あらためて、Osimertinibについて

 Osimertinibに関する総括的な文献が手に入ったので、ざっと読み下してみました。

 既によく知られていることから、あまり知られていなさそうなことまでいろいろと書かれていたので、思いつくままに箇条書きします。

 参考になれば幸いです。

・第1世代のEGFR阻害薬(gefitnib, erlotinib)はEGFR感受性変異陽性患者によく効き、これら患者の初回治療として使われることが多い。

・第2世代のEGFR阻害薬(afatinib, dacomitinib)は変異を持たないEGFRも強力に阻害するために、下痢や皮疹といった有害事象がより問題となるが、第1世代の薬と同様に使用開始後いずれは薬剤耐性となる時期を迎える。

・第3世代のEGFR阻害薬は、EGFR阻害薬に対する耐性機序の50-60%を占めるとされるT790M変異と既存の感受性変異を治療標的として、さらには変異を持たないEGFRには干渉しないことも目標として開発された。

・米国FDAは、2015年11月に第3世代EGFR阻害薬であるOsimertinibを迅速承認した。

FDAがOsimertinibを迅速承認するに当たり、対象患者は「EGFR阻害薬治療中もしくは治療後に病勢が進行し、FDAが承認したコンパニオン診断法によりT790M変異陽性と診断された、進行非小細胞肺癌患者」とされた。

・早期臨床試験における奏効割合や効果持続期間の結果を踏まえた(無増悪生存期間や全生存期間の延長効果があるかどうかの結論は出ていない)迅速承認であるために、以後の臨床試験結果で効果を検証し、承認が適切かどうかをいずれ改めて判断することを付随条件とした。

・Osimertinibは錠剤であり、食間・食後いずれのタイミングでの内服でも支障はない。

・嚥下困難の患者では、Osimertinibを50ml以下の水で溶解し、直ちに経管栄養チューブから投与する、という方法も可能である。

・Osimertinibは2015年9月には米国で優先審査の対象となり、欧州では2015年5月に迅速審査の対象となり、日本では2015年の第3四半期に優先審査の対象となった。

・Osimeritinibとdurvalumab(抗PD-1抗体)の併用第III相比較試験(CAURAL試験)は、間質性肺炎発症の報告を受けて、2015年10月現在では一時的に試験継続を見合わせている。

・Osimertinibを初回治療、二次治療、あるいは術後補助治療として検証する第III相臨床試験がいくつかの国で行われている。

・希少な固形がんを対象としたOsimertinibの効果と安全性を検討する第I相臨床試験が、米国と欧州の一部の国で行われている。

・2014年10月、アストラゼネカ社はケンブリッジ大学との間に、Osimertinibを含む各種の治療薬候補物質の開発に関するパートナーシップ契約を結んだ。

・2015年10月、アストラゼネカ社はイーライリリー社との間に、固形がんの患者に対するOsimertinib+Ramcilumab併用療法、Osimertinib+Necitumumab併用療法を開発することについての協議を始め、これらの臨床試験を実施するに当たっては、イーライリリー社が主導することが決定したが、費用負担や対象疾患についての取り決めはいまだ明らかにされていない。

・Osimertinibは新規の非可逆的EGFR阻害薬だが、L858R/T790M変異陽性のEGFRに対して、変異を持たないEGFRとの比較でほぼ200倍の親和性をもつ。

・Osimertinibは、EGFRのほかにHER2, HER3, HER4, ACK1, BLKに対しても阻害活性を示す。

・非小細胞肺癌患者の血清を用いた検討から、Osimertinib耐性化にはC797S変異が主に関わっていると考えられている。

・C797S変異のほか、HER2遺伝子増幅、METなどのバイパストラック、小細胞癌への転化、EGFRのリガンドの増幅(HGFなどを介したautocrineの増幅ということか?)といった機序が報告されている。

・これら耐性機序への対策として各種併用療法が検討されているが、Osimertinibと他のEGFR阻害薬の併用によりMET経路を介した耐性化を回避もしくは遅延させるデータ、OsimertinibとMEK1/2阻害薬であるselumetinibの併用によりMEK/ERK経路を介した耐性化を遅延させるデータが既に示されている。

・AURA試験の第I / II相部分において、Osimertinibの治療効果予測因子について検討されたが、生検組織でT790M陰性だった患者でも、血清中にT790M陽性DNAが検出された場合は、検出されなかった場合と比較して2倍以上の奏効割合(85% vs 33%)を示すことが示された。

・Osimertinibは内服後緩やかに吸収され、最高血中濃度にいたるまでの時間は6時間程度であり、1日1回の内服法で血中濃度が定常状態になるのは内服開始から22日目以後である。

・マウスの実験から、Osimertinib単回投与後の脳実質内濃度は血清濃度と比較して5-25倍にも上ることがわかっており、これはgefitinibと比べると10倍程度の脳移行率である。

・AURA試験の第II相部分とAURA2試験において、2人の患者が脳脊髄液中のOsimertinib濃度について検討されたが、定常状態での血清Osimertinib濃度に比較して、0.2-1.0%程度の濃度だった。

・Osimertinibの半減期は55時間程度である。

・Osimertinibは68%は便から、14%は尿から排泄される。

・高度の腎障害、肝障害を有する患者へのOsimertinibの安全性は確認されていない。

・Osimertinib使用中は避妊が推奨される。

・妊婦がOsimertinibを服用した場合、死産となる可能性がある。

・母乳栄養している場合、母親がOsimertinibを服用していれば母乳を中止すべきで、最終投与日から2週間は授乳を避けるべきである

・Osimertinibはプロトンポンプ阻害薬と併用しても問題ない。

・二次治療としてのOsimertinibの効果を検証したAURA試験において、T790M陽性患者における奏効割合と病勢コントロール割合はそれぞれ61%、95%であり、T790M陰性患者では21%、61%だった。

・AURA試験、AURA2試験の参加者を対象とした統合解析において、治療開始前に脳転移巣を認めた患者での奏効割合は62%、認めなかった患者での奏効割合は69%だった。

・EGFR阻害薬既治療の癌性髄膜炎合併患者を対象にOsimertinib 160mg/日内服の効果を検証する第I相試験(BLOOM試験)が進行中だが、初期段階の報告によると、11人中8人(73%)に画像上の改善所見を認め、治療開始12週後の評価がなされた6人の患者全てにおいて画像上の効果が持続していることが確認された。さらに、治療開始前に神経学的症状があった患者9人中5人(56%)において症状の改善が認められた。

・AURA試験のうち、一次治療でOsimertinibの投与を受けた患者では、全体の奏効割合、病勢コントロール割合、3ヶ月無増悪生存割合、6ヶ月無増悪生存割合はそれぞれ70%、97%、93%、87%だった。80mg/日の投与量では奏効割合は60%、病勢コントロール割合は93%で、160mg/日の投与量では奏効割合は80%、病勢コントロール割合は100%だった。

・Osimertinibの主たる有害事象は、下痢(47%)、皮疹(40%)、嘔気(22%)、食欲不振(21%)、皮膚乾燥(20%)である。

・下痢と皮疹は、用量依存性に頻度が増加する。

・その他に、頻度は低いが問題となる有害事象として、肺臓炎(2-3%)、QT延長(2-5%)、耐糖能異常(2-3%)、脳血管障害(0.5%)があげられる。

・米国では、肺臓炎、QT延長、心筋症に関連してOsimertinibの一次中止/永続的中止基準が設けられている。肺臓炎を示唆するような呼吸状態の悪化、0.5秒を超えるQT延長、無症候性でも10%以上の左室駆出率の低下を見た場合には一時中止し、明らかな肺臓炎の発症、致死的な不整脈を伴うQT延長、症候性の心不全を見た場合には永続的に中止する。

・コンパニオン診断法としては、cobas EGFR Mutation Test v2が採用されている。

・EGFR阻害薬既治療のT790M陽性患者を対象にOsimertinibの効果を検証する試験が、アジア太平洋地域(AURA17)やノルウェー(TREM試験)で行われている。

・EGFR阻害薬既治療のT790M陽性患者を対象に、Osimertinibとプラチナ併用化学療法の効果を比較する第III相試験(AURA3試験)が行われている。

・EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者を対象に、Osimeritinibと標準治療(gefitinib / erlotinib)の効果を比較する第III相比較試験(FLAURA試験)が行われている。

・各種の小分子化合物(Osimertinib, gefitinib, selumetinib)とdocetaxelをさまざまな順序で逐次併用する治療と、複数の免疫チェックポイント阻害薬を逐次併用する治療(tremelimumab→durvalumab)を、主要評価項目を完全奏効割合(!!)として比較する第IIa相試験が行われている。

・EGFR感受性変異陽性の完全切除後病理病期IB-IIIA期非小細胞肺癌患者を対象に、無病生存期間を主要評価項目として術後Osimeritinib療法とプラセボを比較する第III相試験(ADAURA試験)が行われている。

・・・afatinibのLUX-Lungシリーズ、nivolumabのCheckmateシリーズ、pembrolizumabのKEYNOTEシリーズさながらに、さまざまな臨床試験が同時進行で進んでおり、大変なことになっています。