再生検は臨床試験参加への大きな壁になっている

 このところ、病勢進行後の再生検が取りざたされることが多く、私自身も興味を以て本ブログでよく取り上げています。

 病勢進行時の病状を把握するうえで意義ある取り組みであることは論を待ちませんが、技術的な問題や、今回取り上げるような臨床試験参加上の障害になっていることも事実です。

 それにしても、単施設での報告とはいいながら、再生検を義務付けられた臨床試験において、同意を得た患者さんのうち治療までたどり着いた方が4割にも満たないこと、半数の患者さんは試験参加に同意してから治療開始までに2ヶ月弱も待たされていることは、ちょっと衝撃です。裏を返せば、6割の患者さんは再生検の結果が判明するまで治療もできずに待たされており、参加できた患者さんでも半数は2ヶ月以上治療できずに待たされているということです。これでは確かに、「期待できる生命予後3ヶ月以上」ないと試験参加なんてできません。

Patients with Advanced Non?Small Cell Lung Cancer: Are Research Biopsies a Barrier to Participation in Clinical Trials?

Charles Lim, MD, Mike Sung, BSc, Frances A. Shepherd, MD, Nazanin Nouriany, RN,Magdalena Sawczak, RN, Tuhina Paul, RN, Nicole Perera-Low, RN,Andrea Foster, RN, Dianne Zawisza, RN, Ronald Feld, MD, Geoffrey Liu, MD, MSc,Natasha B. Leighl, MD, MMSc*

Journal of Thoracic Oncology Vol. 11 No. 1: 79-84

背景:非小細胞肺癌の臨床試験においては、(個別化あるいは最適化医療の時代となって、腫瘍細胞内の特定の遺伝子・蛋白変化をバイオマーカーとした分子標的薬等の臨床試験が増えたことに対応して)患者登録時に腫瘍組織サンプルや検査目的の生検検体の提出が義務付けられることが増えており、このことが試験参加を妨げる潜在的な障壁になっている。今回、進行非小細胞肺癌患者の臨床試験参加登録における検体提出義務付けが、どのような影響を及ぼしているかを調査した。

方法:プリンセス・マーガレットがんセンターにおいて、2007年1月から2015年3月までに行われた薬物療法臨床試験に関連して精査を受けた進行非小細胞肺癌患者を対象に調査した。

結果:55の臨床試験がスクリーニングされたが、38件で腫瘍組織サンプルの提出が登録時に義務付けられていた。6件では再生検が必須とされており、一方で32件では(過去の診断時の)保存されていた腫瘍サンプルでも可とされていた。のべ940回の臨床試験参加機会において、636人の患者に臨床試験参加が打診されており、一部の患者は複数の臨床試験に参加していた。治療目的の臨床試験参加を打診された機会はのべ549回だったが、実際に試験治療を受けたのはその60%だった。組織サンプル提出を義務付けない臨床試験においては、義務付けのある臨床試験に対して、より多くの患者が試験治療を受け(83% vs 55%, p<0.0001)、試験参加同意が得られてから試験治療が開始されるまでの期間もより早かった(9日後 vs 16日後、p=0.002)。同様の傾向が、保存組織サンプルでよしとする臨床試験と再生検を義務付ける臨床試験の間にも認められた(59% vs 38%、p<0.001)(14日後 vs 54日後、p<0.001)。臨床試験参加上で問題となった主な障壁は、試験参加上で必要なバイオマーカーが陰性もしくは欠如していたこと(34%)、試験参加同意の取り下げ(20%)、病状悪化もしくは患者死亡(17%)、その他の除外項目該当(15%)、生検組織検体の検体不良(10%)だった。

結論:非小細胞肺癌の臨床試験において、適格基準に該当するかどうかを判断するうえで腫瘍組織サンプル提出が義務付けられることが増えつつあるが、これは参加を阻む有意な障壁となっている。バイオマーカー検索における必要サンプルをより入手しやすいもの(細胞診検体など)まで幅を広げる、末梢血液検体で検索可能な分子マーカーを利用する、中央検査施設における検査期間を短縮する、(初回診断時の検体をルーチンで組織バンクに保管する)、(より低侵襲に)より早い段階で生検ができる手法を開発するなどの取り組みが必要だろう。