・パクリタキセルによる末梢神経障害と冷たい手袋・靴下(フローズン・グローブ)

 EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんの患者さんで、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が効かなくなった後の治療はいくつか選択肢がありますが、IMpower150試験のサブグループ解析の結果からカルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ+アテゾリズマブ併用療法を検討する方は少なからずいらっしゃいます。

 今も昔もパクリタキセルが絡む治療では末梢神経障害が大きな問題で、神経痛の症状に対してはいくつか治療選択肢があるものの、しびれの感覚そのものに対しては有効な治療法がありません。

 そんな中、患者さんから手指、足趾の冷却療法による予防法を教えて頂きました。

 乳がん領域で開発された予防法のようです。

 脱毛対策として頭皮冷却療法が話題になったことはありますが、パクリタキセルの末梢神経障害対策として冷却療法があるのは知りませんでした。

 

 以下のリンクで、詳しく解説されています。

EL25連載宮下氏本文.indd (umin.ac.jp)

冷やして予防  -抗がん剤の副作用対策- | がん情報サイト「オンコロ」 (oncolo.jp)

fpj (jst.go.jp)

 

 冷却用の専用手袋や冷却材が市販されていて、全部そろえると20,000円強とそれなりにお金がかかりますが、試してみる価値はありそうです。

 

手指用:

 

足趾用:

 

冷却材:

 

 

 参考までに、論文要約を書き残します。

 力不足でいまひとつうまく書けなかったので、上述のリンクを見て頂くことをお勧めします。

 

Effects of Cryotherapy on Objective and Subjective Symptoms of Paclitaxel-Induced Neuropathy: Prospective Self-Controlled Trial

 

Akiko Hanai et al.
J Natl Cancer Inst. 2018 Feb 1;110(2):141-148. 
doi: 10.1093/jnci/djx178.

 

背景:

 化学療法による末梢神経障害(Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy, CIPN)はタキサン系抗腫瘍薬の用量制限毒性であると同時に、身体機能障害を残す。CIPN予防目的での冷却療法の有効性を前向きに検証した。

 

方法:

 weeklyパクリタキセル療法(80mg/㎡を1時間で点滴投与)を受けている乳がん患者さんを対象に、点滴中を含む90分間にわたり、利き手、利き足側に冷却用手袋・靴下を着用してもらった。冷却用手袋・靴下を着用した側と着用していない側の症状を比較した。主要評価項目はパクリタキセル累積投与量960mg/㎡の時点における、ナイロン単線維触覚検査(Semmes-Weinstein monofilament test)評価による治療開始前と比較しての触覚変化とした。そのほか、温度覚障害、主観的な末梢神経症候(Patients Neuropathy Questionnaire(PNQ))、grooved pegboard testを用いた巧緻動作評価、PNQの項目を用いてのイベント発現期間・ハザード比解析を行った。全ての統計量を両側検定した。

 

※参考

 Semmes-Weinstein monofilament test

SWTマニュアル20190514大森 (jhts.or.jp)

 grooved pegboard test

MAN-32025-forpdf-rev0.pdf (limef.com)

 

結果:

 対象患者は40人で、そのうち4人はパクリタキセル累積投与量960mg/㎡に達しなかった(それぞれ肺炎、高度倦怠感、高度肝機能障害、黄斑浮腫の有害事象のため、既定の投与量に達しなかった)。残る36人について解析を行った。冷却に耐え切れずに手袋・靴下着用継続を断念した患者はいなかった。客観的にも主観的にも、CIPNの兆候は臨床的・統計学的有意に冷却用手袋・靴下を着用した側で低減していた。各評価項目の結果は以下の通り。

・主要評価項目:

 手(触角低下)冷却側で27.8%、非冷却側で80.6%、オッズ比20.00、95%信頼区間3.20-828.96、p<0.001

 足(触角低下)冷却側で25.0%、非冷却側で63.9%、オッズ比∞、95%信頼区間3.32-∞、p<0.001

・副次評価項目:

 手(温覚低下)冷却側で8.8%、非冷却側で32.4%、オッズ比5.00、95%信頼区間1.25-394.48、p=0.02

 足(温覚低下)冷却側で33.4%、非冷却側で57.6%、オッズ比5.00、95%信頼区間1.07-46.93、p=0.04)

 手(PNQ尺度での高度障害)冷却側で2.8%、非冷却側で41.7%、オッズ比∞、95%信頼区間3.32-∞、p<0.001

 足(PNQ尺度での高度障害)冷却側で2.8%、非冷却側で36.1%、オッズ比∞、95%信頼区間2.78-∞、p<0.001

 手(PNQ尺度における高度障害イベント発現期間解析)ハザード比0.13、95%信頼区間0.05-0.34

 足(PNQ尺度における高度障害イベント発現期間解析)ハザード比0.13、95%信頼区間0.04-0.38

 grooved pegboard testを用いた巧緻動作評価

  冷却側-2.5秒、標準偏差12秒 vs 非冷却側+8.5秒、標準偏差25.8秒、p=0.05。

 

結論:

 冷却用手袋・靴下は、パクリタキセルによる末梢神経障害と機能障害の予防対策として、主観的にも客観的にも有用である。