悪性胸膜中皮腫とベバシツマブ

 昨年の米国臨床腫瘍学会で発表された、悪性胸膜中皮腫に対するシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシツマブ併用療法の報告(IFCT-GFPC 0701試験)が、The Lancet誌に発表されていました。

 関連記事は以下に記してありますが、改めて論文の要約を以下に記します。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e803955.html

Bevacizumab for newly diagnosed pleural mesothelioma in the Mesothelioma Avastin Cisplatin Pemetrexed Study (MAPS): a randomised, controlled, open-label, phase 3 trial

Prof Gérard Zalcman, Prof Julien Mazieres, MD, Jacques Margery, MD, Laurent Greillier, MD, Clarisse Audigier-Valette, MD, Prof Denis Moro-Sibilot, MD, Olivier Molinier, MD, Romain Corre, MD, Isabelle Monnet, MD, Valérie Gounant, MD, Frédéric Rivière, MD, Henri Janicot, MD, Radj Gervais, MD, Chrystèle Locher, MD, Bernard Milleron, MD, Quan Tran, MSc, Marie-Paule Lebitasy, MD, Franck Morin, MSc, Christian Creveuil, PhD, Prof Jean-Jacques Parienti, PhD, Prof Arnaud Scherpereel, MD on behalf of the French Cooperative Thoracic Intergroup (IFCT)

Lancet, Published Online: 21 December 2015

背景:悪性胸膜中皮腫は悪性度の高い予後不良の疾患であり、職業的アスベスト暴露と関連している。血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)は胸膜中皮腫細胞の細胞分裂のキーとなる要素であり、VEGFを標的とした治療が効果的かもしれない。今回は、進行悪性胸膜中皮腫の初回標準治療であるシスプラチン+ペメトレキセド療法にベバシツマブを上乗せすることにより、生存期間延長に寄与するかどうかを調べることを目的とした。

方法:今回の無作為化オープンラベル第III相試験では、18歳から75歳、PS0-2、心合併症なし、少なくとも一項目のCTで評価可能な病変(胸水もしくは測定可能な胸膜病変)を有し、12週間以上の生存が見込める未治療、切除不能悪性胸膜中皮腫患者を対象に、フランス国内の73施設から患者を集積した。除外基準は、中枢神経系への転移、抗血小板療法施行中(アスピリン>325mg/日、クロピドグレル、チクロピジン、ジピリダモール)、治療量としてビタミンK阻害薬を服用中、治療量として低分子量ヘパリンを使用中、非ステロイド性消炎鎮痛薬使用中、の各項目とした。組織型(上皮型 vs 肉腫型もしくは混合型)、PS(0-1 vs 2)、登録施設、喫煙歴(非喫煙者 vs 喫煙者)を割付調整因子として、1:1の割合でシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシツマブ(PCB)群もしくはシスプラチン+ペメトレキセド群(PC群)に患者を割り付けた。シスプラチンは75mg/?、ペメトレキセドは500mg/?、ベバシツマブは15mg/kgの投与量で、21日サイクルで投与し、病勢進行もしくは忍容不能な毒性により中止となるまでは、最大6コースまで治療を行うこととした。PCB群では6コース終了後、ベバシツマブの維持投与ができることとした。主要評価項目は全生存期間で、解析はintention-to treat(実際の治療内容ごとではなく、割付時の治療群ごとに解析を行う)に基づいて行った。

結果:2008年2月13日から2014年1月5日までに、448人の患者を無作為割付した(PCB群:223人、PC群:225人)。全生存期間はPCB群において有意に延長していた(生存期間中央値はPCB群で18.8ヶ月(95%信頼区間15.9ヶ月-22.6ヶ月)、PC群で16.1ヶ月(95%信頼区間14.0ヶ月-17.9ヶ月)、ハザード比0.77(95%信頼区間0.62-0.95)、p=0.0167)。無増悪生存期間(中央値はPCB群で9.2ヶ月(8.5-10.5ヶ月)、PC群で7.3ヶ月(6.7-8.0)、ハザード比0.61(0.50-0.75)、p<0.0001)もPCB群で有意に延長していた。PCB療法が行われた222人のうち158人(71%)で、PC療法が行われた224人のうち139人(62%)でgrade 3-4の有害事象を認めた。Grade 3以上の高血圧(PCB群で23%、PC群で0%)と血栓症(PCB群で6%、PC群で1%)がPCB群で有意に多かった。

結論:予測でき、治療対応可能な有害事象と引き換えではあるが、シスプラチン+ペメトレキセド療法にベバシツマブを上乗せすることにより、悪性胸膜中皮腫患者の全生存期間が有意に改善した。

 ベバシツマブは当初から致死的合併症として喀血が取りざたされてきましたが、もともと悪性胸膜中皮腫は肺実質へ進展しない限りは喀血のリスクを考えなくてよいはずです。

 また、ベバシツマブが胸水コントロールに有効なことも、非小細胞肺癌の領域ではいくつかの報告で示されています。

 術後再発の患者さんには不向きかもしれませんが、進行期の患者さんの治療としては、我が国でも積極的に考えていい治療だと思います。

 一次治療のみならず、二次治療以降でも併用を検討してよいのではないでしょうか。