IMpower130試験・・・なぜアブラキサン?

 進行非扁平上皮・非小細胞肺がん患者に対する初回治療として、カルボプラチン+アブラキサン併用療法にアテゾリズマブを上乗せすることの有用性を検証したIMpower試験。  アテゾリズマブ上乗せが無増悪生存期間を約1.5ヶ月、全生存期間を約5ヶ月、統計学的有意に延長していることは称賛に値する。  一方、以下の点は引っかかるところ。 ・なぜこの患者集団であえて併用治療がカルボプラチン+アブラキサンなのか ・カルボプラチン+アブラキサン併用療法後のペメトレキセドのswitch maintenance therapyはreference armとして妥当なのか ・毒性プロファイルの詳細を見る限り、アテゾリズマブ併用療法はhigh risk, high returnと言わざるを得ず、多様な有害事象を認めるため臨床的対応は煩雑とならざるを得ない ・当然コストは高くなる ・個人的には、カルボプラチン+ナブパクリタキセル+アテゾリズマブ併用→アテゾリズマブ維持群 vs カルボプラチン+ナブパクリタキセル併用→アテゾリズマブ維持群 vs カルボプラチン+ナブパクリタキセル併用→PD後アテゾリズマブ二次療法の3群比較試験を検証して見てみたい  なにはともあれ、統計学的有意に有効だったとはいえ、IMpower130レジメンをKEYNOTE189レジメンと比較すると、 ・無増悪生存期間中央値:IMpower130 7.0ヶ月 vs KEYNOTE189 9.0ヶ月 ・生存期間中央値:IMpower130 18.6ヶ月 vs KEYNOTE189 22.0ヶ月 と、いずれもKEYNOTE189レジメンに軍配が上がる。  IMpower130レジメンは治療スケジュールも煩雑であり、病勢進行後の二次治療としてペメトレキセドを温存しておきたいといった思惑がなければ、あまり実臨床での活躍の場はないだろう。  無増悪生存期間、全生存期間いずれも延長した、紛れもないpositive studyなのだが、いかんせん先行するKEYNOTE189レジメンの成績が良すぎた。 Atezolizumab in combination with carboplatin plus nab-paclitaxel chemotherapy compared with chemotherapy alone as first-line treatment for metastatic non-squamous non-small-cell lung cancer (IMpower130): a multicentre, randomised, open-label, phase 3 trial. West et al. Lancet Oncol. 2019 Jul;20(7):924-937 背景:  抗腫瘍免疫を再活性化するとされるアテゾリズマブ(抗PD-L1モノクローナル抗体)は、既治療非小細胞肺がん患者の生存期間延長を改善し、未治療非小細胞肺がん患者に対する初回治療として化学療法と併用した場合にも臨床的有用性を示した。IMpower130試験は非扁平上皮非小細胞肺がん患者に対する初回治療として、アテゾリズマブ+化学療法と化学療法単独の治療効果および安全性を比較することを目的とした。 方法:  IMpower130試験は多施設共同、無作為化、オープンラベルの第III相臨床試験として、8ヶ国(米国、カナダ、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イスラエル)の131施設で行われた。適格条件は、18歳以上・組織診もしくは細胞診で確認されたIV期の非扁平上皮非小細胞肺がんである・ECOG-PSが0もしくは1である、IV期の病態に対して過去の化学療法歴がない、とした。患者はACnP群:アテゾリズマブ(1,200mg/回、3週ごと)+化学療法(カルボプラチン 6AUCを3週ごと+ナブパクリタキセル100mg/?を毎週)併用療法群と、CnP群:化学療法(カルボプラチン 6AUCを3週ごと+ナブパクリタキセル100mg/?を毎週)単独群に2:1の割合で無作為に割り付けられた。化学療法は3週間隔で4-6コース行われ、その後に維持療法を行うこととした。維持療法は、ACnP群においてはアテゾリズマブ1,200mg/日を3週ごとに投与、CnP群においては支持療法もしくはペメトレキセド500mg/?を3週ごとに投与とした。 Stratification factors were sex, baseline liver metastases, and PD-L1 tumour expression.割付調整因子は、性別・治療開始前における肝転移の有無・腫瘍細胞のPD-L1発現状態、とした。主要評価項目はEGFRおよびALKの遺伝子異常を伴わない患者を対象に、研究者評価による無増悪生存期間および全生存期間とし、intention-to-treat解析で評価した。安全性評価対象は、少なくとも1度のプロトコール治療を受けた患者とした。 結果:  2015年4月16日から2017年2月13日までに、724人の患者が無作為割付され、723人がintention-to-treat解析の対象となった(残る1名は無作為化前に死亡したが、治療対象群には組み入れられ、intention-to-treat解析対象からは外された)。ACnP群には483人が割り付けられ、うちEGFR/ALK遺伝子異常を伴わない患者は451人含まれていた。化学療法群には240人が割り付けられ、うちEGFR/ALK遺伝子異常を伴わない患者は228人含まれていた。EGFR/ALK陰性患者を対象としたintention-to-treat解析において、追跡期間は両群ともほぼ同様で(ACnP群で18.5ヶ月(四分位区間は15.2-23.6ヶ月)、CnP群で19.2ヶ月(四分位区間は15.4-23.0ヶ月))、生存期間中央値および無増悪生存期間中央値はいずれもACnP群で有意に延長していた(生存期間中央値:ACnP群で18.6ヶ月(95%信頼区間は16.0-21.2ヶ月)、CnP群で13.9ヶ月(12.0-18.7ヶ月)、ハザード比0.79(95%信頼区間は0.64-0.98)、p=0.033)(無増悪生存期間中央値:ACnP群で7.0ヶ月(95%信頼区間は6.2-7.3ヶ月)、CnP群で5.5ヶ月(95%信頼区間は4.4-5.9ヶ月)、ハザード比0.64(95%信頼区間は0.54-0.77)、p<0.0001)。高頻度に認められたGrade 3以上の治療関連有害事象は、好中球減少(ACnP群473人中152人(32%) vs CnP群232人中65人(28%))、貧血(ACnP群473人中138人(29%) vs CnP群232人中47人(20%))、好中球絶対数の減少(ACnP群473人中57人(12%) vs CnP群232人中19人(8%))だった。重篤な治療関連優待事象はACnP群473人中112人(24%) vs CnP群232人中30人(13%)だった。治療関連死はACnP群473人中8人(2%) vs CnP群232人中1人(<1%)だった。 結論:  IMpower130試験は、EGFR/ALK遺伝子異常を伴わないIV期非扁平上皮非小細胞肺がん患者の初回治療として、ACnP療法がCnP療法と比較して、有意かつ臨床的に意義のある生存期間延長と、有意な無増悪生存期間の延長をもたらすことを示した。新規の有害事象は認めなかった。本試験結果は、進行非小細胞肺がんに対する初回治療において、プラチナ併用化学療法に対してアテゾリズマブを上乗せすることの有用性を支持している。  以下、製薬企業発行のパンフレットから図表を抜粋。 試験概要 主要評価項目に関する統計学的事項 患者背景 無増悪生存期間の生存曲線 全生存期間の生存曲線 有害事象概要 有害事象詳細