・完全切除後病理病期IB期のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの術後補助治療としてオシメルチニブを使うか?

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 随分と長いタイトルになってしまいました。

 2021年日本肺癌学会総会でこの件が取り上げられていましたので、復習しました。

 

 そもそも、我が国における完全切除後病理病期I期というのは、2年間UFTを内服することにより5年無病生存割合80%、5年生存割合90%が期待できる肺がんです。

大分での肺がん診療:JCOG0707・・・日本人完全切除後リンパ節転移陰性非小細胞肺がんにはやっぱりUFT (junglekouen.com)

 

 裏を返せば、5年以内に再発する割合は20%、5年以内に(肺がん以外の原因も含めて)死亡する割合は10%ということです。

 

 第III相ADAURA試験により、完全切除後病理病期II-IIIA期EGFR遺伝子変異陽性肺腺がん患者さんに対する術後オシメルチニブ療法の意義が確認されました。

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 再発する割合は低いに越したことはないですから、少しでも再発する割合を下げるために何らかの形でオシメルチニブを使う、というのは理にかなっています。

 ただ、手術をする前に使った方がいいのか、手術をした後がいいのか、というのはまだわかりません。

 ADAURA試験結果から、手術をした後に使うことで再発する割合が低くなることは分かりました。

 手術をする前に使うことの意義は、今後Neo-ADAURA試験で明らかにされるでしょう。

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 さて、ADAURA試験の主要評価項目は、あくまでII-IIIA期の患者さんにおける術後オシメルチニブ療法の有効性であり、IB期の患者さんにおける有効性は副次評価項目に過ぎません。

 IB期の患者さんに限った解析結果はADAURA試験の論文中で触れられています。

 治療開始から2年経過時点での無病生存期間に関するハザード比は0.39(95%信頼区間0.18-0.76)、2年無病生存割合はオシメルチニブ群88%(95%信頼区間78-94)、プラセボ群71%(95%信頼区間60-80)です。

 副次評価項目に過ぎない、とはいいながらも、IB期においても術後オシメルチニブ療法のインパクトは大きく、治療した方がいいように思えます。

 

 さて、学会発表では、以下の論文にまとめられた内容が取り上げられていました。

 術前CTでがん病巣周囲にすりガラス陰影を伴わない完全切除後IB期肺腺がんにおける3年累積再発割合、5年累積再発割合は、EGFR遺伝子変異陰性群で23.4%(95%信頼区間16.3-31.4)、31.5%(23.3-40.1)、EGFR遺伝子変異陽性群で30.8%(20.0-42.3)、40.9%(28.6-52.8)と、EGFR遺伝子変異陽性群で高い傾向にあったのだとか。

 そうするとEGFR遺伝子変異陽性群の方が再発しやすく、全生存期間も短くなりそう、と考えてしまいますが、実際にはEGFR遺伝子変異陽性群の方が全生存期間は長かったそうです。

 すりガラス陰影を伴わない完全切除後IB期肺腺がんの方では、術後再発率は高いものの全生存期間は延長する・・・。

 早い話が、早期に術後再発してもEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の有効性が期待できる、結果としてEGFR遺伝子変異陰性群よりも長生きする、ということでしょうね。

 そして、周術期にオシメルチニブを使うということは、その有効性を前借りする、ということなのでしょう。

 

 

Prognostic influence of epidermal growth factor receptor mutation and radiological ground glass appearance in patients with early-stage lung adenocarcinoma - Lung Cancer (lungcancerjournal.info)

 

Keiju Aokage et al.
Lung Cancer. 2021 Oct;160:8-16. 
doi: 10.1016/j.lungcan.2021.07.018. Epub 2021 Aug 3.

 

背景:
 第III相ADAURA試験において、完全切除後病理病期IB-IIIA期のEGFR遺伝子変異陽性肺腺がん患者に対する術後オシメルチニブ療法の有効性が示された。しかし、この患者集団は背景が多様であり、皆に本治療を適用するべきかどうかについては議論の余地がある。今回は、肺腺がんのCT所見におけるすりガラス陰影の有無やEGFR遺伝子変異の有無が患者の予後に寄与するかどうかを調べ、周術期治療開発の対象となる患者層を明らかにすることを目的とした。

 

方法:
 2003年から2014年にかけて完全切除を受けたIA3-IIA期肺腺がん患者のうち、EGFR遺伝子変異検索を行った連続505人を対象とした。EGFR遺伝子変異の有無やCT所見におけるすりガラス陰影の有無を含む臨床病理学的背景因子と患者予後の関係性を調べた。

 

結果:
 489人の患者のうち、193人(39.5%)がEGFR遺伝子変異陽性だった。無再発生存期間(RFS)や全生存期間(OS)はEGFR遺伝子変異陰性のよりも陽性の患者の方がわずかに延長していた。肺がん病巣がすりガラス陰影を含む患者集団では、EGFR遺伝子変異陰性患者と陽性患者の間でRFSやOSの有意差は見られなかった。一方、肺がん病巣がすりガラス陰影を含まない患者集団では、EGFR遺伝子変異陽性患者の方がOSが延長していた。すりガラス陰影の有無は、OSとPFSに関する独立した予後因子だったが、EGFR遺伝子変異の有無はそうではなかった。すりガラス陰影を含まない患者集団において、EGFR遺伝子変異陽性患者ではわずかに術後再発割合が高く(5年以内に再発する割合はEGFR遺伝子変異陰性で31.5%(95%信頼区間23.3-40,1)、EGFR遺伝子変異陽性で40.9%(95%信頼区間28.6-52.8))、とりわけIB期においてはハザード比1.427(95%信頼区間0.889-2.291)だった。

 

結論:
 すりガラス陰影を伴う肺腺がんの術後生命予後は極めてよく、術後補助化学療法は必要ないかもしれない。一方、その他の予後不良の患者集団では、さらなる周術期治療の開発が必要だろう。