血中自己抗体で肺癌と良性肺結節を見分けられるか?

 わが国は、単位人口当たりのCT保有台数が世界一の国です。

 放射線暴露の量はともかくとして、手続き上はレントゲン写真を撮影するのと同じくらいの手軽さでCTを撮影することができます。

 そのため、レントゲンでは発見できないような小さな肺結節が見つかって、見つかったはいいもののあまりに小さすぎて、気管支鏡でも診断はつかなさそうだし、PETはそもそも悪性腫瘍の診断が未確定なので自費診療になってしまうし、扱いに困ってしまいます。

 今回の報告は、CTによって発見された肺結節が良性なのか、悪性なのか、自己抗体(はっきり言ってしまえば血清腫瘍マーカー)を用いて見分けられないか、という古典的な話題について扱ったものです。

 5種類程度の腫瘍マーカーを組み合わせて用いることにより、感度30%、特異度90%程度の成績で良悪性を鑑別できるということですが、個人的には肺結節の性状と経過観察中に増大するか否かを見ていくことで事足りるのではないかと感じました。

 「CTで定期経過観察すると、その分だけ放射線暴露が増すでしょう?」という指摘があれば確かにその通りで、その場合には腫瘍マーカーを用いて鑑別して、治療するか放置するかを決めればいいでしょう。

 現状では無理なことがわかっているので、僕はそんなことはしませんが。

Comparative Study of Autoantibody Responses between Lung Adenocarcinoma and Benign Pulmonary Nodules

Jie Wang, PhD, Shilpa Shivakumar, MD, Kristi Barker, MS, Yanyang Tang, BS, Garrick Wallstrom, PhD, Jin G. Park, PhD, Jun-Chieh J. Tsay, MD, MS, Harvey I. Pass, MD, William N. Rom, MD, Joshua LaBaer, MD, PhD, Ji Qiu, PhD

http://dx.doi.org/10.1016/j.jtho.2015.11.011

背景)

 CTによるスクリーニングが肺癌死亡率を低下させることが明らかとなり、CTの利用頻度が増すとともに、良性肺結節が発見される機会も増えた。結果として良性結節であった患者の側からすると、振り返ってみれば不必要な、コストのかかる、侵襲的な検査を強いられたことになる。そのため、肺結節が発見された際に高リスク群と低リスク群を区分するコンパニオン診断ツールのニーズが出てくる。

 肺癌は免疫反応を惹起し、がん抗原に対する自己抗体産生を引き起こすことがある。これら自己抗体と、それに対応したがん抗原を同定してがん免疫システムの理解を深めることにより、がんの早期発見やがんの免疫療法の発展につながる。この領域の研究は、これまでほとんどががん患者と健常者の比較、というコンセプトで行われてきた。今回我々は、がん患者、良性結節を有する患者、喫煙健常者を対象として、液性免疫反応を評価する研究を行った。

方法)

 まず、40人の早期肺癌患者と40人の喫煙健常者を対象に、がん特異性自己抗体の候補を同定するために、10000種のヒトタンパクに対する血清反応性をマイクロアレイを用いて検証した。これによって得られた自己抗体候補について、137人のがん患者、127人の喫煙健常者、170人の良性結節患者を対象とし、ELISA法を用いて検討した。

結果)

 タンパクマイクロアレイによるスクリーニングを行ったところ、喫煙健常者に比べてがん患者において17種の抗原の反応性が高いことがわかった。続いて、これらの抗原についてELISAで検証したところ、5種の抗原セット(tetratricopeptide repeat domain 14(TTC 14), BRAF, actin like 6B(ACTL6B), MORC family CW-type zinc finger 2(MORC2), cancer-testis antigen 1B(CTAG1B))を用いると、感度30%、特異度89%で肺がん患者と喫煙健常者を鑑別することができた。さらに、次の5種の抗原セット(keratin 8 type II, TTC 14, Kruppel-like factor 8, BRAF, tousled like kinase 1)を用いると、感度30%、特異度88%で肺がん患者とCT陽性良性結節患者を鑑別することができた。TTC 14, BRAF, MORC2, CTAG1B, keratin 8 type II, tousled like kinase 1の6種のタンパクのmRNAレベルは肺腺癌組織において高値を示していた。

結論)

 今回の検討で、肺癌とCT陽性良性結節患者を鑑別しうるいくつかの自己抗体を見出した。より多数の患者での再検証が必要である。