・胸水貯留と免疫チェックポイント阻害薬

 悪性胸水を合併していると、免疫チェックポイントの効果はあまり期待できないという報告です。

 実感としてそんな感じがします。

 治療に対する生理的バリアという概念は納得できます。

 中枢神経系への転移だけでなく、悪性胸水や腹水を伴う病状では、それなりの工夫が必要な気がします。

 ドライバー遺伝子変異がなく、かつ中枢神経系や悪性胸水・腹水がある患者においては、胸水・腹水の制御効果が高いとされる血管増殖因子阻害薬を積極的に使用してみてはどうでしょうか。

 

 

ESMO Immuno-Oncology 2020: Does Pleural Effusion Affect Survival in Patients Treated With Immunotherapy for NSCLC?

ASCO post

 

Pleural effusion is a negative prognostic factor for immunotherapy in non small cell lung cancer (NSCLC): The PLUIE study

Nicolas Epaillard et al., ESMO Immuno-Oncology Virtual Congress 2020 Abst.#42P

 

 胸水貯留を伴う非小細胞肺がん患者、とりわけ胸水ドレナージを要するような患者においては、免疫チェックポイント阻害薬を使用しても予後不良なことがしばしば経験される。EpaillardらはESMO Immuno-Oncology Virtual Congress 2020でそうした趣旨の研究報告を行った。

 胸膜は非小細胞肺がん患者における遠隔転移先として頻度の高い部位であり、免疫チェックポイント阻害薬の浸透および効果発現を制限する生理的なバリアーとしても機能する。こうした背景から、今回報告されたPLUIE試験では、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた胸水貯留合併非小細胞肺がん患者の臨床的アウトカムについて調査された。

 本試験は国際的多施設共同後方視的研究である。2012年11月kら2019年11月にかけて、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた538人の非小細胞肺がん患者を対象とした。免疫チェックポイント阻害薬導入前の段階で、胸水貯留を伴う群(胸水貯留群、196人)と胸水貯留を伴わない群(非胸水貯留群、342人)を同定した。

 主要評価項目は、全生存期間と早期死亡割合とし、副次評価項目は無増悪生存期間、病勢コントロール割合とした。これら臨床的アウトカムと胸水貯留の相関はロジスティック回帰モデルで解析し、全生存期間や無増悪生存期間の解析は単変数解析と、コックスモデルを用いた多変数解析で行った。

 全体集団の年齢中央値は62.9歳、女性の割合は34.6%、非喫煙者の割合は9.5%、非扁平上皮非小細胞肺がんの割合は75.7%だった。胸水貯留群でも全体と同様の傾向であり、年齢中央値は64.4歳、女性の割合は31.6%、非喫煙者の割合は12.4%、非扁平上皮非小細胞肺がんの割合は77.6%だった。一次治療もしくは二次治療で免疫チェックポイント阻害薬が使用皿た患者の割合は66%、免疫チェックポイント阻害薬を単剤治療として受けた患者の割合は94%だった。 

 胸水貯留群では、遠隔転移の部位が多い傾向が見られた。すなわち、胸水貯留群での遠隔転移部位数中央値は3.5ヶ所、非胸水貯留群での遠隔転移部位数中央値は2.7ヶ所だった。胸水貯留群ではPS不良の傾向も強く、胸水貯留群の90.8%、非胸水貯留群の80.5%は、PSが2-4だった。

 全体集団における生存期間中央値は9.7ヶ月(95%信頼区間は8.1-11.8ヶ月)だった。各群別にみると、胸水貯留群では6.3ヶ月(95%信頼区間は4.0-8.6ヶ月)、非胸水貯留群では11.4ヶ月(95%信頼区間は9.7-13.8ヶ月)で、胸水貯留群で有意に予後不良だった(p=0.002)。早期死亡割合は全体集団で31.4%、胸水貯留群で38.3%、非胸水貯留群で27.5%で、これも胸水貯留群で有意に予後不良だった(オッズ比1.63、95%信頼区間1.13-2.37、p=0.01)。

 無増悪生存期間は胸水貯留群で1.8ヶ月(95%信頼区間は1.7-2.5ヶ月)、非胸水貯留群で2.3ヶ月(95%信頼区間は2.0-3.6ヶ月)で、これも胸水貯留群で有意に予後不良だった(p=0.04)。

 PS、遠隔転移巣(肝、頭蓋内、骨)、免疫チェックポイント阻害薬を導入した治療ライン次、末梢血好中球/リンパ球比率といった因子について調整した多変数解析を行ってもなお、胸水貯留は全生存期間(ハザード比1.38、95%信頼区間1.09-1.74、p=0.007)および無増悪生存期間(ハザード比1.35、95%信頼区間1.09-1.68、p=0.006)についての有意な予後不良因子だった。病勢コントロール割合は胸水貯留群で49.9%、非胸水貯留群で52.3%であり、これも胸水貯留群で有意に悪かった(オッズ比1.64、95%信頼区間1.14-2.40、p=0.01)。

 胸水貯留群196人中、胸腔ドレナージが必要だった患者は73人(37.2%)で、こうした患者はドレナージが不要だった患者と比較して早期死亡割合が高かった(52% vs 30.5%、p=0.003)。

 以上から、胸水貯留を伴う非小細胞肺がん患者では免疫チェックポイントの効果は悪く、予後不良であると結論された。