当たり前のことなのだが、がん薬物療法はできるだけ体調を整えた上で臨みたい。
肺気腫を合併していて呼吸状態が悪いなら、肺気腫の治療を加えてから。
症状を伴う脳転移があるのなら、脳転移の治療を行ってから(ドライバー遺伝子変異があればこの限りではないが)。
胸水貯留があるのなら、胸水を制御してから。
心嚢液があるのなら、心嚢液を制御してから。
とくに、手術を行う予定ならば、術前に肺の状態が整っているに越したことはない。
禁煙もその一環。
ときには、間質性肺炎に対して術前に抗線維化薬を始めることもある。
胸水貯留による呼吸不全があるのなら、できれば胸水ドレナージをしておきたい。
貯留速度が早ければ、胸膜癒着術を先行するのも一案である。
呼吸器内科医や腫瘍内科医がときどき困るのは、がん性心膜炎、心嚢液貯留である。
有症状のがん性心膜炎患者に対して、何の策も講じずにプラチナ併用化学療法などの輸液負荷のかかるがん薬物療法を行うと、すべからく心不全を招いてしまう。
心臓血管外科や循環器内科が院内になければ自分でドレナージしてしまうのだろうが、こうした専門診療科があれば、どうしても相談せざるを得ない。
がん薬物療法を行う立場からすると、がん薬物療法を安全に行いたいがために治療開始前に相談する。
心臓血管外科や循環器内科の立場からすると、頻脈、血圧低下、浮腫などの緊急性の高い症状がないと、往々にして心嚢ドレナージは後回しになり、「原疾患の治療を優先してください」となる。
挙句の果てに、原疾患の治療を優先した結果、心不全が悪化して緊急心嚢ドレナージ、という成り行きになってしまう。
悲しい話。
きっと、緊急性がないとドレナージしない、という専門診療科に対して、原疾患の治療上どうしても必要、でないと患者の状態が悪化してしまう、挙句の果てに深夜に緊急ドレナージをお願いしなければならなくなるかもしれない、と食い下がる姿勢が必要なのだろう。
我が国発のブレオマイシンによる心膜癒着術も、実際の臨床の場で行われているのはあまり見たことがない。
心嚢ドレナージの処置自体は専門診療科にお願いせざるを得ないにしても、心膜癒着術くらい自分でやりたい。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e897758.html
繰り返しになるが、ただでさえリスクを伴うがん薬物療法、できるだけいい状態で臨むに越したことはない。
合併症治療にこだわるあまりに治療のタイミングを逸してはならないが、講じ得る手立ては講じた上で治療に入りたいものだ。