのだとか。

 

 以前、切除可能非小細胞肺がんに対する術前ニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有効性を検証したNEOSTAR試験について取り上げました。

 

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 NEOSTAR試験は面白いコンセプトの試験、というか、試験基盤で、有望な術前免疫療法を見つけるためにいろんな治療法を複数の単施設オープンラベル第II相試験でためしてみよう、というものです。

 有望な治療を探して次の大規模臨床試験につなげていこう、というコンセプトですから、単施設で結果を出すために、たくさんの患者さんが集まってきて、新しい治療を提供できるような様々な要素(高い診療の質、マンパワー、製薬業界との太いパイプ、など)が備わっている医療機関、研究機関でないと成り立たないでしょう。

 

 世間ではCheckMate-816試験で立証された術前ニボルマブ+プラチナ併用化学療法のインパクトに沸き立っていますが、今回はそこにさらにイピリムマブを加えたら、もっといいんじゃないか、という話題です。

 だんだんと、有効性と(経済面を含めた)毒性のバランスをどこでとるのか、という話に向かっていきそうです。

 有効性を立証し、実臨床で利用可能な状態までもっていって、実際に活用するかどうかを個別に判断する、ということになるでしょうね。

 

 

 

 

Neoadjuvant chemotherapy plus nivolumab with or without ipilimumab in operable non-small cell lung cancer: the phase 2 platform NEOSTAR trial

 

Tina Cascone et al.
Nat Med. 2023 Mar;29(3):593-604. 
doi: 10.1038/s41591-022-02189-0. Epub 2023 Mar 16.

 

 術前イピリムマブ+ニボルマブ併用療法(Ipi+Nivo)と術前ニボルマブ+化学療法(Nivo+CT)はどちらも、手術可能な非小細胞肺がん患者に対して、術前化学療法単独と比べて病理学的奏効割合の改善をもたらす。一方、術前Nivo+CTにイピリムマブを上乗せすることの意義はわかっていなかった。今回は、第II相基盤臨床試験であるNEOSTAR試験において、2つの治療群についての結果と関連事項について報告する。ここでのNEOSTAR試験における2つの治療群とは、術前Nivo+CT療法と術前Ipi+Nivo+CT療法を指し、主要評価項目はMajor Pathologic Response(MPR)ー残存腫瘍細胞が病巣の10%未満と定義ーを達成した患者割合とした。MPR割合はNivo+CT群で32.1%(7/22、80%信頼区間18.7-43.1)、Ipi+Nivo+CT群で50%(11/22、80%信頼区間34.6-61.1)だった。両群ともに主要評価項目の有意水準を満たした。EGFR / ALK遺伝子異常のない患者のみに対象を絞ると、MPR割合はNivo+CT群で41.2%(7/17)、Ipi+Nivo+CT群で62.5%(10/16)だった。有害事象は推定の範囲内だった。探索的解析として単細胞シーケンスやマルチプラットフォーム免疫プロファイリングも行ったが、エフェクターモリーCD8細胞、B細胞、骨髄系細胞や腫瘍組織内三次リンパ様構造(tertiary lymphoid structures, TLS)におけるマーカーといった、Ipi+Nivo+CT群でより増加していた免疫細胞の分画や表現型解析ほどには治療効果予測に役立たなかった。MPRを達成した患者集団における糞便中の腸内細菌叢を解析したところ、Akkermansia属のような善玉菌が優勢で、起炎性あるいは病原性微生物は減少していた。術前Ipi+Nivo+CT療法は病理学的奏効を促進させることが明らかになったため、切除可能な非小細胞肺がん患者における研究をさらに進めることが求められる。

 

 

Neoadjuvant Dual Immunotherapy Plus Chemotherapy Improves Patient Outcomes in Operable Lung Cancer

 

The ASCO Post, 03/19/2023

 

 第II相NEOSTAR試験において、早期の切除可能非小細胞肺がんに対し、術前補助療法としてニボルマブ+プラチナ併用化学療法にイピリムマブを上乗せすると、半数の患者がMajor Pathologic Response(MPR)を達成することがわかった。免疫チェックポイント阻害薬を含む術前補助療法を行うことで非小細胞肺がん患者の残存腫瘍細胞を減らし、治療成績を改善する更なる知見が加わった。この治療はまた、免疫担当細胞の腫瘍組織浸潤増加や、望ましい腸内細菌叢組成をもたらすこともわかった。

 今回は、術前療法としてのニボルマブ+化学療法(ダブルコンボ)とイピリムマブ+ニボルマブ+化学療法(トリプルコンボ)の2群について報告された。両治療群ともに、事前に設定された主要評価項目閾値(各群6人以上がMPRを達成する)を達成した。過去の報告に基づき、MPRは生存変数(全生存期間や無増悪生存期間)の代替指標の候補の一つと目されていた。

 intention-to-treat(ITT)集団に基づいて解析したところ、MPR割合はトリプルコンボで50%、ダブルコンボで32.1%だった。両群ともに、術前補助化学療法のhistorical controlであるMPR15%を上回っていた。

 2018年12月から2020年12月にかけて、外科切除可能なIB-IIIA期の非小細胞肺がん患者を対象として、ダブルコンボ群、トリプルコンボ群それぞれに22人ずつが割り付けられた。ダブルコンボ群では86%が白人、14%がアジア人で、45%が男性だった。トリプルコンボ群では82%が白人、5%がアジア人、14%が黒人で、68%が男性だった。

 

 トリプルコンボ群では、外科切除時の残存腫瘍細胞割合の中央値は4.5%で、ダブルコンボ群では50.5%だった。トリプルコンボ群では、MPRを達成した全患者で、ダブルコンボ群ではMPRを達成した患者の内86%で、外科切除時の残存腫瘍細胞割合は5%未満だった。ダブルコンボ群の全患者、トリプルコンボ群の91%の患者が外科切除を受けた。 

 

 トリプルコンボ群では、CD8陽性T細胞やB細胞といった、腫瘍組織に浸潤したTリンパ球や、腫瘍組織内三次リンパ様構造と呼ばれる特別な免疫細胞集団のマーカーが増加していた。トリプルコンボ群ではまた、免疫抑制系の細胞浸潤は減少しており、それら全てが増強された抗腫瘍反応の兆候と見えた。

 

 MPRに達した患者の腸管内細菌叢を調べたところ、肺がん、悪性黒色腫、その他のがん種において、免疫療法の有効性と関連があるとされる善玉菌が増えていることが分かった。、また、悪玉菌の増殖は抑制されていた。

 

 興味深いことに、NEOSTAR試験におけるダブルコンボ群の結果を用いて探索的検討を行ったところ、CheckMate-816試験における同様の治療群と似たような治療成績だった。CheckMate-816試験は、切除可能な非小細胞肺がん患者を対象に、術前化学療法+ニボルマブ併用療法と術前化学療法単独を比較する第III相臨床試験だった。本試験の結果を以て、米国食品医薬品局は非小細胞肺がんに対する術前療法として、術前化学療法+ニボルマブ併用療法を認可した。CheckMate816試験とNEOSTAR試験の両試験は同様に、術前化学療法にニボルマブを上乗せすることでMPRとEFSが改善することを示した。この両試験から得られた結果の類似性は、術前化学療法の有効性を迅速に評価するための実行可能な戦略をNEOSTAR試験という基盤研究が指し示すかもしれない、ということを示唆している。

 

 今回得られた結果から、非小細胞肺がんの術前薬物療法としてニボルマブ+化学療法に抗CTLA-4抗体を上乗せすることで治療効果が向上することが裏付けられ、更なる検証を進める価値がある。