TG4010併用化学療法

 以下は、2009年に日経メディカル誌に掲載された記事を一部改変したものです。

 進行非小細胞肺癌患者さんを対象に、プラチナ併用標準化学療法に対するTG4010ワクチンの上乗せ効果を検証した結果ですが、治療効果予測因子をちゃんと評価すれば有効性が期待できそうな内容でした。

 後ほど述べるように、TG4010に関する新たな臨床試験結果が最近報告されましたが、CD16+/CD56+/CD69+陽性活性化リンパ球の話はややトーンダウンして、非扁平上皮癌の患者において有効性が期待できそうな、といった内容でした。

 腫瘍関連抗原をターゲットにした治療なので、免疫チェックポイント阻害薬のように自己免疫反応を恐れる必要はなさそうですが、無増悪生存期間延長効果は1ヶ月にも見たず、効果は限定的です。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/200904/510519.html

 

 遺伝子組み換えワクチンTG4010を、化学療法と併用で非小細胞肺癌(NSCLC)患者に投与するフェーズ2b臨床試験において、効果を予測できるバイオマーカーが明らかとなった。成果は2009年4月18日から22日にデンバーで開催された米国癌研究会議(AACR)で、フランスTransgene社のBruce Acres氏によって発表された。

 TG4010は、ワクシニアウイルス(MVA)をベクターとし、MUC1という癌抗原の遺伝子とインターロイキン2(IL2)遺伝子を組み込んだ組み換えウイルスワクチン。MVAは、抗原に対して強い免疫反応を誘導できる作用を持つことが知られている。加えて、IL2遺伝子も組み込んでいるため、特異的T細胞の反応を刺激できると考えられている。つまり、MUC1を発現している癌に対し、免疫反応を誘導できることになる。

 無作為化多施設フェーズ2b試験は、IIIB期とIV期の患者148人を対象に行われた。対照群は3週間を1サイクルとしてシスプラチン75mg/m2を1日目に、ゲムシタビン1250mg/m2を1日目と8日目に投与した。投与は、最大6サイクルまで行われた。TG4010群は同じ化学療法に加えて、TG4010を週に一度、計6週間投与し、その後はTG4010のみ3週置きに病状が増悪するまで投与した。主要評価項目は6カ月時点での無増悪生存率で、副次評価項目は全生存期間、奏効率、安全性、免疫学的なパラメーターだった。

 主要評価項目は達成され、6カ月時点の無増悪生存率は対照群が35%だったのに対して、TG4010群は44%だった。奏効率は対照群が27%で、TG4010群は43%。全生存期間中央値は対照群が10.3カ月に対して、TG4010群は10.7カ月だった。

 1日目、43日目と85日に、138人について血液を採取し解析を行った。TG4010群は、1日目の活性化ナチュラルキラー細胞数が正常値の患者(48人)の生存期間中央値(17.1カ月)の方が、高値の患者(21人)の生存期間中央値(5.3カ月)より有意に長かった。対照群では活性化ナチュラルキラー細胞数の上下によって、生存期間に差はなかった。

 また、TG4010群は、1日目に炎症関連血漿たんぱく質(sCD-54、IL-6、M-CSF)正常値の患者の生存期間中央値の方が、高値の患者の生存期間中央値よりも有意に長かった。対照群では炎症関連血漿たんぱく質の量による生存期間の有意な差はなかった。

 一方、43日目の測定で、TG4010群においては活性化T細胞数が中央値よりも多い群(28人)の生存期間中央値は17カ月以上だったのに対し、中央値よりも少ない患者(29人)では10.4カ月だった。対照群は11.3カ月と11.4カ月と差がなかった。

 また、活性化T細胞が中央値よりも多くかつインターフェロンγが検出できた患者では、TG4010群(15人)では生存期間中央値が20カ月以上だったのに対して、対照群(11人)では7.6カ月で、TG4010群でTh1機構が働いていることを示唆する結果となった。

 要点を簡単にまとめると、進行期非小細胞肺癌患者の初回シスプラチン+ジェムシタビン併用化学療法にTG4010を加えることにより、

・6ヶ月無増悪生存割合が35%から44%に改善する

・奏効割合が27%から43%に改善する

・全生存期間中央値は10.3ヶ月と10.7ヶ月であまりかわらない。

が判明し、さらにTG4010を投与された患者群で治療開始前効果予測因子を解析したところ、治療開始前の末梢血中活性化ナチュラルキラー細胞数が正常範囲内であること、治療開始前の血清中炎症関連たんぱく質(sCD54、IL-6、M-CSF)が正常範囲内であること、が認められた、ということです。

 続いて、今回の報告です。

TG4010 immunotherapy and first-line chemotherapy for advanced non-small-cell lung cancer (TIME): results from the phase 2b part of a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2b/3 trial

Quoix et al.

Lancet Oncol. Volume 17, No. 2, p212?223, February 2016

 MUC1は非小細胞肺癌やその他の多くの固形癌で認められる腫瘍関連抗原である。これまでの研究により、治療開始前のCD16+/CD56+/CD69+活性化ナチュラルキラー細胞数が非小細胞肺癌に対するTG4010併用化学療法の効果と関連していそうなことがわかっている。今回示すphase IIb試験の目的はこのCD16+/CD56+/CD69+活性化リンパ球数と治療効果の関連性を評価することだった。

 今回の二重盲見試験は9ヶ国、45の参加施設で2012年4月から2014年9月まで患者登録が行われた。EGFR遺伝子変異陰性で、腫瘍細胞の50%以上がMUC1を発現している未治療IV期非小細胞肺癌患者222人を対照とし、プラチナ併用化学療法に加えてTG4010を皮下注射する群(111人)と偽薬を皮下注射する群(111人)に無作為に割り付けた。皮下注射は当初6週間は毎週行い、それ以降は病勢進行に至るか、治療中止となるまで3週間に1度の間隔で継続した。ベバシツマブ併用療法、ペメトレキセド維持療法、エルロチニブ維持療法は許容された。無作為化時の割付調整因子は、治療開始前のCD16+/CD56+/CD69+活性化リンパ球数とした。主要評価項目は無増悪生存期間とした。両群ともに、77%の患者において活性化リンパ球数は正常範囲内にあった。

 対象患者全体における無増悪生存期間中央値は、TG4010群で5.9ヶ月(95%信頼区間は5.4-6.7ヶ月)、偽薬群で5.1ヶ月(4.2-5.9ヶ月)で、ハザード比は0.74(95%信頼区間は0.55-0.98)、p=0.019と有意差を認めた。ハザード比は活性化リンパ球数が正常範囲内の患者では0.75(95%信頼区間は0.54-1.03)、正常上限以上の患者では0.77(0.42-1.40)で、試験デザイン上は前者では有意に無増悪生存期間を延長したと判定された。非扁平上皮癌患者196人においては、ハザード比は0.69(p=0.0093)だった。

 有害事象として、Grade 2以下の局所反応をTG4010群の33%に、偽薬群の4%に認めた。TG4010に関連すると思われるGrade 3あるいは4の重篤な有害事象はなかった。主要なGrade 3以上の有害事象は好中球減少、貧血、疲労であった。

 本試験の第III相部分は、現在も進行中である。