苦し紛れの免疫チェックポイント阻害薬に希望はあるのか

 免疫チェックポイント阻害薬は、何も副作用が起こらなければとても使いやすい薬である。

 免疫チェックポイント阻害薬だけなら、点滴は30分から60分程度で終わる。

 殺細胞性抗腫瘍薬のように、嘔気・嘔吐・食欲不振・高率に起こる骨髄抑制・脱毛に悩まされることもない。

 それだけに、PSが低下した患者でも、望みを託して使ってみたくなるのは人情だろう。

 今回の報告、なんともコメントするのが難しい。

 まず、約80%の患者が二次治療移行で免疫チェックポイント阻害薬を使用しているなかで、実臨床における生存期間中央値がPS0-1の患者で14.3ヶ月あるのはよい成績だと思う。

 そして、PS2の患者に対して免疫チェックポイント阻害薬を使用したときの生存期間中央値4.5ヶ月、これはどう捉えるべきか・・・。

 PS0-1の患者より10ヶ月も生存期間中央値が短いから意味のない治療だ、と断じるのか。

 そもそもPS不良自体が予後不良因子なのだから、比較すること自体に意味がないと考えるのか。

 

 ホスピスに紹介される機会が減っていることは、私自身は悪いことだとは思わない。

 むしろ、最後まで治療選択の自由を奪われずにいたことは、患者にとっての尊厳が保たれた、と考える。

 病院で亡くなる人が増えた、というのもやむを得ないことだろう。

 ホスピスは全国津々浦々にあるわけではないし、ホスピスが終末期がん患者をすべて受け入れるわけでもない。

 「受け入れられるわけでもない」ではなく、「受け入れるわけでもない」だ。

 一昔前と異なり、最近はPS2の患者に治療する機会は増えたように思う。

 臨床試験にも、PS2を対象に含むものは少なからずある。

 殺細胞性抗腫瘍薬よりも患者・医療者に優しい、しかし経済的には厳しい免疫チェックポイント阻害薬、PS2の患者から使用したいと求められて、我々は断ることができるだろうか。

 そうしたときに、今回のデータが参考になるのは間違いない。

Performance status and end‐of‐life care among adults with non?small cell lung cancer receiving immune checkpoint inhibitors

Laura A. Petrillo et al. Cancer 2020

doi.org/10.1002/cncr.32782

背景:

 がん終末期においてどの程度の効果があるのかデータは乏しいものの、PSが低下した進行非小細胞肺癌患者に対してしばしば免疫チェックポイント阻害薬が投与される。

 

方法:

 2015年から2017年にかけて、ある施設で免疫チェックポイント阻害薬を投与した進行非小細胞肺癌患者237人に対して後方視的検討を行った。

結果:

 免疫チェックポイント阻害薬の使用を開始した段階での平均年齢は67歳(37歳-91歳)で、全体の35.4%はPS2以上の状態だった。ほとんどの患者(80.8%)は二次治療、もしくはそれ以降の治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用していた。免疫チェックポイント阻害薬開始からの生存期間中央値はPS2以上の患者で4.5ヶ月、PS0もしくは1の患者で14.3ヶ月だった(ハザード比2.5、p<0.0001)。死亡した患者(184人)について検討したところ、死亡日から30日以内に免疫チェックポイント阻害薬を使用した患者の割合は、PS2以上の患者で28.8%、PS0もしくは1の患者で10.8%だった(p=0.002)。死亡日から30日以内に免疫チェックポイント阻害薬を使用した患者は、PSと関係なく、有意にホスピスへ紹介されることが少なく(オッズ比0.29、p=0.008)、病院入院中に死亡することが多かった(オッズ比6.8、p=0.001)。