・B型肝炎ウイルス感染者と免疫チェックポイント阻害薬

 HBV感染既往のある患者さん、HBVキャリアの患者さんから、がん薬物療法への影響について質問がありました。

 過去に記事として扱ったことがあります。

 

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 要は定期的にモニタリングしながら、核酸アナログ(エンテカビル)をきちんと使用しなさいよ、ということです。

 ただ、こうした枠組みはあくまで殺細胞性抗腫瘍薬を用いた治療時のものです。

 HBV感染は免疫チェックポイント阻害薬使用時にどんな影響を及ぼすのか、ということは私自身よく知りませんでした。

 

 いくつか論文が見つかったのでここに紹介しますが、わかったことは

1)HBV感染が明らかなら、エンテカビルを予防内服する

2)HBV感染者が免疫チェックポイント阻害薬を使用した場合、肝障害の有害事象は15-20%程度は起こりうる

3)HBV感染が活動期にある患者では、寛解状態の患者と比べて免疫チェックポイント阻害薬の効果が出やすい

ということでした。

 

 あくまで小規模な、後方視的な検討結果ばかりなのですが、HBV感染を合併した進行非小細胞肺がん患者さんにとっては興味深い話だと思います。

 

 

 

 

Hepatitis B virus reactivation in cancer patients with positive Hepatitis B surface antigen undergoing PD-1 inhibition

 

Zhang et al.
J Immunother Cancer. 2019 Nov 21;7(1):322. 
doi: 10.1186/s40425-019-0808-5.

 

背景:

 免疫抑制薬や化学療法の治療を受けているB型肝炎ウイルス(HBV)感染合併がん患者において、HBVの再活性化は深刻な合併症のひとつである。しかし、免疫チェックポイント阻害薬についての臨床試験では、HBV感染合併患者は除外されるため、こうした患者におけるPD-1阻害薬やPD-L1阻害薬の安全性はよく分かっていない。

 

方法:

 今回の後ろ向き試験において、Sun Yat-sen大学がんセンターを紹介受診した一連のHBs抗原陽性がん患者のうち、2015/01/01から2018/07/31の期間内に抗PD-1抗体、もしくは抗PD-L1抗体を投与されたものを対象とした。主要評価項目は、HBV再活性化発生割合とした。

 

結果:

 計114人の患者が解析対象となった。90人(79%)は男性、年齢中央値(範囲)は46歳(16-76歳)だった。6人(5.3%)でHBV再活性化に至った。免疫チェックポイント阻害薬の投与を開始してから、HBV再活性化に至るまでの期間中央値は18週間(3-35週間)だった。HBV再活性化を来した患者は全て、治療開始前にはHBV-DNAは検出されていなかった。1人は予防的抗ウイルス療法を受けていて、残る5人は受けていなかった。4人はHBe抗原陽性で、2人は陰性だった。HBV再活性化時点で、HBV-DNA検出量の中央値は38,900IU/ml(範囲は1,800-60,000,000)だった。5人はB型肝炎を発症し、1人はHBV-DNA量が増加しただけでALTは上昇しなかった。HBV関連合併症による死亡事例はなかった。予防的抗ウイルス療法を行っていないことが、HBV再活性化に関連する唯一の危険因子だった(オッズ比17.50(95%信頼区間 1.95-157.07)、p=0.004)

 

結論:

 HBV再活性化は、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体の治療を受けるHBs抗原陽性がん患者の一部に起こる。HBV再活性化は致死的となり得る合併症なので、HBV-DNA量の定期的なモニタリングや予防的抗ウイルス療法が勧められる。

 

 

 

 

PD-1 inhibitors for non-small cell lung cancer patients with special issues: Real-world evidence

 

Byeon et al.
Cancer Med. 2020 Apr;9(7):2352-2362. 
doi: 10.1002/cam4.2868. Epub 2020 Feb 6.

 

背景:

 免疫チェックポイント阻害薬は非小細胞肺がん患者の新しい治療選択肢となった。しかし、免疫関連有害事象増加への懸念から、臨床試験においてはウイルス性肝炎、結核感染、間質性肺炎、自己免疫性疾患を背景に持つ患者は通常除外される。

 

方法:

 免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けた非小細胞肺がん患者の診療録を抽出し、背景疾患を有する患者においてどのような治療結果が得られたのかを分析した。

 

結果:

 2015年01月から2018年10月までに、237人の患者が免疫チェックポイント阻害薬を投与された。このうち26%(61/237)が何らかの背景疾患を合併していた。HBV感染32人、肺結核既往20人、間質性肺炎6人、HIV感染1人、ベーチェット病HBV感染既往1人、関節リウマチ1人という内訳だった。HBV感染患者における肝炎発病率は、非HBV感染患者のそれと比較して高い傾向にあった(18.8% vs 8.91%、p=0.082)。(grade 3以上の)重症肝炎患者はHBV感染患者で有意に多かった(12.5% vs 1.9%、p=0.0021)。免疫チェックポイント阻害薬による治療中、肺結核既往のある20人のうち3人が活動性肺結核を発症し、結核再活性化と考えられた。間質性肺炎が悪化した事例はなかった。関節リウマチ患者ではリウマチの病状が悪化したが、低用量ステロイドで治療された。こうした背景疾患の有無で、奏効割合や無増悪生存期間に差異は見られなかった。

 

結論:

 免疫関連有害事象および治療効果の両面ともに遜色ないため、何らかの背景疾患を有する非小細胞肺がん患者においても免疫チェックポイント阻害薬は適用可能である。

 

 

 

 

 

Association of hepatitis B virus infection status with outcomes of non-small cell lung cancer patients undergoing anti-PD-1/PD-L1 therapy

 

Zhang et al.
Transl Lung Cancer Res. 2021 Jul;10(7):3191-3202. 
doi: 10.21037/tlcr-21-455.

 

背景:

 さまざまなHBV感染状況にある進行非小細胞肺がん患者において、抗PD-1抗体ないしは抗PD-L1抗体単剤療法の有効性と安全性を評価するのが本研究の目的である。

 

方法:

 慢性HBV感染状態、もしくはHBV感染寛解後の進行非小細胞肺がん患者で、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体による治療を受けたものを後方視的に集積した。主要評価項目は安全性、副次評価項目は生存期間とした。

 

結果:

 62人の患者が対象となった。10人(16.1%)はHBs抗原陽性(慢性HBV感染状態、CHB)、52人(83.9%)はHBs抗原陰性、HBc抗体陽性(HBV感染寛解後状態、RHB)だった。42人(67.7%)が少なくとも1件の治療関連有害事象を、4人(6.5%)はgrade 3の有害事象を、6人(9.7%)は肝臓関連の有害事象を合併した。慢性HBV感染状態患者のうち1人は抗PD-1抗体治療中に予防的抗ウイルス療法を中断したために、HBV再活性化を起こした。奏効割合とdurable clinical benefit, DCB(≒病勢コントロール)割合はそれぞれ17.7%、29.0%だった。生存期間中央値は23.6ヶ月(95%信頼区間14.4-32.8)、無増悪生存期間中央値は2.1ヶ月(95%信頼区間1.2-3.0)だった。DCB割合はRHB群と比較してCHB群で有意に高かった(CHB群60% vs RHB群23.1%、p=0.048)。CHB群はRHB群と比較して無増悪生存期間(8.3ヶ月 vs 2.0ヶ月、p=0.103)と全生存期間(35.0ヶ月 vs 18.2ヶ月、p=0.119)が長い傾向にあった。

 

結論:

 HBV感染を合併した非小細胞肺がん患者に対し、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体療法は安全かつ有効である。HBV感染患者は、HBV関連のバイオマーカーがモニタリングされ、かつ適切に予防的抗ウイルス療法が行われるのならば、実臨床でも臨床試験でも免疫チェックポイント阻害薬の治療対象から外されるべきではない。