・医療費を削減するための臨床研究と、SATOMI臨床研究プロジェクト

 先だって、妻がドラマを録画する空き容量を確保するために、昔の「報道特集」で取り扱われたニボルマブの話題を取り上げました。

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 その2日後、偶然にもその後の経過を追うような話題が、NHKの「おはよう日本」に取り上げられていました。

 興味深い内容だったので、内容のほぼ全てを書き起こして記録しておきます。

 NHKプラスをご利用の方は2022/06/11(土)までは間に合いますので、ご覧になってみてください。

 

 

2022/06/05(日) NHKニュース おはよう日本 特集「がん投薬減らす研究」

 

「次々と開発される革新的な治療薬」
「一部のがん患者には高い効果」
「病気がほとんどなくなりました」
「こんなことが起こるとは、正直夢にも思ってなかった」 しかし、価格が高額なため、患者の医療費の負担は少なくないうえ、副作用に悩み続ける患者もいます。
 こうした課題と向き合うため進められているのが、効果を保ちながら薬の量を減らしたりやめたりできないか見極める臨床研究です。
「いまきめて、1回お休みをしていただく」

 

 私たちの命を守る大切な薬について今日は考えます。
 これまでに臨床研究の対象になってきたのは主にこちらの4つの治療薬なんですね。
 オプジーボ、キイトルーダ、テセントリク、タルセバ。
 皆さんもお聞きになったことがあるかもしれませんがこれらの薬は開発に多額の費用が掛かることから、価格は年間1千万円近い薬もあります。
 この大部分は公的な医療保険などで賄われるんですけれども、患者の負担は月に数万円から多ければ数十万円に及ぶ場合もあるんですね。
 さらに国によりますと、こうした薬の多くはいつまで投与を続ける必要があるのか、また途中で減らすことはできないのかなどについて明確な基準がないということなんですね。
 効果があっても副作用で悩むという患者さんが少なくない中、こうした基準を見極めようという臨床試験が進められています。

 

 10年前に肺癌が見つかった80代の女性。
 抗がん剤の治療を受けたところ、副作用に悩まされました。 
「点滴をやっているときは倦怠感と、脱毛もしましたし、3-4日はとても辛いという思いがありました」
 4年前からタルセバという別の抗がん剤に変え、毎日服用していますが、医師の判断で通常の1/3の量に抑えたところ、副作用はほとんど出ていないと言います
 更に得られたメリットが、自己負担の軽減です
 薬代は、従来の量を投与したときと比べて大幅に低い、月35,000円程度に抑えられているといいます
「この薬があって生きていられる、元気にしていられるというとてもありがたい存在、命綱ですよね」
「1/3で済んでいると思うので、経済的にも日常生活も副作用がないことで助かってます」

 

 女性の主治医で日本赤十字社医療センターの國頭英夫医師です。
 國頭医師らの研究グループは、8年前から特定の肺がんについて、投与する薬の量を減らす臨床研究を実施、対象は少ない薬の量でも効果があると考えられる高齢の患者に絞りました
 研究では、同意を得た患者80人に4週間にわたってタルセバを1/3の量に抑えて投与、その結果全体の90%にあたる72人(48人がPR、24人がSD)の患者は腫瘍が小さくなったり、病状が安定したりしました。
 一方、6%にあたる5人は病気が進行したという結果が出たということです。
 これらは、従来の量の薬を投与したときと同じ程度の結果だということです。
 研究グループは、この研究では高齢者などでは薬の量を減らしても一定の効果が得られたとしています。
 國頭医師は、薬の量を減らしても効果を保つことができれば、患者にとって副作用と医療費の負担を同時に抑えることにつながると考えています。
國頭医師:
「根拠を以て、これは残すべきだ、これは削るべきだということをしていかなきゃいけない」
「患者さんをいかにしてうまいこと治療していくか、コストはもちろんだけども副作用の所から見ても一番いいところに持っていこう、そうした軌道修正をしていこう」

 

 薬を減らしていくというと随分思い切った研究にも見えますが・・・。
 この研究を進めるうえではもう一つ背景があるんです。
 こちらは国民全体の医療費の推移です。
 ご覧の通り医療費は年々増大しています。
 1990年度には20兆円だったんですが、この30年で2倍以上の44兆円(2019年度)まで膨らんでいます。
 このうち薬剤が占める割合は全体の2割になりまして、9兆円を超えると推定されています。
 オプジーボとキイトルーダの2種類の薬だけで2000億円を超える規模とされています。
 患者の命を守りながら薬剤費が少しでも減れば、医療費の伸びを抑えることにつながるのではないかと期待されているんです。
 副作用も医療費もおさえられるとなると、これはもう双方が、みんなが得する研究になるということですね。
 ただ臨床研究を進めるうえでは、再発したら命に関わる病気ゆえの難しさに直面しています。

 

 国立がん研究センター中央病院の後藤悌医師です。
後藤医師:
「左かな、左のここの後ろの背中のここのところ」
「いまはもうすっかりその場所はこうやって見えなくなっている」
「CTで見るところには病気がない」
 後藤医師のグループが取り組んでいるのは、肺がんの治療でオプジーボなどの薬の投与を途中で休んでも効果が保たれるのかを探る研究です。
 全国53の医療機関で、薬の投与後、がんが半分以下になり、1年以上効果が続いている患者に協力を依頼し、同意を求めます。
 そして、投与を続ける人と休止する人をランダムに分け、2つのグループを比較します。
後藤医師:
「今決めさせていただいて、1回お休みをしていただく」
「その時に状態を観察させてもらうことになります」
 説明を受け、この男性は研究に協力することを決めましたが、傘下に同意する患者は5人に1人です。
 参加を断った患者に話を聞きました。
「薬をやめてみたいという思いはありつつも、止めたらまたがん細胞が増え始めるんじゃないか、再発し始めるんじゃないかみたいな恐怖、リスクは感じていたところで、止められる人と止められる人のふるいにかけられる、そこが一番ネックになって結局は臨床研究に参加しないという決断をした」
後藤医師:
「やっぱり効果が続いているのにあえてこのタイミングでやめなくてもいいと思っている方が多い」
「おやすみするっていうのは、患者さんとしてもなかなか難しいというのはよく分かります」

 

 そうですよね、患者さんたちからすると、命に関わる可能性もある、不安になることもありますよね。
 こうした研究によって、患者が望む医療が妨げられるようなことがあってはなりません。
 病院の審査委員会などに諮ったうえで、同意を得た患者だけに参加してもらうという慎重な手続きをとっているということです。


 がん患者団体の連合会の代表にもお話を聞きました。
全国がん患者団体連合会 天野慎介理事長:
「患者にとって休薬や減量は副作用やコスト面でメリットがあり、研究は重要でぜひ進めてほしい」
「ただ、患者は医療費抑制という目的の前に、命が助かるために使える薬は使ってほしいという思いがある」
「実際に医療現場でのルールを定めるなどの段階になれば慎重に議論を行ってほしい」

 

 更に研究を進めるうえで課題となっているのは研究費の確保です。
 臨床研究を進めるには、システムの運用などに多額の資金がかかります。
 医薬品を減らす、という研究のため、製薬会社からの支援を得にくく、医師が自ら資金集めをしています。
 先月國頭医師たちが訪れたのは医療費を支払う立場にある健康保険組合の連合会です。
 医療費の増大に対し同じ危機感を持っているため支援が得られるのではないかと考えました。
國頭医師:
「サポートが受けにくい状態でありまして」
健康保険組合連合会 佐野雅弘副会長:
「重要なテーマであると認識しています」
「ご支援ご協力をできるのかも含めて考えていきたい」

 

 更に國頭医師は一般の人からも寄付を募るプロジェクトを立ち上げ、研究を前に進める考えです。

SATOMI臨床研究プロジェクト | SATOMI臨床研究プロジェクトコーポレートサイト “Value”を重視した研究を目指します (s-cp.or.jp)


 国はこうした研究への支援についてどう考えているんでしょうか。
 財務省は医療費適正化の観点から休薬などのガイドラインが策定されるべきで、国が研究・調査を推進することが必要だと指摘しています。
 国は今後こうした研究への支援を進めていく姿勢を示しています。

 

 そしてさらに専門家は、研究を進める意義について次のように話しています。
慶応義塾大学 印南一路教授:
「休薬や原薬が自分の治療につながるのか懸念があると思います」
「より客観的なデータに基づく研究に基づいてガイドラインを定めることが重要」
「超高額薬剤が目立ちますけれども、ほかにも見直すべき点がおそらくある」
「自分が医療にかかるときに今一度振り返って、これが本当に必要かということを考えてみる必要はある」

 

 高額な薬剤のことだけではなくて、ほかにも見直すべきことがあるということですね。
 医療費が増大している背景には、私たちが普段かかる病院ですとか、日常の薬など、身近な医療も影響しています。
 命や健康を守るために必要な医療が抑制されることはあってはなりませんが、私たち自身も少し、将来に目を向けて、自分事として考えていくことも大事だと思いました。