免疫チェックポイント阻害薬と免疫関連肺臓炎

 非小細胞肺がんは治療の選択肢が増えたが、黒色腫ではBRAF変異がなければ、免疫チェックポイント阻害薬以外にはパッとした治療法がない。

 皮膚科と呼吸器内科の間で、免疫チェックポイント阻害薬の再開をすべきか否か、という議論が持ち上がっていたが、Grade 1もしくは2でとどまっているなら、再投与を検討すべきかもしれない。

 以下の2報告の要点をかいつまむと、

・合併頻度は全体の5%程度だが、免疫関連肺臓炎には要注意

・免疫関連肺臓炎は除外診断なので、気管支鏡で原疾患の肺への進展や感染症をしっかり調べる

感染症の鑑別には、気管支肺胞洗浄(BAL)が効果的

 Pneumocystis jirovecii感染検出の感度は90-98%

 結核菌感染検出の感度は85%

 アスペルギルス検出の感度は23-85%だが、ガラクトマンナン抗原を調べれば94%まで向上

・免疫関連肺臓炎を合併した患者では、免疫チェックポイント阻害薬の奏効割合は61%、病勢コントロール割合は95%

・Grade 3以上の患者では、ステロイドや免疫抑制薬での治療が必要になるが、この場合は日和見感染に要注意

・喫煙者や背景肺疾患を有する患者が免疫関連肺臓炎を発症した場合には、治療後も肺臓炎が悪化する可能性が高い

・免疫関連肺臓炎が一旦改善したあとに免疫チェックポイント阻害薬を再投与した場合、免疫関連肺臓炎が再燃する確率は25%だが、初回発症時と同じ対応で乗り切れる

 免疫関連肺臓炎を起こした患者での病勢コントロール割合は95%で、免疫チェックポイント阻害薬の治療では腫瘍縮小がなくとも長期生存の可能性があることから、かなり希望の持てる結果だ。

 免疫関連肺臓炎をうまく乗り切れば患者の長期生存の可能性があるわけで、たとえ悪性腫瘍の治療に携わっていなくても、免疫関連肺臓炎の検査と治療に関わる呼吸器内科医には知っておいてほしいデータである。

Pulmonary Infiltrates in a Patient With Advanced Melanoma

Powell et al, J Clin Oncol 35: 705-708, 2017

Pneumonitis in Patients Treated With Anti-Programmed Death-1 / Programmed Death Ligand 1 Therapy

Naidoo et al, J Clin Oncol 35: 709-717, 2017

背景)

 抗PD-1 / PD-L1抗体の適用範囲は広がりつつあり、米国食品医薬品局は現時点で悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、膀胱がんに対する使用を認めている。一方、本治療による免疫関連肺臓炎は、合併頻度は少ないものの致死的となりうる合併症であり、今後注意が必要である。

方法)

・以下の施設において、抗PD-1 / PD-L1抗体の単剤療法、もしくはこれらと抗CTLA-4抗体との併用療法を受けた患者を抽出した

1)Memorial Sloan Kettering Cancer Center: MSKCC(2009年-2014年)

 進行悪性黒色腫、進行非小細胞肺癌、その他の固形癌

2)Melanoma Institute of Australia: MIA(2013年-2015年)

 進行悪性黒色腫のみ

・治療開始後に免疫関連肺臓炎を合併した患者を調べた

・悪性腫瘍の肺への浸潤・転移や明らかな肺感染症の患者は除外した

結果)

・総数915人(MSKCCの非小細胞肺がん患者209人を含む)の患者のうち、免疫関連肺臓炎を合併したのは43人(5%)だった

・MSKCCでは578人中27人(5%)

・MIAでは337人中16人(5%)

・治療開始から免疫関連肺臓炎発症までの期間中央値は2.8ヶ月で、その範囲は9日間から19.2ヶ月と幅があった

・発症までの期間は、PD-1 / PD-L1抗体とCTLA-4抗体併用療法の方がPD-1 / PD-L1単剤療法よりも短い傾向にあった

 (中央値(範囲):2.7ヶ月(9日間-6.9ヶ月) vs 4.6ヶ月(21日間-19.2ヶ月), p=0.02)

・発症率は、PD-1 / PD-L1抗体とCTLA-4抗体併用療法の方が、PD-1 / PD-L1単剤療法よりも高かった(199人中19人(10%) vs 716人中24人(3%), p<0.001)

・PD-1抗体とPD-L1抗体の間には発症率に差はなかった

 (単剤療法:564人中22人(4%) vs 152人中2人(1%), p=0.13)

 (併用療法:178人中18人(10%) vs 21人中1人(5%), p=0.70)

悪性黒色腫患者と非小細胞肺癌患者では、発症率に差はなかった

 (全体:532人中26人(5%) vs 209人中9人(4%))

 (単剤療法:417人中15人(3.6%) vs 152人中5人(3.3%), p=1.00)

 (併用療法:115人中11人(9.6%) vs 57人中4人(7.0%), p=0.78)

非喫煙者(生涯喫煙本数が100本未満)は43人中19人(44%)、喫煙者は43人中24人(56%)だった

非喫煙者と禁煙者では、後者で免疫関連肺臓炎が悪化する傾向にあった(19人中0人 vs 23人中5人、p=0.053)

・背景肺に合併症を有する患者では、そうでない患者よりも免疫関連肺臓炎が悪化する傾向にあった(15人中4人 vs 27人中1人、p=0.047)

放射線治療歴を有する患者は16人(37%)だった

・免疫チェックポイント阻害薬を初回治療として行った者が32%、二次治療として行った者が40%、三次治療以降として行った者が28%だった

・治療効果の評価が可能だった患者41人では、CR / PRは25人、SDは14人、PDは2人で、奏効割合は61%、病勢コントロール割合は95%だった

・免疫関連肺臓炎の初発症状は呼吸困難(43人中23人(53%))や咳(43人中15人(35%))が多く、発熱(43人中5人(12%))や胸痛(43人中3人(7%))は比較的少なかった

・免疫関連肺臓炎を合併した患者の半数以上(43人中25人(58%))がその他の免疫関連有害事象も合併した

 発疹:8人

腸炎:6人

下垂体炎:3人

 関節炎:3人

 甲状腺炎:3人

 肝炎:1人

 食道炎:1人

 十二指腸炎:1人

 甲状腺機能亢進症:1人

 腎炎:1人

 筋炎:1人

 回転性めまい:1人

 悪性貧血:1人

溶血性貧血:1人

・免疫関連肺臓炎自体の重症度、治療および治療予後は、

43人中17人(40%)がGrade 1

うち15人(88%)は治療中断のみで治療

うち2人(12%)は副腎皮質ステロイド薬内服で治療

全ての患者が改善

43人中14人(33%)がGrade 2

 全て副腎皮質ステロイド薬内服・静注で治療

 13人(93%)は改善、1人は追跡調査不能

43人中10人(23%)がGrade 3

43人中1人(2%)がGrade4

43人中1人(2%)がGrade 5

 Grade 3以上の患者では全て副腎皮質ステロイド薬の内服・静注が必要だった

12人中5人ではインフリキシマブやシクロフォスファミドの追加治療が必要だった

12人中7人(64%)で改善した

・副腎皮質ステロイド薬を使用した患者は43人中28人(65%)で、うち17人(61%)は内服で、11人(39%)は静注で治療した

・内服で治療を開始した患者での副腎皮質ステロイド開始量中央値はプレドニゾン換算で50mg(20mg-80mg)で、治療期間中央値は68日間(20-154日間)だった

・5人の患者は免疫関連肺臓炎の治療過程で病状が悪化し死亡した

 肺臓炎そのものの進行:1人

  一旦は改善傾向にあったが、ステロイド減量中に再増悪した

その後は高用量ステロイド、インフリキシマブ、シクロフォスファミドに反応せず

 感染症合併:3人

  緑膿菌肺炎:1人

  単純ヘルペス1型による敗血症:1人

  ムコール属による肺炎:1人

 悪性腫瘍の進行:1人

・43人中11人の患者では治療中断中、副腎皮質ステロイド治療継続中に、一旦改善した免疫関連肺臓炎が再増悪し、うち8人では改善、うち3人では死亡に至った

・43人中12人ではPD-1 / PD-L1抗体の再投与が行われ、うち3人で免疫関連肺臓炎が再燃した

 うち1人は初回発症時も再燃時もGrade 1で、どちらも治療中断で改善した

 うち2人は初回発症時も再燃時もGrade 2で、どちらもステロイド内服で改善した

・MSKCCの免疫関連肺臓炎合併患者27人については、CTによる画像解析ができ、所見によって5類型に分類できた

1)特発性器質化肺炎型(27人中5人(19%))

非連続性斑状浸潤影もしくは融合性浸潤影

気管支透亮像はあってもなくてもよい

末梢/胸膜直下優位の分布を示す

2)すりガラス陰影型(27人中10人(37%))

非連続性・巣状の淡い濃度上昇

既存の肺構造は透見可能

3)間質性肺炎型(27人中2人(7%))

小葉間隔壁の肥厚

気管支血管束周囲の浸潤影

胸膜直下優位の網状陰

重症例では蜂巣肺の出現

4)過敏性肺臓炎型(27人中6人(22%))

小葉中心性粒状影

細気管支炎様の所見

樹の芽様所見(Tree-in-bud appearance)

5)分類不能型(27人中4人(15%))

1)−4)のいずれにも合致しない、あるいはこれらが混在している

・非小細胞肺がん患者ではその他のがんの患者よりも特発性器質化肺炎型が多かった

 9人中4人 vs 18人中1人、p=0.03

・特発性器質化肺炎型では他の類型に比べて、なんらかの治療を必要とする割合が高い

 5人中5人 vs 22人中11人、p=0.06

・MSKCCの免疫関連肺臓炎27人中11人では肺生検が行われた

 気管支鏡下肺生検:8人

 肺針生検:2人

 外科的肺生検:1人

・組織診断の内訳は以下のとおり

 Cellular interstitial pneumonia: 11人中4人

 Organizing pneumonia: 11人中3人

 Diffuse alveolar damage: 11人中1人

 異常所見なし:11人中3人