・ALK阻害薬とその耐性変化の相互関係

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 2021年日本肺癌学会総会でALK肺がんのセッションを聴講しました。

 ALK肺がんの発見、治療開発の推移、耐性化の問題について広く論じられ、耐性化克服に向けた基礎研究について取り上げられていました。

 がん研有明病院の先生から、ALK阻害薬耐性変異に対してgilteritinibの有効性が期待できるとのお話がありました。

 

 最初の図は、各種ALK阻害薬(一部、ALK肺がんに対する国内未承認薬も含みます)がALKのほかにどういった分子に活性を示すのかを示しています。

 こうした背景があるため、それぞれの治療薬を用いたときに、耐性化機序がそれぞれ異なることが知られています。

 現在の趨勢では、治療標的とするドライバー遺伝子変異に対してより選択性の高い薬が好まれる(その方が治療効果が高く、副作用が軽い)傾向がありますので、この図表通りに考えればアレクチニブやローラチニブを選ぶのが妥当、ということになりそうです。

 

 次の図は、各種の耐性変異に対してどのALK阻害薬が有効かを示したものです。

 こうして見ていくと、単一耐性変異に対してはブリガチニブやローラチニブがかなり優秀であることが分かります。

 一方、複合耐性変異となると話が変わります。

 ローラチニブはほとんどの複合耐性変異に効果がなく、ブリガチニブの方が有望なようです。

 一方、G1202R耐性変異にはクリゾチニブは無効、ローラチニブは有効なのですが、さらにL1198F変異が加わるとローラチニブが無効になり、逆にクリゾチニブの有効性が回復する、といった複雑な現象が起きています。

 このL1198F変異によるローラチニブ耐性化は、2015年のN Engl J Med誌に症例報告として論文化されています。

 

 

 

Resensitization to Crizotinib by the Lorlatinib ALK Resistance Mutation L1198F | NEJM

 

Alice T Shaw et al.
N Engl J Med. 2016 Jan 7;374(1):54-61. 
doi: 10.1056/NEJMoa1508887. Epub 2015 Dec 23.

 

 ALK遺伝子再構成を伴う52歳の女性患者が、ALKのリン酸化部位の二次的変異によりクリゾチニブ耐性となった。この二次的変異はC1156Yのアミノ酸置換をもたらすものと予測された。耐性後、第2世代ALK阻害薬であるCeritinibを使用したが多発肝転移によりわずか5週間後に無効中止となり、ヒートショック蛋白90(HSP-90)阻害薬も無効だった。続いてカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法を行ったところ6か月間は無増悪期間が得られたが、その後病勢進行に至り、クリゾチニブ再投与を試みたが無効だった。続いて、第3世代ALK阻害薬であるLorlatinib(PF-06463922)の第I相試験に参加したところ、5週間後には41%の腫瘍縮小効果が得られたが、8か月後には肝転移が増悪した。肝転移巣の再生検を行い遺伝子シーケンスを調べたところ、C1156Yの二次変異に加えて、L1198Fの三次変異を認めた。この変異はLorlatinibの結合部位に構造変化をもたらし、結合を阻害するものだった。しかしながら、L1198Fは不思議なことにクリゾチニブの結合作用を増強する効果も併せ持っていることがわかり、これによってC1156Yのクリゾチニブ阻害効果が無効化されていた。患者は遺伝子シーケンスの最中もLorlatinibの投与を受けていたが肝機能障害の進行により中止せざるを得なくなっていた。しかし、クリゾチニブの再々投与により臨床症状と肝機能障害は改善した。

 

 

 注目すべきは、今回の論文で取り上げられたgilteritinibですね。

 G1202R単一耐性変異以外の全てに対して一定の有効性がありそうですし、NTRK、ROS1、AXLにも有効性を示すとか。

 急性骨髄性白血病の治療薬として既に我が国でも使用可能な薬ですが、肺がん領域ではまだ臨床研究は進んでいません。

 早く開発の俎上に乗るといいですね。

 

 そして、ALK阻害薬投与中に病勢進行に至った際、血液検査(リキッドバイオプシー)で耐性変異を調べて、それに基づいた治療変更ができるようになると、さらにALK肺がんの治療が洗練されていくのでしょうけれど・・・。

 

 

 

Gilteritinib overcomes lorlatinib resistance in ALK-rearranged cancer (nih.gov)

 

H Mizuta et al. 
Nat Commun. 2021 Feb 24;12(1):1261. 
doi: 10.1038/s41467-021-21396-w.

 

要約:
 ALK融合遺伝子は非小細胞肺がん患者の3-5%で認められ、その薬物療法では複数のALKチロシンキナーゼ阻害薬(ALK-TKI)が順次使用されてきた。それに伴って、複数のALK-TKI耐性変異が患者から同定され、いくつかの複合変異、例えばI1171N+F1174I複合変異やI1171N+L1198H複合変異は薬事承認されている全てのALK-TKIに耐性である。今回の細胞株を用いた実験や動物実験で、ALK-TKI耐性単一変異やI1171Nを含む複合変異に対してgilteritinibが阻害活性を示すことが分かった。驚くべきことに、EML4-ALK I1171N+F1174I複合変異を持つ腫瘍は、動物実験でアレクチニブやローラチニブを用いても完全には縮小せず、短期間で再増殖を起こした。しかしながらこの腫瘍は、gilteritinibに変更することにより劇的に縮小した。加えて、gilteritinibはエヌトレクチニブ耐性のNTRK1 G667C変異腫瘍を含むNTRK遺伝子再構成陽性がんやROS1融合遺伝子陽性がんに対しても有効だった。

 

 

 関連記事です。

 新規ALK阻害薬の開発も進んでいるようです。

 しかし、ALK肺がんの場合は耐性化メカニズムに基づいて既存の治療薬を適切に使えるようなシステムを整えることの方が優先のような気がします。

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 ローラチニブは強力なALK阻害薬ですが、一次治療ではアレクチニブを優先すべきか、ローラチニブから使うべきかは難しいですね。似たような性質のEGFR阻害薬であるオシメルチニブは一次治療から使うことが一般的になりましたが、EGFRの世界にはアレクチニブのように効果が高く毒性が軽いの薬がないため、そうなっています。

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 果たして、Ensartinibの出番はあるのでしょうか。

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