・特発性肺線維症とPDE4阻害薬

 呼吸器内科医という仕事をしていると、特発性肺線維症患者の診療は避けて通れません。

 他院から相談を受けて、可能な治療はやりつくしたものの病状のコントロールが得られず、以後終末期まで管理してほしいという特発性肺線維症の患者さんの診療を引き受けることになりました。

 とはいえ、この患者さんはステロイドや免疫抑制薬といった従来型の治療は受けておらず、ピルフェニドンやニンテダニブといった抗線維化薬を使って効果が得られなかったとのことで、以後は支持療法で経過を見ることになったようです。

 肺癌診療になぞらえて言うならば、殺細胞性抗腫瘍薬による化学療法は受けておらず、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しいタイプの治療を受けて効果が得られなかったため、以後は支持療法で経過を見ることになった、という感じでしょうか。

 そんな特発性肺線維症の診療において、抗PDE4B阻害薬という新しいタイプの薬が登場し、これから第III相臨床試験での検証に入るようです。

 ニンテダニブは特発性肺線維症合併未治療進行非小細胞肺がんの診療において有益であることがJ-SONIC試験で示されましたが、果たして抗PDE4阻害薬にもそうした役割が期待できるでしょうか。

 

 

 

Trial of a Preferential Phosphodiesterase 4B Inhibitor for Idiopathic Pulmonary Fibrosis

 

Luca Richeldi et al.
N Engl J Med 2022; 386:2178-2187
DOI: 10.1056/NEJMoa2201737

 

背景:

 ホスホジエステラーゼ4(PDE4)の阻害は抗炎症作用と抗線維化作用と関連しており、特発性肺線維症の患者には有益かもしれない。

 

方法:

 今回の第II相、二重盲検、プラセボ対照臨床試験において、特発性肺線維症患者を対象に、経口投与のPDE4B亜型優先的阻害薬であるBI1015550の有効性と安全性を検証した。対象患者はBI1015550 18mg/回を1日2回使用する群(BI群)とプラセボ群(P群)に2:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目はプロトコール治療開始から12週間後の、ベースラインからの努力性肺活量(force vital capacity, FVC)の変化量とした。結果の解析にはベイズ流のアプローチを用い、他の抗線維化薬を用いていたかいなかったかでも区別して解析した。

 

結果:

 総計147人の患者が無作為割付を受けた。他の抗線維化薬を併用しなかった患者集団では、FVCの変化量はBI群で+5.7ml(95%信頼区間-39.1から+50.5)、P群で-81.7(95%信頼区間-133.5から-44.8)で、両群の差分の中央値は88.4ml(95%信頼区間29.5から154.2)で、BI群がP群に勝る確率は0.998だった。他の抗線維化薬を併用した患者集団では、FVCの変化量はBI群で+2.7ml(95%信頼区間-32.8から+38.2)、P群で-59.2(95%信頼区間-111.8から-17.9)で、両群の差分の中央値は62.4ml(95%信頼区間6.3から125.5)で、BI群がP群に勝る確率は0.986だった。最も頻度の高かった有害事象は下痢だった。総計13人の患者が、有害事象のためにBI1015550を中止した。重篤な有害事象に見舞われた患者は、両群間で差がなかった。

 

結論:

 今回のプラセボ対照臨床試験において、BI1015550は抗線維化薬併用の有無に関わらず、特発性肺線維症患者の肺機能低下を抑制した。

 

 

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