・間質性肺炎合併患者に対する定位放射線照射

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 大分県は、定位放射線照射を行う環境に恵まれています。

 定型的な定位放射線照射が可能な施設が複数ある上に、サイバーナイフを利用した高精度の定位照射も可能です。

 

大分サイバーナイフがん治療センター (keiwakai.oita.jp)

 

 定位照射を受けた肺がん患者さん、追跡調査をしている中でも随分とたくさん拝見するようになりました。

 間質性肺炎を合併していても定位照射は可能だろうか、という相談を受けたので、1件の論文報告と、1件の学会発表を紹介します。

 間質性肺炎を合併していない患者さんに比べると、当然放射線肺臓炎のリスクが増します。

 とは言え、他に治療手段がなくて、危険性を理解したうえで治療を受けたい、という方は、一度は放射線治療医に相談する価値があるでしょう。

 

 また、分子標的薬治療中に一部の肺病変が増大傾向にあるので、その病変だけを定位照射で処理できないか、という相談もときどきあります。

 この場合は、照射中に分子標的薬をいったん中止し、治療終了後も放射線肺臓炎の状況を見ながら治療調整が必要になると思われます。

 

 

Stereotactic body radiotherapy for lung cancer patients with idiopathic interstitial pneumonias - Radiotherapy and Oncology (thegreenjournal.com)

 

Yuichiro Tsurugai,et al.

Radiother Oncol 2017 Nov;125(2):310-316.

doi:10.1016/j.radonc.2017.08.026.

 

目的:

 肺がん患者のうち、特発性間質性肺炎を合併している患者としていない患者に対して定位放射線照射を行った際の毒性と生命予後について比較検討した。

 

方法:

 2005年から2016年にかけて、定位放射線照射を行った肺がん患者のうち、臨床病期T1N0M0からT4N0M0までの患者、もしくは術後の局所孤発性再発を来した患者で、根治目的で40-60Gyを5分割で照射した者を評価対象とした。全ての対象患者に関する放射線肺臓炎の発生頻度と、T1a-T2aの患者を対象として局所再発割合や全生存期間解析を行った。

 

結果:

 総計508人の患者が評価対象となり、42人の特発性間質性肺炎患者が含まれていた。追跡期間中央値は32.3ヶ月(範囲は6.0-120.9ヶ月)だった。特発性間質性肺炎患者においては、有意にGrade 3以上の放射線肺臓炎を来す患者が多かった(12% vs 3%, p=0.009)。2年局所再発割合は両群ともに低かった(3.4% vs 5.6%, p=0.38)。2年生存割合は特発性間質性肺炎患者で有意に低かった(42.2% vs 80.9%, p<0.001)が、肺がんによる死亡割合は同等だった(p=0.74)

 

結論:

 特発性間質性肺炎を合併した肺がん患者においても、定位放射線照射は忍容可能な毒性に留まる一方で、有望な局所病勢制御を達成した。特発性間質性肺炎を合併した早期肺がん患者において、定位放射線照射は理に叶った治療選択肢となり得る。

 

 

 

 

O-30.肺癌定位放射線治療において,間質性変化は重篤な肺傷害のリスクとなりうるか?

斎藤彰俊ら、第55回日本肺癌学会総会、2014年11月

 

目的:

 通常の放射線治療において,間質性肺炎放射線肺傷害の危険因子とされている.しかし肺癌への体幹部定位放射線治療(SBRT)では,間質性肺炎がどの程度,重篤な肺傷害の危険因子となりうるのか知られていない.間質性変化を伴った肺癌患者につき,SBRT後の重篤な肺傷害の発生と,治療前の画像や血液データとの関係を検討した.

 

方法:

 2002年1月から2013年4月の期間中,SBRTを施行された374名の肺癌症例のうち,5mmスライス厚のCT肺野条件で胸膜下優位に網状影や蜂巣肺が認められる,画像上“間質性変化”をもつ39症例を対象とした.白血球値,CRPLDH,KL-6,SP-D,Brinkman Index,画像上の間質性変化領域がみられる肺葉数,計画標的体積(PTV),20Gy以上照射される体積の割合(V20)につきそれぞれ,重篤な肺傷害を生じた群と生じなかった群とで,t検定で比較した.P<.05を有意差ありとした.

 

結果:

 39症例のうち,致死性の肺傷害をきたした症例は2例(5.1%)であった.その2例については,治療前の白血球値が異常高値を呈し,間質性変化が3肺葉以上に及んでいた.他の因子では,重篤な肺傷害を生じた群と生じなかった群で,有意差がみられなかった.

 

結論:

 白血球値が高く,間質性変化が広範囲にみられる肺癌症例については,SBRT後に重篤な肺傷害をきたす可能性がある.