・「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」へ、ニンテダニブが使用可能に

 肺がん診療と直接の関係はありませんが、「進行性線維化」を伴う幅広い間質性肺疾患に対して、ニンテダニブが保険適用されることになりました。

 ニンテダニブもピルフェニドンも、対象疾患がほぼ特発性肺線維症に限定されていたため、これは大きな進歩です。

 「進行性線維化」の定義は緩く(オンライン講演会では、そもそも「現時点で明確な定義はない」と説明されていました)、高分解能CTにおいて線維化の進行が認められ、呼吸状態が悪化したと担当医が判断すれば、それすなわち「進行性線維化」です。

 今後、「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」を有する患者さんが肺がんを合併した場合、ニンテダニブを使用する機会が増えるでしょう。

 こうした患さんにおいて、ニンテダニブは間質性肺疾患による無増悪生存期間を延長しています。

 その上、肺がんに対する抗腫瘍効果も有しているとなると、有害事象の懸念以外にあえて使わない理由が思い浮かびません。

 ・・・もちろん、経済的有害事象はあります。

 ニンテダニブ150mgは6574.4円なので、ニンテダニブだけで1日13148.8円、月間約40万円、年間約480万円の負担が本人と社会にのしかかります。

 進行性線維化に対するニンテダニブの有効性を証明したINBUILD試験に参加した患者さんのほぼ100%が喫煙者だったことを考えると、なんともやるせない気持ちになります。

 喫煙者が進行肺がんになり、相対的に喫煙者への有効性の高い免疫チェックポイント阻害薬で治療を受けることにより、国民皆保険制度を介して社会全体に金銭的負担がのしかかります。

 喫煙者が進行性線維化を伴う間質性肺疾患を患い、無増悪生存期間延長効果のあるニンテダニブで治療を受けることにより、国民皆保険制度を介して社会全体に金銭的負担がのしかかります。

 なかには、免疫チェックポイント阻害薬とニンテダニブをどちらも使用する患者さんもいらっしゃるでしょう。

 タバコを吸わず、真面目に税金を支払っている給与所得者の一人として、私も忸怩たる思いがします。

 自ら重喫煙者に対して免疫チェックポイント阻害薬やニンテダニブを使用することで、自己矛盾を感じることすらあります。

 免疫チェックポイント阻害薬やニンテダニブの保険適用条件に、「喫煙経験を有する患者は除外する」と付加してはどうでしょうか。

 馬鹿正直に喫煙歴を申告する人はいないだでしょうけれども、少なくとも使用開始後の喫煙習慣を抑制するくらいの効果はあるでしょう。

 

 ニンテダニブに関する過去の記事は、以下を参照。

 なお、本邦では、原発性肺癌そのものに対するニンテダニブの適応はありません。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e843642.html

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e896262.html

 

 

 

 

<日本ベーリンガー・インゲルハイム社のプレスリリース>

日本ベーリンガーインゲルハイム、国内におけるオフェブカプセルの進行性線維化を伴う間質性肺疾患に対する適応追加の承認取得

―日本初の進行性線維化を伴うILDの治療薬―

https://www.boehringer-ingelheim.jp/press-release/20200529_01

 

 

Nintedanib in Progressive Fibrosing Interstitial Lung Diseases (INBUILD study)

Kevin R Flaherty et al., N Engl J Med . 2019 Oct 31;381(18):1718-1727.

doi: 10.1056/NEJMoa1908681.

PDF: https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1908681

 

背景:

 前臨床データにおいて、細胞内チロシンキナーゼ活性を阻害する働きを持つニンテダニブは、肺の線維化過程を阻害することが示唆されている。特発性肺線維症(IPF)および全身性強皮症を伴う間質性肺疾患患者では、ニンテダニブ150mgの1日2回投与により、努力性肺活量の低下が抑制されたと報告されている。しかし、肺の線維化を招く他の幅広い疾患においても同様の効果が得られるのかはわかっていなかった。

 

方法:

 今回の二重盲検プラセボ対照第III相臨床試験は、日本を含む15ヶ国、153施設の共同臨床試験として行われた。高分解能CTにおいて、肺容積全体の10%以上が線維化を起こしている患者を対象として、ニンテダニブ150mg/回を1日2回服用する患者群(N群)と、プラセボを服用する患者群(P群)に割り付けた。全ての患者は、過去24ヶ月間、「治療」を受けたにも関わらず「進行する間質性肺疾患」を有し、努力性肺活量は予測値の45%以上保たれており、肺の一酸化炭素拡散能(diffusing capacity of the lung for carbon monoxide, DLCO)が予測値の30%以上80%未満であることとした。ここでの治療には、ニンテダニブ、ピルフェニドン、アザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス、リツキシマブ、シクロフォスファミド、プレドニゾロン換算で20mg/日以上の糖質コルチコイドは含まないものとした。また、進行する間質性肺疾患の条件として、以下のいずれかを満たすものとした。

 ?24ヶ月間で、努力性肺活量が予測値の10%以上低下したもの

 ?24か月間で、努力性肺活量が予測値の5%以上10%未満低下し、呼吸症状が悪化したか、高分解能CTで線維化の範囲が増加したもの

 ?呼吸状態が悪化し、かつ高分解能CTで線維化の範囲が増加したもの。

 高分解能CTにおける線維化パターン(蜂巣肺の所見や時間的・空間的多相性所見を伴う通常型間質性肺炎パターンか、それ以外の線維化パターンか)を割り付け調整因子とした。

 主要評価項目は、努力性肺活量の年次低下量とし、プロトコール治療開始時点から52週経過時点で測定・評価した。これは、全体の患者群と、通常型間質性肺炎様患者群限定でそれぞれ解析した。

 

結果:

 2017年2月〜2018年4月の期間に対象患者が登録され、計663人(N群332人、P群331人)の患者がプロトコール治療を受けた。412人(62.1%、両群206例ずつ)が通常型間質性肺炎様線維化パターンを示していた。間質性肺疾患の診断名として、慢性過敏性肺臓炎(26.1%)と自己免疫性間質性肺疾患(25.6%)が多かった。N群のうち252人(75.9%)、P群のうち282人(85.2%)が52週の治療を完遂した。

 全体の患者群では、N群の努力性肺活量年次低下量が-80.8mlであったのに対し、P群では-187.8mlで、その差は107.0ml(95%信頼区間は65.4-148.5ml)で、p<0.001と有意にN群の低下量が低かった。通常型間質性肺炎様患者群では、N群で-82.9mlであったのに対し、P群では-211.1mlで、その差は128.2ml(95%信頼区間は70.8-185.6ml)で、p<0.001と有意にN群の低下量が低かった。

 52週経過時点での間質性肺疾患の増悪または死亡は、全体の患者群ではN群が7.8%(26/332)、P群が9.7%(32/331)で、ハザード比は0.80(95%信頼区間:0.48-1.34)だった。通常型間質性肺炎様患者群ではN群が8.3%(17/206)、P群が12.1%(25/206)で、ハザード比は0.67(95%信頼区間:0.36-1.24)だった。また、52週経過時点での死亡は、全体ではN群が4.8%(16/332)、P群が5.1%(17/331)で、ハザード比は0.94(95%信頼区間:0.47-1.86)、通常型間質性肺炎様患者群では、N群が5.3%(11/206)、P群が7.8%(16/206)で、ハザード比0.68(95%信頼区間:0.32‐1.47)だった。

 主要な有害事象は下痢で、N群の66.9%、P群の23.9%で認めた。肝機能障害も、P群に比べてN群でより高頻度に認めた。

 

結論:

 進行性の線維化を伴う間質性肺疾患患者において、努力性肺活量の年次低下量はP群に比べてN群で有意に減少した。下痢が主な有害事象だった。

 

 

 

<参考資料>日本ベーリンガーインゲルハイム社提供のパンフレット,オンライン講演より

 

 「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」は、その原因疾患を問わない

 過敏性肺臓炎、職業性肺疾患(塵肺)、薬剤性肺障害、サルコイドーシスなど、この概念図ではすべて含まれることになる

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 自己免疫性疾患の中で、強皮症や多発性筋炎 / 皮膚筋炎では、間質性肺疾患が死因の35-50%程度を占める

 その上、自己免疫疾患は、悪性腫瘍の合併割合が高いとされる

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 INBUILD試験の概要

 対象となった患者を、ニンテダニブ服用群とプラセボ群に無作為割り付け

 年間の努力性肺活量低下量を主要評価項目としている

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 「進行性線維化」は以下のように定義された

 ivの項目については、担当医の主観でほぼ決まってしまう。

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 患者背景

 平均年齢は65‐70歳

 やや男性が多く、通常型間質性肺炎パターンの患者ではさらに男性が増える

 ほぼ100%の参加者が喫煙経験あり

 通常型間質性肺炎様パターンを示す患者が約60%

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 努力性肺活量の年間減少量は、有意にニンテダニブ群で少なかった→努力性肺活量がより維持された

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 努力性肺活量低下の経時的変化は、ニンテダニブ群でより軽度だった

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 ニンテダニブは、今回の対象患者の無増悪生存期間を有意に延長した

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 ニンテダニブは、下痢、悪心・嘔吐といった消化器系の有害事象を高率に合併した

 呼吸不全、肺炎といった有害事象で死亡に至った患者が、ニンテダニブ群の6.3%に認められた

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