・J-SONIC試験・・・特発性肺線維症合併未治療進行非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ナブパクリタキセル+ニンテダニブ併用療法

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 間質性肺炎合併肺がんは、早期であれ進行期であれ、難しいテーマの一つであり続けています。 

 周術期に急性増悪を起こし、肺がんではなく間質性肺炎の悪化のために死亡するリスクがあり、呼吸器外科医は二の足を踏んでしまいます。

 放射線治療後の放射線肺臓炎は健常者でもほぼ必発で治療に難渋しますので、もともと間質性肺炎を合併している患者さんではそもそも放射線治療不能と判断されることもしばしばで、放射線治療医は二の足を踏んでしまいます。

 殺細胞性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬いずれも間質性肺炎を増悪させるリスクをはらんでおり、呼吸器内科医・腫瘍内科医は二の足を踏んでしまいます。

 

 一方、進行性線維化を伴う間質性肺疾患に対して我が国で保険適応のあるニンテダニブは、もともとは抗腫瘍分子標的薬として開発された薬なのですが、肺がん治療薬としては認可されていません。

 今回紹介するJ-SONIC試験は、特発性肺線維症合併進行非小細胞肺がん患者さんを対象に、カルボプラチン+ナブパクリタキセル+ニンテダニブ併用療法の有効性と安全性を検証した第III相試験です。

 主要評価項目である無急性増悪生存期間の有意な延長は達成できませんでしたが、サブグループ解析結果を見る限り、以下の背景を持つ患者さんには有効性がありそうです。

・75歳以上の患者さん

・非扁平上皮癌の患者さん

・臨床病期IV期の患者さん

・GAP stage Iの患者さん

 

 間質性肺炎を伴う進行非小細胞肺がん患者さんの治療を考える上で大いに参考になりそうです。

 一方、ニンテダニブによる食欲不振や下痢は無視できない副作用であり、高齢者に使う際には注意が必要です。他にも様々な有害事象がニンテダニブを併用することで増強するため、担当医の管理手腕が試されます。

 

 

 

 

特発性肺線維症合併進行非小細胞肺癌に対するニンテダニブ+化学療法と化学療法単独を比較するランダム化第3相試験(J-SONIC)

 

K Otsubo et al., JSMO2022 PS1-4

 

背景:
 特発性肺線維症(IPF, Idiopathic pulmonary Fibrosis)は致死的肺疾患で、原発性肺がんの独立した予後不良因子である。しかしながら、IPFを合併した進行非小細胞肺がんに対する最適な治療法は確立されていない。

 

方法:
 IPFを合併した、化学療法歴のない進行非小細胞肺がん患者を対象に、IPFの重症度を示すGAP(Gender-Age-Physiology)指数、肺がんの病理組織型、臨床病期を割り付け調整因子として、ニンテダニブ群(N群)とプラセボ群(P群)に1:1の割合で無作為に割り付けた。N群はカルボプラチン(6AUC、1日目)+ナブパクリタキセル(100mg/㎡、1日目、8日目、15日目)+ニンテダニブ(150mg/回を1日2回、連日)を3週間ごとに4コース反復した。P群はカルボプラチン(6AUC、1日目)+ナブパクリタキセル(100mg/㎡、1日目、8日目、15日目)を3週間ごとに4コース反復した。N群では、4コース終了後ニンテダニブのみ維持投与することとした。主要評価項目はITT解析に基づく無急性増悪生存期間(EFS, exacerbation-free survival=無作為割り付けから、患者がIPF急性増悪を来した日あるいは患者が死亡した日のいずれかまで)とした。

 

結果:

 2017年5月12日から2020年2月28日までの期間に、243人の患者が無作為割り付けされた(N群:121人、P群:122人)。EFS中央値はN群14.6ヶ月(95%信頼区間11.8-15.9)、P群11.8ヶ月(95%信頼区間10.3-13.6)だった(ハザード比0.89、90%信頼区間0.67-1.17、p=0.24)。無増悪生存期間はN群6.2ヶ月、p群5.5ヶ月(ハザード比0.68、95%信頼区間0.50-0.92、p=0.012)、全生存期間はN群15.3ヶ月、P群13.0ヶ月(ハザード比0.82、95%信頼区間0.59-1.14、p=0.25)だった。全生存期間は、以下のサブグループではN群で有意に改善していた:非扁平上皮がん患者サブグループ(ハザード比0.61、95%信頼区間0.40-0.93、p=0.022)、GAP指数stageI患者サブグループ(ハザード比0.61、95%信頼区間0.38-0.98、p=0.038)。Grade 3以上の有害事象には、発熱性好中球減少(N群13人(10.8%)、P群2人(1.7%))が含まれた。なお、プロトコール治療開始から、治療終了後28日経過するまでの期間にIPFの急性増悪を来した患者はN群5人(4.1%)、P群2人(1.6%)で、p=0.25と有意差を認めなかった。治療関連死は各群1人で、N群では肺感染症、P群ではIPFの急性増悪が原因だった。

 

結論:

 主要評価項目であるN群のEFS延長は達成できなかった。しかし、GAP指数stageIもしくはIIのIPF合併進行非小細胞肺がん患者に対し、カルボプラチン+ナブパクリタキセル併用療法は有効かつ忍容可能であることが示された。加えて、非扁平上皮非小細胞肺がん患者に対するカルボプラチン+ナブパクリタキセル+ニンテダニブ併用療法は、全生存期間を改善した。

 

 

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 もともとニンテダニブは特発性肺線維症にしか使えませんでしたが、2020年から「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」へと適応拡大され、門戸が広がりました。

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 ニンテダニブは、進行非小細胞肺がんの二次治療以降でドセタキセルに上乗せすることの有効性がLUME-Lung 1試験で証明されています。

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 実地臨床では、特発性肺線維症合併早期肺がん患者さんに対して周術期からニンテダニブを使用することで、左右それぞれの肺の手術を乗り越えてピンピンしている方がいらっしゃいます。かえって術前よりもお元気になった印象さえあります。放射線治療前後での使用でも手ごたえがあります。

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