知り合いから、そろそろいい年頃なので肺がん検診を自主的に始めようと思ってるんだけど、どんなスケジュールでやるといいでしょうか、と相談を受けました。
難しい質問です。
肺がんCT検診については、以下のガイドラインがあります。
日本における低線量 CT による肺がん検診の考え方
・・・日本 CT 検診学会 ガイドライン委員会
「米国で行われた National Lung Screening Trial(以下 NLST)において、CT 検診に
よる肺がん死亡率の減少効果が示されるに至った。しかしNLSTの臨床試験対象とされたのは、55〜74 歳の重喫煙者(1日の喫煙箱数X喫煙年数が30 以上で、過去喫煙者の場合は禁煙から 15年を超えていないこと)であり、かつ過去に肺がんと診断されていないこと等の条件を満たすものである。すなわち、肺がん罹患のハイリスク集団であり、しかも肺がんが発見された場合に安全に手術ができると考えられたものを対象として得られた結果である。この条件を満たさない受診者におけるCT 検診による肺がん死亡の減少効果については不明である」
翻って言えば、NLSTで対象とされた集団以外では、肺がんCT検診の有用性は明らかでない、ということです。
そのため、非喫煙者に肺がんCT検診が勧められるかと言われると、日々の臨床で感じる印象からしかアドバイスできません。
はっきり言えるのは、以下のようなことです。
1)治癒を目指すことができる段階で肺癌が発見されるのは、ほとんどの場合偶然によるものである
・定期健康診断のレントゲンでたまたま異常を指摘された
・他の病気の経過観察中にたまたま影が見つかった
・人間ドックでレントゲンやCTを撮影したらたまたま見つかった
といった事例は少なくありません。
2)若いと進行が速い、年を取っていると進行が遅い、というのはあまりあてにならない
若くても進行がゆっくりの人はいますし、お年寄りでも進行が速いこともあります。
私の母は70代後半ですが、肺結節影発見時は原発巣にしか病巣がありませんでしたが、わずか1-2ヶ月の間に縦隔リンパ節まで進展し、抗がん薬+胸部放射線治療併用中に頸部リンパ節まで進展して、根治不能となりました。
これでは、1年に1度はおろか半年に1度の定期検査でも間に合いません。
3)レントゲンだけではどうしても発見できない影がある
発生初期の肺腺がんは、レントゲン上はじめは周囲の肺との違いがまるで見いだせない、ということがほとんどです。
解像度の高いCT画像を撮影すると、かなりの小さな病巣も注意深く見れば発見できます。
私自身の肺にある影は4mm程度のすりガラス状陰影なのですが、レントゲンでは絶対に指摘できません。
発生部位によっては、10-20mm程の大きさがあってもレントゲンではわからない病巣もあります。
CTで見ると、こんなに大きい影なのにCTを撮らないと発見できないのか、と思いつつも、レントゲンで見るとやっぱり病巣を指摘できない、ということは珍しくありません。
4)レントゲンに比べると、Cは見る人の眼力に頼るところが少ない
言うまでもないことですが、胸部レントゲンを見る医師は、練達の呼吸器内科医や放射線科医とは限りません。
当然、眼力には個人差があります。
加えて、胸部レントゲン写真というのは、他の診療科でも基礎的な検査としてよく撮影されます。
呼吸器内科医が患者さん入院時のルーチン検査として腰椎のレントゲンを撮ることはおそらくありませんが、整形外科医が入院時のルーチン検査として胸部レントゲンを撮影することは極めて一般的です。
あまりにも一般的過ぎて、こうした胸部レントゲンを放射線科医がルーチンで読影することはおそらくないでしょう。
しかし、CTの読影は、一定規模以上の病院であれば必ず放射線科医が関わります。
CTで認識される異常陰影は読影者の眼力をそこまで求めません。
その影がどんな病態を意味するか、というところまでは分からなくても、「ここに何か異常な影がある」ということくらいは認識できるでしょう。
そういった意味で、CTは胸部レントゲンに比べると、何かの異常をとりあえず発見する、という点において遥かに有用です。
こうしたCTの特性を踏まえ、知り合いにお話ししました。
どうしても早期に異常を捉えたければ、少なくとも1年に1回、定期健診で胸部レントゲンを撮影するときに併せてCTも撮影してはどうかと伝えました。
ちなみに、2022年2月10日以降、米国では50歳以上、1日の喫煙箱数X喫煙年数が20 以上の方を対象に、低線量CTによる肺がん検診を公的医療保険制度であるメディケア、公的医療扶助制度であるメディケイドで賄えるようにした、とのことです。NLSTの臨床試験対象となった基準よりもさらに門戸を広げた、ということですね。