・第III相RATIONALE-312試験・・・進展型小細胞肺がんに対するTislelizumab+カルボプラチン+エトポシド併用療法

 

 進展型小細胞肺がんに対する治療といえば、カルボプラチン+エトポシド+抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ、デュルバルマブ)が標準治療です。

 アテゾリズマブを使う根拠はIMpower133試験、デュルバルマブを使う根拠はCASPIAN試験ですね。

大分での肺がん診療:免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ)、いよいよ肺小細胞癌の領域へ (junglekouen.com)

大分での肺がん診療:IMpower133試験の日本人サブグループ解析結果 (junglekouen.com)

大分での肺がん診療:IMpower133試験、updated data (junglekouen.com)

大分での肺がん診療:CASPIAN試験・・・アテゾリズマブとデュルバルマブ、どっちがいいのか (junglekouen.com)

大分での肺がん診療:小細胞肺がんにはやっぱりPD-L1阻害薬?・・・CASPIAN試験のupdated data (junglekouen.com)

大分での肺がん診療:進展型小細胞肺がんにおけるIMpower133レジメンとCASPIANレジメン (junglekouen.com)

  

 なぜかこの分野では抗PD-1抗体は奮わず、ペンブロリズマブは第III相KEYNOTE-604試験で有望な結果を残しているのですが、実地臨床では使えません。

 

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 先日は、未治療進展型肺小細胞がんに対し、カルボプラチン+エトポシドに加えて抗PD-L1抗体のbenmelstobartとVEGFを含むマルチキナーゼ阻害薬anlotinibを併用することの意義を検証したETER701試験について取り上げました。

 

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 今日のお題は、カルボプラチン+エトポシドに抗PD-1抗体のtislelizumabを上乗せしたらどうか、という第III相RATIONALE-312試験です。生存期間中央値は15.5ヶ月で、IMpower133試験の日本人サブグループ解析結果(14.6ヶ月)やKEYNOTE-604試験の日本人サブグループ解析結果(15.2ヶ月)にほぼ比肩する成績を残しています。

 

 

 

 

First-Line Chemotherapy With or Without Tislelizumab for Extensive-Stage Small Cell Lung Cancer: RATIONALE-312 Phase 3 Study

 

Y. Cheng et al. 
WCLC2023 abst.#OA01.06

 

背景:

 tislelizumabは抗PD-1抗体である。第II相BGB-A317-206試験において、tislelizumabと化学療法を併用することで、進展型小細胞肺がんに対して有望な抗腫瘍活性が示された。今回は、進展型小細胞肺がんに対して化学療法にtislelizumabを上乗せすることの意義を検証することを目的としたランダム化二重盲検プラセボ対照第III相試験であるRATIONALE-132試験の最終解析結果を報告する。

 

方法:

 中国国内の未治療進展型小細胞肺がん患者を対象に、tislelizumab群とプラセボ群に1:1の割合で無作為割付した。tisilelizumab群ではtislelizumab 200mg+エトポシド+カルボプラチン併用療法を3週間ごとに4コース行い、その後維持療法としてtislelizumab  200mgを継続投与した。プラセボ群ではプラセボエトポシド+カルボプラチン併用療法を3週間ごとに4コース行い、その後維持療法としてプラセボを継続投与した。維持療法は病勢進行、臨床的有用性の消失、忍容不能な毒性、治療同意撤回のいずれかに至るまで継続した。主要評価項目はintent-to-treat解析による全生存期間(OS)とした。副次評価項目は担当医評価による無増悪生存期間(PFS)、奏効割合(ORR)、奏効持続期間(DoR)、安全性とした。

 

結果:

 2019/07/22から2021/04/22までの期間に、457人の患者が無作為割付された(tislelizumab群227人、プラセボ群230人)。両群間に患者背景の偏りはなかった。プラセボ群と比較して、tislelizumab群の方がより進行した患者が多かった(IV期の患者はtislelizumab群91.2% vs プラセボ群87.4%、転移巣が3ヶ所以上の患者はtislelizumab群80.6% vs プラセボ群71.3%)。2023/04/19のデータカットオフ時点までの追跡期間中央値は14.2ヶ月(0.1-44.9)だった。tislelizumab群は統計学的有意にOSを延長した(ハザード比0.75、95%信頼区間0.61-0.92、p=0.0035)。OS中央値はtislelizumab群15.5ヶ月(95%信頼区間13.5-17.1)、プラセボ群13.5ヶ月(95%信頼区間12.1-14.9)だった。1年、2年、3年生存割合はtislelizumab群で62.7%、33.2%、25.0%で、プラセボ群では58.4%、22.4%、9.3%だった。tislelizumab群はPFSも統計学的有意に延長した(ハザード比0.63、95%信頼区間0.51-0.78、p<0.0001)。PFS中央値はtislelizmab群4.8ヶ月(95%信頼区間4.3-5.5)、プラセボ群4.3ヶ月(95%信頼区間4.2-4.4)だった。ORRはtislelizumab群68.3%に対してプラセボ群61.7%、DoRはtislelizumab群4.3ヶ月に対してプラセボ群3.7ヶ月だった。tislelizumab群の59.9%、プラセボ群の73.9%が1レジメン以上の後治療を受けた。tislelizumab群の85.5%、プラセボ群の86.0%がgrade3以上の治療関連有害事象を経験し、両群ともに血液毒性の頻度が高かった。tislelizumab群の31.3%、プラセボ群の17.9%で深刻な治療関連有害事象を認めた。免疫関連有害事象(irAE)はtislelizumab群の38.3%、プラセボ群の17.9%で認めた。大半のirAEはステロイドホルモン剤による治療で対処可能だった。

 

結論:

 未治療進行小細胞肺がん患者に対し、tislelizumabを化学療法と併用することで、有意な臨床的有用性と安全性プロファイルが確認された