・IMpower150試験におけるEGFR遺伝子変異陽性サブグループ解析結果

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 TKI感受性EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん患者さんにとって、治療経過のどこかでオシメルチニブが使えなくなる、というのは現在の治療体系においては深刻な問題です。

 教科書的には、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が使えなくなっても、化学療法を行えば全体の生存期間は延びる、ということはわかっています。

 しかし、自宅で内服薬を飲みながら長期間治療を続けてきた患者さんにとって、病状が悪化した、あるいは副作用で治療を続けられなくなったとき、そこから抗がん薬治療に切り替える、というのはかなりの決意を要します。

 中には、確定診断後の治療開始前から、内服薬が効かなくなったらあとは支持療法のみでよい、抗がん薬点滴まではしたくない、と所信表明をする方も少なくありません。

 

 さて、EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者さんにとって、免疫チェックポイント阻害薬の有効性はあまり期待できない、というのもまた通説として知られています。

 さらには、免疫チェックポイント阻害薬使用後にEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用すると、高い頻度で薬剤性肺障害を起こす、ということすら言われています。

 そのためEGFR遺伝子変異陽性の場合には免疫チェックポイント阻害薬の使用は控えることが一般的だと思います。

 しかし、今回紹介するIMpower150レジメン(アテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル併用療法)は少し趣が異なるようで、本試験の結果が初めて公表された2018年の段階でEGFR遺伝子変異陽性患者さんへの有効性が指摘されています。

 今回は、IMpower150試験におけるEGFR遺伝子変異陽性患者さんのサブグループ解析結果について触れた論文を取り上げます。

 対象患者さんの数が限られるので慎重な解釈が必要ですが、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療が暗礁に乗り上げてから中央値で2年半程度の生存期間延長が見込めるというのは有望な結果であり、オシメルチニブが使えなくなった患者さんは本治療を検討されるとよいでしょう。

 

 

 

 

 

IMpower150 Final Exploratory Analyses for Atezolizumab Plus Bevacizumab and Chemotherapy in Key NSCLC Patient Subgroups With EGFR Mutations or Metastases in the Liver or Brain

 

N Nogami et al. J Thorac Oncol. 2022 Feb;17(2):309-323. 
doi: 10.1016/j.jtho.2021.09.014. Epub 2021 Oct 7.

 

背景:

 第III相IMpower150試験における、EGFR遺伝子変異陽性サブグループ、肝転移合併サブグループ、脳転移合併サブグループの全生存期間解析に関する最終解析結果を報告する。

 

方法:

 未治療進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者1202人を対象として、ABCP群(アテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル)、ACP群(アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル)、BCP群(ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル)に無作為に割り付けた。治療済みで病状が安定している脳転移を有する患者も参加可能とした。EGFR遺伝子変異陽性サブグループ、肝転移合併サブグループの全生存期間解析を行った。intention -to-treat解析における新規脳転移巣発生率や発生時期についても解析した。

 

結果:

 2019年9月13日のデータカットオフ時点(追跡期間中央値39.3ヶ月)で、EGFR遺伝子変異陽性サブグループにおいて、BCP群に対するABCP群の全生存期間延長効果は維持されていた(ハザード比0.60、95%信頼区間0.31-1.14で、さらにEGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療歴のある患者に限って解析するとハザード比0.74、95%信頼区間0.38-1.46)。また、肝転移合併サブグループにおいても、BCP群に対するABCP群の全生存期間延長効果は維持されていた(ハザード比0.68、95%信頼区間0.45-1.02)。一方、EGFR遺伝子変異陽性サブグループにおいてBCP群に対するACP群の全生存期間延長効果は認めなかった(ハザード比1.0、95%信頼区間0.57-1.74、さらにEGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療歴のある患者に限って解析するとハザード比1.22、95%信頼区間0.68-2.22)。また、肝転移合併サブグループにおいても同様だった(ハザード比1.01、95%信頼区間0.68-1.51)。IMPower150試験参加者1202人のうち、100人(8.3%)の患者で新規脳転移巣が出現した。評価項目として事前規定していなかったものの、BCP群に対してABCP群はランダム化から新規脳転移巣出現までの期間を遅らせた(ハザード比0.68、95%信頼区間0.39-1.19)。

 

結論:

 慎重に解釈が必要ではあるものの、IMpower150試験についての今回の最終的探索結果より、EGFRチロシンキナーゼ治療後病勢進行に至った患者や肝転移を有する患者を一部含むEGFR遺伝子変異陽性患者で、BCP群と比較してABCP群で生存期間延長効果が見られることがわかった。ABCP療法の脳転移新出抑制効果については、さらなる検証が必要である。

 

 

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 旧ブログへのリンクです。

 IMpower150試験が論文発表された当時にまとめたものです。

大分での肺がん診療:IMpower150試験:麺大盛り、肉野菜増し増し、背脂多めで! (junglekouen.com)

 

 

 こちらも同様に旧ブログへのリンクです。

 製薬会社提供のパンフレットから、IMpower150試験の概要が分かる図表を掲載しています。

大分での肺がん診療:IMpower150試験、再掲 (junglekouen.com)