・T.M.先生、ADAURA試験について語る

 2020年当時、そろそろ欧州臨床腫瘍学会の話題を仕入れようとネットサーフィンをしていたら、国立がん研究センター東病院のT.M.先生が英語でプレゼンテーションをなさっている動画を見つけてしまい、びっくりたまげて椅子から滑り落ちてしまいました。

 https://ascopost.com/videos/esmo-virtual-congress-2020/masahiro-tsuboi-on-adjuvant-osimertinib-in-egfr-mutated-nsclc/

 

 ときどきブログのネタ探しのためにこのウェブサイトを覗いているのですが、日本国内で診療しておられる日本人の先生が肺がん分野で登場するのは、あまり記憶にありません。

 T.M.先生のプレゼンテーションから、頭に残ったことを書き残します。

 

 

Osimertinib adjuvant therapy in patients (pts) with resected EGFR mutated (EGFRm) NSCLC (ADAURA): Central nervous system (CNS) disease recurrence

 

ESMO 2020, Abst. #LBA1

 

背景:

 非小細胞肺がんにおける中枢神経系への転移再発はよくあることで、予後不良因子である。外科切除後のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんにおいて、中枢神経系を含む再発病巣への治療有効性は、治療戦略を考えるうえでのカギとなる。オシメルチニブは第三世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬で、非小細胞肺がんにおける中枢神経系転移に対して有効であることが証明されている。ADAURA試験では、外科切除後の病理病期IB-IIIA期EGFR遺伝子変異陽性(Exon 19 変異もしくはExon 21変異)非小細胞肺がんに対する術後補助化学療法として、オシメルチニブがプラセボ(偽薬)と比較して有意かつ臨床的に意義のある無病生存期間延長を達成した(ハザード比0.20、99.12%信頼区間は0.14-0.30、p<0.001)。今回は、ADAURA試験における再発様式に関しての探索的検討について報告する。

 

方法:

 術後補助化学療法施行の有無を問わず、外科切除後病理病期IB-IIIA期、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者を、オシメルチニブ80mg1日1回投与をする群(O群)とプラセボを投与する群(P群)に1:1の比率で無作為割付し、病勢進行・治療継続不能・治療開始から3年間経過のどれかを満たすまで継続治療した。再発様式と中枢神経系に特化した無病生存期間(中枢神経系への転移再発を確認されるか、患者が死亡するかをイベントと判定する)を探索的評価項目とした。術前、もしくは臨床試験参加登録前の段階での頭部MRIもしくはCTでの脳転移巣検索を臨床試験参加条件として義務付けたが、臨床症状がなければこれら検査は免除した。再発様式は、局所再発と遠隔転移再発に分類され、再発部位が記録された。2020年1月17日にデータカットオフを行った。

 

結果:

 全体で682人の患者が無作為割付され、O群に339人、P群に343人が割り振られた。O群ではP群に比べて再発イベントが少なかった。観察期間中央値22ヶ月間の時点で全体の45人(O群6人、P群39人)が中枢神経系再発イベントを起こした。12ヶ月時点における暫定的な中枢神経系再発割合は、O群で1%未満、P群で7%だった。中枢神経系無病生存期間中央値はO群では未到達(95%信頼区間は39.0ヶ月以上)、P群では48.2ヶ月(95%信頼区間算出困難)だった。中枢神経系無病生存期間のハザード比は0.18(95%信頼区間は0.10-0.33)で、p<0.0001だった。

 

Table: LBA1

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*Death in absence of CNS disease recurrence, or death within two visits of baseline where the patient has no evaluable assessments or no baseline data. †Death in the absence of disease recurrence (any site), or death within two visits of baseline where the patient has no evaluable assessments or no baseline data.

 

結論:

 オシメルチニブによる臨床的に意義のある中枢神経系無病生存期間の改善効果が確認された。プラセボと比較して、再発もしくは死亡のリスクを82%逓減した。今回の結果により、EGFR遺伝子変異陽性の根治的切除後非小細胞肺がん患者においては、オシメルチニブが中枢神経系への転移再発を抑制する効果が明らかとなった。

 

Dr.T.M.のコメント

・ADAURA試験は術後病理病期IB-IIIA期、EGFR遺伝子変異陽性の患者を対象に、オシメルチニブとプラセボの効果比較を行う臨床試験である

・対象となる患者682人を、1:1の比率でオシメルチニブ群とプラセボ群に無作為に割り付けた

・主要評価項目はII-IIIA期の患者における無病生存期間

・副次評価項目はIB-IIIA期の全ての患者における無病生存期間

・主要評価項目はハザード比0.17、この時点では再発・死亡に関する83%のリスク逓減効果があった

・副次評価項目はハザード比0.20、同じく再発・死亡に関する80%のリスク逓減効果があった

・中枢神経系無病生存期間はハザード比0.18で、中枢神経系転移もしくは死亡に関する82%のリスク逓減効果があった