ECOG-ACRIN 5508試験・・・COMPASS試験と絡めて

 COMPASS試験の企画立案時、本試験がしばしば引き合いに出されていた。

 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e969044.html

 個人的には、きつい末梢神経障害に悩まされるパクリタキセルを含むECOG-ACRIN 5508レジメンは、好きじゃない。

 少なくとも、自分の実地臨床では、ほぼ使用しない。

 しかし、歴史的背景を踏まえると、今回取り扱うECOG-ACRIN 5508試験の方が、臨床試験立案の王道といえる。

 ECOG4599試験レジメンを標準治療コントロール群として、維持療法フェーズにおける新規治療の優越性を検証しようというコンセプトだった。

 論文の統計学的事項の部分にもしっかりと記述がなされており、スキがない。

 ただし、そうであるが故に、switch maintenanceのコンセプトとならざるを得ない。

 対するCOMPASS試験は、continuation maintenanceのコンセプトで、二次療法以降の治療選択肢を温存するという意図もあったのだろうが、「標準治療コントロール群のない」第III相臨床試験だった。

 結局、どちらの臨床試験も主要評価項目は達成できなかった。

 

 一方、その後各試験がどう発展しているかというと・・・

 ECOG-ACRIN 5508試験の結果は、既にIMpower150試験において、ABCP療法の一部として既に受け入れられている。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e935130.html

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e968054.html

 早い話が、ECOG-ACRIN 5508試験が公表される前に、既にその発展形が早々と公表を終えて、実地臨床に組み込まれていたということだ。

 おそらくは、IMpower150試験の立案の段階で、ECOG-ACRIN 5508試験の趨勢は参考にされていたのだろう。

 この辺が企業主導のグローバル試験の推進力というか、免疫チェックポイント関連試験の勢いというか。

 対象患者集団が完全に競合するECOG-ACRIN 5508試験とIMpower150試験、実際には患者集積期間が重複するのは2015年3月から2015年4月のわずか1ヶ月間だった。

 ECOG-ACRIN 5508試験は患者集積に4年8か月を必要とした一方で、IMpower150試験が患者集積に要したのはわずか1年9ヶ月だった。

 COMPASS試験の発展形はAPPLE試験だが、ようやく試験自体が単緒についたところであり、結果が出て実地臨床に反映されるまでにはまだまだ相当の時間を要するだろう。

 また、COMPASS試験のレジメンが標準治療としてふさわしいかどうか(ECOG4599レジメンと少なくとも非劣勢なのか)はどこにもデータがないわけで、その状態で次のAPPLE試験へ進むのは果たして正しいことなのか、その結果が実地臨床でスムーズに受け入れられるのか、考えておく必要があるだろう。

 もうひとつ、COMPASS試験とECOG-ACRIN 5508試験、あるいはその他のベバシズマブを含む臨床試験や維持療法コンセプトを含む臨床試験の解釈をするにあたり、踏まえておかなければならないことがある。

 比較対象となっている患者集団は、かなり「選ばれた集団」であるということだ。

 実地臨床でベバシズマブを使うとなると、非扁平上皮非小細胞肺がんで、空洞性病変があってはダメ、脳転移巣があっても局所療法済みで安定期、血痰や喀血があってはダメ、大血管浸潤があってはダメ、主要な下気道への浸潤があってはダメ、コントロール不良の高血圧があってはダメ、治療開始から1年以内に狭心症心筋梗塞脳梗塞の既往があってはダメ、と、ダメダメ尽くし。

 これだけで、かなり対象患者は絞られる。

 さらには、これが最も厄介なのだが、導入化学療法を少なくとも3コースは完遂し、CR/PR/SDの状態を維持していなければならない。

 治療開始前に、治療が完遂できるか、治療後にCR/PR/SDであるかなんて、予測できるわけがない。

 そして、維持療法に進めなかった患者は完全に結果解析の蚊帳の外である。

 実際に、COMPASS試験参加者のうち維持療法に進めなかった907-599=308人(34.0%)の患者と、ECOG-ACRIN 5508試験参加者のうち維持療法に進めなかった1516-874=642人(42.3%)の患者のその後なんて、論文のどこにも扱われていない。

 以前、進行非小細胞肺がん患者のうち、ベバシズマブを使用できる条件を満たす患者は半数にも満たないと聞いたことがある。

 これら試験に参加した患者は、ベバシズマブを使える条件をクリアした「選ばれた集団」なのに、そのうち維持療法に進めるのはざっと58-65%、多く見積もっても進行非小細胞肺がん患者全体の30-35%というところだろう。

 当然この30-35%の中には、ドライバー遺伝子変異陽性の患者も含まれるので、こうした患者を除くとさらに少なくなる。

 結局、対象者はEGFR遺伝子変異陽性の日本人肺がん患者の数より少なくなるだろう。

 希少フラクションとまではいわないが、少なくとも多数派ではない。

Pemetrexed, Bevacizumab, or the Combination As Maintenance Therapy for Advanced Nonsquamous Non-Small-Cell Lung Cancer: ECOG-ACRIN 5508.

Ramalingam et al.,J Clin Oncol. 2019 Sep 10;37(26):2360-2367.

doi: 10.1200/JCO.19.01006. Epub 2019 Jul 30.

目的:

 ペメトレキセドとベバシズマブは、進行非扁平上皮非小細胞肺がんの維持療法の際に使用される。ベバシズマブとペメトレキセドの併用療法もまた有効である。今回、最適な維持療法を決める目的で、無作為化試験を計画した。

対象患者と方法:

 前治療歴のない進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者を対象とし、カルボプラチン(6AUC)、パクリタキセル(200mg/?)、ベバシズマブ(15mg/kg)併用療法を最大4コースまで施行した。4コースの治療後、病勢進行に至っていない患者を、以下の維持療法に無作為に割り付けた;B群:ベバシズマブ(15mg/kg)、P群:ペメトレキセド(500mg/?)、併用群:ベバシズマブ(15mg/kg)+ペメトレキセド(500mg/?)。主要評価項目は全生存期間とし、B群を比較対照群とした(B群に対するP群、もしくは併用群の優越性を検証する試験デザインとした)

結果:

 1,516人の患者が登録され、そのうち874人(57%)が導入療法完遂後に3群の維持療法へ無作為割付された。経過観察期間中央値は50.6ヶ月で、無作為化からの生存期間中央値はB群 14.4ヶ月に対しP群 15.9ヶ月(ハザード比 0.86、p=0.12)、併用群16.4ヶ月(ハザード比 0.9、p=0.028)だった。無増悪生存期間中央値はB群、P群、併用群でそれぞれ4.2ヶ月、5.1ヶ月(ハザード比 0.85、p=0.06)、7.5ヶ月(ハザード比 0.67、p<0.001)だった。また、Grade 3/4の毒性発現率は、B群で29%、P群で37%、併用群で51%だった。

結論:

 進行非扁平上皮非小細胞肺がんに対する維持療法として、ベバシズマブ単剤療法もしくはペメトレキセド単剤療法は有効だった。一方、生存期間延長効果の欠如と毒性増強の理由から、ベバシズマブとペメトレキセドの併用維持療法は推奨できない。

本文より:

・脳転移を有する患者は、手術や放射線治療といった局所療法を行ったうえで、治療後少なくとも2週間経過して、脳転移の病勢進行の所見を認めないことを条件とした

・(ベバシズマブ使用の)除外基準として、以下を定めた

 1)コントロール不良の高血圧症がある

 2)試験登録から遡ること4週間以内に一定量の血痰を認めた

 3)試験登録から遡ること12か月以内に、動脈閉塞イベント(狭心症心筋梗塞脳梗塞など)を認めないこと

 4)試験登録から遡ること6週間以内に胸腹部の外科手術をされている

 5)心血管疾患を有する

 6)肺の空洞性病変を認める

・2,011年の一時期、パクリタキセルが国家的に不足していたため、代替としてドセタキセル75mg/?を使用した時期があった

・導入化学療法時は、毒性により4コースの化学療法が不能となった場合には、3コースの治療が終わった段階で完全奏効、部分奏効、病勢安定のどれかであった場合には、維持療法への移行を許可した

・毒性による治療の遅延は最長3週間まで許容された

・忍容可能年齢の女性では、血清を用いた妊娠反応テストを行い、妊娠患者を除外した

プロトコール治療が終了したのちも、当初2年間は3か月ごとに、2年目から5年目までは6か月ごとに追跡踏査した

・主要評価項目は全生存期間で、無作為割付から患者死亡に至るまでの期間とする

・副次評価項目は無増悪生存期間

統計学的デザインは、81%の検出力を以て、25%のハザード比縮小を検出するデザインとした

・B群と併用群の比較では、片側検定で有意水準は0.0125とした

・B群とペメトレキセド群の比較では両側検定で有意水準は0.025とした

・P群と併用群の直接比較は計画しなかった

・25%のハザード比縮小は、全生存期間の33.3%改善を意味し、生存期間は12ヶ月から16ヶ月に延長するものと見込まれた

・2,010年8月から2,015年4月の間に、総計1,516人の患者が本試験に参加した

・導入化学療法ののち、874人(57%)が各維持療法群に無作為に割り付けられた

・導入化学療法の奏効割合は30.3%だった

・参加した患者全体の生存期間中央値(参加登録をしてから患者死亡に至るまでの期間)は13.1ヶ月だった

・経過観察期間中央値50.6ヶ月において、P群の生存期間中央値は15.9ヶ月で、B群では14.4ヶ月(ハザード比 0.86、97.5%信頼区間は0.70-1.07、p=0.12)だった

・同様に、併用群の生存期間中央値は16.4ヶ月で、B群では14.4ヶ月(ハザード比 0.90、97.5%信頼区間は0.73-1.12、p=0.28)だった

・無増悪生存期間中央値は、P群で5.1ヶ月、B群では4.2ヶ月(ハザード比 0.85、97.5%信頼区間は0.69-1.03、p=0.06)だった

・同様に、併用群の無増悪生存期間は7.5ヶ月、B群では4.2ヶ月(ハザード比 0.67、97.5%信頼区間は0.55-0.82、p<0.001)だった

・維持療法期間中の奏効割合(97.5%信頼区間)はB群で12.5%(8.5-17.6)、P群で18.7%(13.9-24.4)、21.2%(16-27)だった

・本試験は、分子標的療法がドライバー遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者の初回標準治療となるより前の時代に企画立案された臨床試験である