・抗PD-1抗体とベザフィブラート

 抗PD-L1抗体の抗腫瘍効果を、脂質代謝異常改善薬のベザフィブラートが活性化するかも、という話です。

 基礎研究の世界の話題に過ぎないが、源流はPD-1 / PD-L1系の発見者である本庶佑先生の研究室であり、信頼性があります。

 

Mitochondrial activation chemicals synergize with surface receptor PD-1 blockade for T cell-dependent antitumor activity

 

Kenji Chamoto, Partha S. Chowdhury, Alok Kumar, Kazuhiro Sonomura, Fumihiko Matsuda, Sidonia Fagarasan, and Tasuku Honjo

PNAS first published January 17, 2017

https://doi.org/10.1073/pnas.1620433114

 

 この論文の内容については、以下にまとめられているのでリンクを記し、ここでは詳しく触れません。

 https://oncolo.jp/news/170125k01

 

 ごく簡単にまとめるなら、ベザフィブラートが細胞障害性T細胞内のミトコンドリアを活性化し、エネルギー代謝効率を上げ、T細胞を元気にする、ということのようです。

 

 上記の論文では大腸がんの細胞株を用いて研究されたようですが、似たようなことを肺がんの細胞株で行ったのが以下の論文で、中国は武漢からの報告です。

 相変わらず基礎研究の話ですが、中性脂肪優位の脂質異常症を合併している患者さんは、ベザフィブラートを服用しながらニボルマブやペンブロリズマブを使用してみてもいいのではないでしょうか。

 

 

PGC-1α activator-induced fatty acid oxidation in tumor-infiltrating CTLs enhances effects of PD-1 blockade therapy in lung cancer

 

Huan Wan et al., Tumori. 2020 Feb;106(1):55-63.

doi: 10.1177/0300891619868287.

Epub 2019 Aug 27.

 

背景:

 ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体-ガンマ(PPARγ)共役因子1α(PGC-1α)アゴニストを抗PD-1抗体に添加することにより、治療反応性の乏しい肺癌細胞株の実験動物モデルで有効性と治療メカニズムを検証することを目的とし、PGC-1αアゴニストとしてベザフィブラートを用いた。

 

方法:

 ルイス肺癌細胞株マウスモデルを確立し、抗PD-1抗体単独、あるいは抗PD-1抗体+ベザフィブラート併用で処理をした。腫瘍組織と末梢血を回収し、フローサイトメトリーとリアルタイムPCRを用いて抗腫瘍細胞障害性T細胞(CTL)の質、量、機能、エネルギー代謝について検証した。

 

結果:

 ベザフィブラートと抗PD-1抗体の併用により、相乗的な抗腫瘍活性が認められた。こうした効果は、ベザフィブラート単剤では認められなかった。ベザフィブラートは、腫瘍浸潤CTL上のケモカイン受容体CXCR3と同様に、腫瘍内のケモカインであるCXCL9およびCXCL10の発現を増強することにより、CD8陽性T細胞の腫瘍組織への浸潤を促進した。腫瘍組織内の活性化CTL数はベザフィブラートにより有意に増加した。さらに、ベザフィブラートにより腫瘍浸潤CTLの生存期間や機能が維持された。また、腫瘍浸潤CTL内の活性酸素や、脂肪酸酸化関連遺伝子(PGC-1α,Cpt1a,LCAD)の腫瘍内部での発現が、ベザフィブラート投与後に有意に増加した。

 

結論:

 ベザフィブラートは、腫瘍内微小環境における抗腫瘍CTLの活性を増強させることにより、治療抵抗性肺がんに対するPD-1阻害薬の腫瘍制御に相乗効果をもたらす。こうした潜在的なメカニズムは、腫瘍浸潤CTLの脂肪酸酸化をベザフィブラートが制御する能力に関連している。