COMPASS試験

 COMPASS試験。 

 結果的にnegative trialになってしまったが、カルボプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ併用療法⇒ペメトレキセド+ベバシズマブ維持療法を、日本人・未治療進行非扁平上皮非小細胞肺がん・ベバシズマブ使用可能・EGFR遺伝子変異陰性の患者を対象に行ったときの貴重なデータを残してくれた。

 具体的なデータとして、治療開始前に患者に提供できるのは、実地臨床に携わる者としてはありがたい。

 本治療を適用する機会はそれほど多くないかもしれないが、末梢神経障害の不快な有害事象を回避しつつ、胸水制御・腫瘍縮小を積極的に狙いたい際には有力な治療選択肢になるだろう。

 企画立案時は、なんちゅう高コスト体質の臨床試験だと揶揄されていた。

 しかし、免疫チェックポイント阻害薬がこれだけ広く使われるようになってしまってから、コスト面では相対的にCOMPASS試験のインパクトがかすんでしまった。

 これって、恐ろしいことだ。

 PB群が生存期間を3ヶ月強伸ばすのに、追加でかかったコストは2,600,000円くらいだが、プラチナ併用化学療法と、それに免疫チェックポイント阻害薬を併用した場合の上乗せコストは、こんなものでは済むまい。

 日本人の進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者を対象としてシスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法→ペメトレキセド維持療法、いわゆるPARAMOUNTレジメンを施行した際の生存期間中央値は、確か24ヶ月を超えていたと思われる。

 ベバシズマブ使用可能な患者が比較的予後良好群であろうことを考えると、無理にベバシズマブを使わなくてもいいような気がする。

 じゃあ免疫チェックポイント阻害薬もいらないのでは、と言いたいところだが、こちらは長期生存につながる可能性があるので、今後我が国の実地臨床における長期追跡調査を踏まえないと結論が出せない。

 COMPASS試験は、企画立案から波乱含みで、さらには試験進行中にPointBreak試験やAVAPERL試験が全生存期間を延長できないことが明らかとなったという逆風が吹き、更には免疫チェックポイント阻害薬関連臨床試験の怒涛のごとき報告ラッシュに翻弄されつつも、なんとかこうして完遂できた。

 お疲れさまでしたと申し上げたい。

 後日、ECOG-ACRIN 5508試験も取り上げたい。

 以下、気になった点をまとめておく。

・今回治療対象となった患者の背景(ベバシズマブ使用可能患者に限られているので、比較的予後良好な患者集団と考えていいだろう)で、全体の無増悪生存期間中央値が7.1ヶ月、全生存期間中央値が21.1ヶ月というのは、利便性や毒性、コストを考えると満足できるものなのか

→ベバシズマブ使用不可の患者でも適用できるカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法のKEYNOTE-189試験における無増悪生存期間中央値は9.0ヶ月、全生存期間中央値は22.0ヶ月で、化学療法感受性の人種差を考慮すると、日本人ではさらに成績が良い可能性がある

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e963871.html

・導入化学療法開始からの生存期間中央値の差は26.6ヶ月-23.4ヶ月=3.2ヶ月で、B群とPB群の維持療法にかかるコスト中央値の差は2,614,000円、ゆえに生存期間中央値を1ヶ月伸ばすのに要したコストは816,875円となる

→できれば、導入化学療法から維持療法まで含めたコストを、KEYNOTE-189レジメンと比較しておきたい

・維持療法開始後の治療関連死は、ペメトレキセド+ベバシズマブ併用療法群にしか出ていない

COMPASS試験からの派生試験であるWJOG11218L/APPLE試験は、対照群としてアテゾリズマブ+ペメトレキセド+カルボプラチン併用療法、つまりIMpower132レジメンであるが、IMpower132試験が(physically and economically)toxic newであるアテゾリズマブをカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法に加えたにもかかわらず主要評価項目の一つである全生存期間を達成できなかったのに、それを対照群に据えて説得力があるのか、そしてさらにtoxic newであるベバシズマブを加えたにもかかわらず、主要評価項目を無増悪生存期間にして、positive studyになったとしても果たして実地臨床に馴染んでいくのか

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e968081.html

Randomized Phase III Study of Continuation Maintenance Bevacizumab With or Without Pemetrexed in Advanced Nonsquamous Non-Small-Cell Lung Cancer: COMPASS (WJOG5610L).

Seto et al., J Clin Oncol. 2019 Dec 27:JCO1901494. doi: 10.1200/JCO.19.01494. [Epub ahead of print]

背景:

 非小細胞肺がん患者は、これまで維持療法により恩恵を被ってきた。今回のCOMPASS試験では、カルボプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ併用化学療法後のベバシズマブ維持療法にペメトレキセド維持療法を上乗せする場合としない場合の有効性と安全性を評価した。

患者と方法:

 EGFR遺伝子変異(Exon19欠失変異 / Exon21L858R点変異)を伴わない未治療進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者を対象とし、一次治療としてカルボプラチン6AUC、ペメトレキセド500mg/?、ベバシズマブ15mg/kg併用療法を3週間間隔で4コース行った。この導入療法の間に病勢進行を認めなかった患者を、以下のPB群、B群に1:1の比率で無作為に割り付けた。PB群ではペメトレキセド500mg/?とベバシズマブ15mg/kgを、B群ではベバシズマブ15mg/kgを、3週間間隔で病勢進行もしくは忍容不能の毒性が発現するまで継続投与した。主要評価項目は、無作為割り付け後の全生存期間とした。

結果:

 2010年9月から2015年9月までの間に、907人の患者が導入療法を受けた。そのうち、599人が無作為割付の対象となった。298人がPB群に、301人がB群に割り付けられた。無作為割り付けからの全生存期間中央値は、PB群23.3ヶ月、B群19.6ヶ月だった(ハザード比0.87、95%信頼区間は0.73-1.05、片側ログランク検定におけるp値=0.069)。EGFR遺伝子が野生型だったサブグループにおいては、全生存期間のハザード比は0.82(95%信頼区間は0.68-0.99、片側ログランク検定におけるp値=0.020)だった。無増悪生存期間中央値はPB群5.7ヶ月、B群4.0ヶ月(ハザード比0.67、95%信頼区間は0.57-0.79、ログランク両側検定におけるp値は<0.001)だった。毒性については、同様の治療を扱った過去の報告とかわりなかった。

結論:

 主要評価項目である全生存期間について、PB群で統計学的に有意な改善は認められなかった。しかしながら、無増悪生存期間と野生型EGFRの患者群における全生存期間はPB群で延長していた。

本文より:

・プラチナ併用化学療法は、分子標的療法や免疫チェックポイント阻害薬隆盛の現在にあっても、有効な治療選択肢のひとつである

・ドライバー遺伝子変異のない患者における化学療法+免疫チェックポイント阻害薬併用療法、あるいはドライバー遺伝子変異があっても、分子標的治療ののちに病勢進行に至った患者における化学療法といった活躍の場がある

・JMEN試験において、ペメトレキセドのswitchメンテナンス療法の有効性が、PARAMOUNT試験において、ペメトレキセドのcontinuationメンテナンス療法の有効性が示された。

・AVAPERL試験では、シスプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ併用療法後のペメトレキセド+ベバシズマブ維持療法により、ベバシズマブ維持療法と比較して無増悪生存期間が延長することが示されたが、シスプラチンが実地臨床であまり用いられないため普及しなかった

・今回のCOMPASS試験を企画立案した時点では、まだPARAMAOUNT試験の結果は文献化されておらず、ペメトレキセド維持療法も普及していなかった

・PointBreak試験では、カルボプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ併用療法後のペメトレキセド+ベバシズマブ維持療法とカルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ併用療法後のベバシズマブ維持療法が比較され、有意な無増悪生存期間の延長と神経毒性、脱毛の有害事象軽減が示されたが、全生存期間の延長には至らなかった

・ECOG5508試験では、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ併用療法後のペメトレキセド+ベバシズマブ維持療法、ベバシズマブ維持療法、ペメトレキセド維持療法が比較され、ペメトレキセド+ベバシズマブ維持療法で無増悪生存期間の有意な延長を認めたものの、全生存期間の有意な延長は得られなかった

・ECOG5508試験ではペメトレキセド+ベバシズマブのswitchメンテナンス療法の有効性が検証された一方で、今回のCOMPASS試験ではペメトレキセド+ベバシズマブのcontinuationメンテナンス療法の有効性を検証した

COMPASS試験は、当初はECOG5508試験と同様に、導入療法後のペメトレキセド+ベバシズマブ維持療法、ベバシズマブ維持療法、ペメトレキセド維持療法の3群の有効性を比較するコンセプトとして立案した

・最終的には、ECOG4599試験におけるベバシズマブ維持療法が全生存期間を延長したことの歴史的意義を鑑みて、ベバシズマブ維持療法にペメトレキセドを上乗せすることで生命予後の改善が得られるかを検証するコンセプトとし、ペメトレキセド+ベバシズマブ維持療法、ベバシズマブ維持療法の2群を比較することになった

・適格条件は20歳以上、化学療法未治療、病理組織診/細胞診で局所進行/進行/術後再発非扁平上皮非小細胞肺がんと診断されている、RECIST1.1における測定可能病変を有する、ECOG-PSが0か1である、骨髄・肝・腎機能が保たれている、とした

・無症候性、あるいは治療後で、ステロイド投与を必要としない脳転移症例は登録可能とした

・扁平上皮がんを含むもの、血痰があるもの、コントロール不良の高血圧患者、感受性EGFR遺伝子変異を有する患者は除外した

・割付調整因子は治療施設、組織型、導入療法後の腫瘍縮小効果とした

・効果判定は、導入療法中は2コース後と4コース後に、維持療法中は、当初6か月間は6週間ごとに、以後は12週ごとに行った

・性別、PS、導入療法後の腫瘍縮小効果、組織型、病期、年齢、EGFR遺伝子変異の状態、喫煙歴について、サブグループ解析を行うこととした

・主要評価項目は、無作為割り付け後の全生存期間とした

・副次評価項目は、無作為割り付け後の無増悪生存期間、導入療法開始後の全生存期間と無増悪生存期間、安全性とした

・全生存期間解析において、620人の無作為割り付け患者が必要で、85%の検出率、有意水準0.05の片側検定、全生存期間中央値がB群で13ヶ月、PB群で16.5ヶ月、ハザード比換算で0.787の条件では507件の死亡イベントが必要だった

・当初は導入療法から維持療法へ移行する患者の割合を80%と見込み、775人を導入療法へ組み込む必要があると見積もっていた

・実際には、維持療法へ移行する患者の割合は66.0%で、結局907人を導入療法へ組み込むことになった

・2010年9月から2015年9月にかけて、907人の患者を71施設から登録した

・907人のうち、895人が導入化学療法を開始した

・導入化学療法開始後に、不適格例や不適切な治療前インフォームドコンセント確認例が、計39人発覚したため、導入化学療法開始時点での解析対象は856人となった

・導入化学療法を完遂し、維持療法開始対象となった患者は、599人だった

・維持療法を開始できなかった患者を除外して、維持療法開始時点での解析対象は594人(B群295人、PB群299人)だった

・データカットオフ時点で、594人全てで維持療法が終了していた

・維持療法施行中央値は、B群で4.0コース(1-36コース)、PB群で6.0コース(1-63コース)だった

・維持療法中に病勢進行によりプロトコール治療終了となったのは、B群で226人(76.6%)、PB群で203人(67.9%)だった

・維持療法中に毒性によりプロトコール治療終了となったのは、B群で59人(19.7%)、PB群で60人(20.3%)だった

・病勢進行、毒性中止のいずれの理由でもなく治療終了となったのは、B群で10人(3.4%)、PB群で36人(12%)で、この36人中23人(7.7%)は(経済的な理由で)患者の意思により終了していた

プロトコール治療終了後、二次治療以降の治療を受けたのはB群で268人(90.8%)、PB群で251人(83.9%)だった

・後治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用したのは、全体の12.5%にのぼった

・二次治療まで行った患者は、全体の87.4%にのぼった

・三次治療まで行った患者は、全体の61.3%にのぼった

・四次治療まで行った患者は、全体の40.6%にのぼった

・経過観察期間中央値は、導入化学療法開始時点からでは63.3ヶ月、二次治療開始時点からでは59.9ヶ月だった

・維持療法開始に至った患者594人のうち、経過観察期間内に470人が死亡していた

・維持療法開始時点からの生存期間中央値はB群で19.6ヶ月、PB群で23.3ヶ月だった(ハザード比0.87、95%信頼区間0.73-1.05、p=0.069)

・維持療法開始時点からの無増悪生存期間中央値はB群で4.0ヶ月、PB群で5.7ヶ月だった(ハザード比0.67、95%信頼区間0.57-0.79、p<0.001)

・EGFR野生型の患者のみを解析対象としたところ、維持療法開始時点からの生存期間中央値はB群で18.8ヶ月、PB群で23.3ヶ月だった(ハザード比0.82、95%信頼区間0.68-0.99、p=0.020)

・維持療法開始対象となった患者の、導入化学療法開始時点からの生存期間中央値は、B群で23.4ヶ月、PB群で26.6ヶ月、無増悪生存期間中央値は、B群で7.3ヶ月、PB群で9.0ヶ月だった

・導入化学療法の対象となった856人を対象に導入化学療法開始時点からの解析をすると、生存期間中央値は21.1ヶ月、無増悪生存期間中央値は7.1ヶ月だった

・導入化学療法開始から維持療法開始までの間に、治療関連死を5人認めた(間質性肺炎3人、呼吸器感染症2人)

・維持療法中には、PB群においてのみ治療関連死を4人認めた(間質性肺炎2人、肺胞出血1人、呼吸器感染症1人)

・維持療法にかかるコストの中央値はB群で1,917,000円(四分位区間は901,000-3,505,000円)で、PB群では4,531,000円(四分位区間は1,986,000-8,463,000円)だった

・現在、PB群の治療にアテゾリズマブを絡め、免疫チェックポイント阻害薬の追加効果を検証するWJOG11218L/APPLE試験が我が国で進行中である

→ベバシズマブ使用可能な進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者を対象に、アテゾリズマブ+ペメトレキセド+カルボプラチン併用療法後のアテゾリズマブ+ペメトレキセド維持療法群(APP群)とアテゾリズマブ+ペメトレキセド+カルボプラチン+ベバシズマブ併用療法後のアテゾリズマブ+ペメトレキセド+カルボプラチン+ベバシズマブ維持療法群(APPB群)を比較する第III相臨床試験で、主要評価項目は無増悪生存期間