・EGFR遺伝子変異陽性局所進行非小細胞肺がんに対する化学放射線療法後の取り扱い

 

 2022年08月の適応拡大により、EGFR遺伝子変異陽性切除可能非小細胞肺がんに対し、病理病期II期以降なら術後補助療法としてオシメルチニブが使用可能になりました。

タグリッソ錠40mg/タグリッソ錠80mg (pmda.go.jp)

 臨床試験による裏付けはないものの、同じ視点でいえば、EGFR遺伝子変異陽性局所進行非小細胞肺がんに対する化学放射線療法後の地固め療法としてオシメルチニブを使用しても、理論上はおかしくなさそうです。

 そうした視点で一石を投じるのが今回の臨床研究で、とても興味深い結果が得られています。

 簡単にいえば、EGFR遺伝子変異陽性局所進行非小細胞肺がんに対する化学放射線療法後の地固め療法として、デュルバルマブよりもオシメルチニブの方が、無病生存期間延長効果が優れていた、ということです。

 とりわけ興味をそそったのは、この患者集団に対して、化学放射線療法後にデュルバルマブを使わず、あえてEGFR-TKIを使う医師が米国にいて、後方視的解析に耐えうる患者数が集まっている、ということです。

 かつて私が単施設で解析した際、局所進行非小細胞肺がん患者さんは非小細胞肺がん患者さん全体の5%しかいませんでした。

 その中でさらに化学放射線療法に耐えうる、しかもEGFR遺伝子変異陽性の患者さんを探すとなると、もはや宝探しのような作業です。 

 そんな患者さんを見つけて、さらに標準治療とは異なることが成されている患者さんがいることをつきとめて、その後方視的検討をするなど、いろんな意味で気が遠くなります。

 それだけに、後方視的解析とはいえ大規模な多施設共同研究である今回の報告結果はとても貴重なものだと感じます。

 unmet-needとして多施設共同前向き臨床試験で検証する必要がある、興味深い課題です。

 

 

 

 

Consolidation EGFR-Tyrosine Kinase Inhibitor (TKI)vs. Durvalumab vs. Observation in Unresectable EGFR-Mutant Stage III NSCLC

 

A.H. Nassar et al.
WCLC2023 abst.#MA16.11.

WCLC 2023 - MA16Innovations in the Treatment of Stage III NSCLC (abstractsonline.com)

 

背景:

 臨床病期III期非小細胞肺がん患者に対する、化学放射線療法後のデュルバルマブ地固め療法は生命予後を改善する。EGFR遺伝子変異陽性であっても同じことが言えるのかどうかはわかっていない。

 

方法:

 他施設(22施設)共同の後方視的解析により、EGFR遺伝子変異(エクソン19欠失変異もしくはエクソン21L858R点突然変異)陽性の臨床病期III期非小細胞肺がん患者で、化学放射線療法とそれに引き続くEGFRチロシンキナーゼ阻害薬投与、あるいはデュルバルマブ地固め投与、あるいは無治療経過観察を受けた患者の臨床経過を評価した。2015年から2022年の期間に化学放射線療法を受けた患者を対象とした。背景因子、無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)、安全性のデータを収集した。治療関連有害事象(trAE)はCTCAE ver.5.0準拠で評価した。主要評価項目であるDFSとOSは化学放射線療法開始時点から起算した。コックス比例ハザードモデルによる多変数解析を行った。

 

結果:

 対象とした89人の患者の観察期間中央値は24.7ヶ月だった。化学放射線療法終了後、34人はEGFR-TKIを投与され(オシメルチニブ31人、エルロチニブ3人)、34人はデュルバルマブ地固め療法を受け、21人は無治療経過観察されていた。年齢中央値は67歳(四分位間56-72)、64%は女性で、EGFR-TKI群のうち64%、デュルバルマブ群のうち67%、無治療経過観察群のうち33%は非喫煙者だった。89人中84人(94%)の患者は60Gy以上の放射線照射を受けていた。PD-L1陽性(≧1%)割合は各群同等だった。EGFR-TKIおよびデュルバルマブによる治療期間中央値はそれぞれ32ヶ月、7ヶ月だった。年齢、病期(IIIA / IIIB / IIIC)、リンパ節転移状況(N1 / N2 / N3)について調整しても、EGFR-TKI群はデュルバルマブ群、無治療経過観察群と比較して有意に24ヶ月DFS割合が優れていた(EGFR-TKI群86%(95%信頼区間74-100) vs デュルバルマブ群38%(95%信頼区間25-59)、ハザード比0.39、95%信頼区間0.19-0.79、p=0.0081)(EGFR-TKI群86%(95%信頼区間74-100) vs 無治療経過観察群群29%(95%信頼区間15-56)、p<0.0001)。DFS中央値はEGFR-TKI群で40ヶ月、デュルバルマブ群で14ヶ月、無治療経過観察群で10.2ヶ月だった。デュルバルマブ群と無治療経過観察群の間にDFSの有意差はなく、全生存期間については3群間に有意差を認めなかった。trAEはEGFR-TKI群の53%(18/34)、デュルバルマブ群の47%(16/34)に認めた。Grade3以上のtrAEはEGFR-TKI群で1人(オシメルチニブを使用した患者における肺臓炎)、デュルバルマブ群で2人(肺臓炎、AST/ALT高値が各1人)認めた。EGFR-TKI群のうち6人(18%)、デュルバルマブ群のうち9人(21%)は毒性のために治療を中止していた。

 

結論:

 EGFR遺伝子変異陽性切除不能III期非小細胞肺がん患者において、化学放射線療法後のEGFR-TKI地固め療法はデュルバルマブ地固め療法や無治療経過観察と比較して有意にDFSを延長していた。今回の結果を受けて、EGFR遺伝子変異陽性切除不能III期非小細胞肺がん患者に対する最適な地固め治療戦略を検証するための臨床試験が待ち望まれる。