・ニボルマブ+プラチナ併用化学療法による術前治療:米国食品医薬品局が承認

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 完全切除可能非小細胞肺がんの治療成績向上を目指した手術前後の取り組みには、大きく分けて以下のようなものがあります。

1)術前薬物療法(NeoAdjuvant therapy)

2)術前化学放射線療法(Induction ChemoRadiotherapy)

3)術後薬物療法(Adjuvant therapy)

 

1)は有効性を裏付ける臨床試験のデータは乏しく実地臨床でもあまり行われない、2)は臨床試験の裏付けは乏しいもののわが国の実地臨床現場ではしばしば行われる、3)はUFT、プラチナ併用化学療法や、最近ではアテゾリズマブの有効性も報告され、実地臨床に浸透している

というのが個人的な見解です。

 

 1)の治療開発は不毛の荒野を行くようなものであるという印象を持っていたのですが、ニボルマブ+プラチナ併用化学療法の術前投与の有効性を検証したCheckMate-813試験がその荒野を切り開いたようです。

 このことについて、2022/03/04付でブリストルマイヤーズスクイブ社からプレスリリースが発出されました。

 通常こうしたプレスリリースでは詳しい臨床試験データは公表されず、学会等で報告されてから徐々に全容が明らかとなるのですが、今回のプレスリリースは極めて異例で、主要評価項目のみならず副次評価項目の全生存期間についてのデータも一部公表されていました。

 詳細なデータを見てみないと、また長期追跡結果を見てみないと正しい評価はできませんが、異例のデータ公表を製薬会社が行い、それを規制当局が黙認しているのは、大きな期待の裏返しではないかと思います。

 プレスリリースの内容を、学術論文の要旨の体裁にまとめ直したうえで記載します。

 

 

 

 

U.S. Food and Drug Administration Approves Opdivo® (nivolumab) with Chemotherapy as Neoadjuvant Treatment for Certain Adult Patients with Resectable Non-Small Cell Lung Cancer

 

03/04/2022, press released by Bristol Myers Suibb Co. 

 

 ニボルマブ併用療法は、早期・進行期を問わず、非小細胞肺がんの治療として薬事承認されることになった。

 

 2022/03/04、米国食品医薬品局がプラチナ併用化学療法とニボルマブの併用療法を非小細胞肺がんの術前治療として承認したとブリストルマイヤーズスクイブ社が発表した。がんのPD-L1発現状態は問わない。本治療は、切除可能非小細胞肺がん(腫瘍長径40mm以上若しくは所属リンパ節転移あり)成人患者を対象に、ニボルマブ360mgの経静脈投与とプラチナ併用化学療法を3週間ごとに3コース反復する。今回の薬事承認は、切除可能非小細胞肺がん患者に対し、術前に免疫チェックポイント阻害薬併用治療を行うことの有用性を初めて示した第III相試験であるCheckMate-816試験の結果に基づいている。

 

 第III相CheckMate-816試験では、ニボルマブ+プラチナ併用化学療法がプラチナ併用化学療法単独に対して、無イベント生存期間(event-free survival, EFS)と病理学的完全奏効割合を有意に改善した。今回の薬事承認により、本治療は史上初の、そして現時点では唯一の免疫チェックポイント阻害薬併用術前療法として認められたことになる。

 

目的:

 CheckMate-816試験はランダム化オープンラベル臨床試験であり、がん組織のPD-L1発現状態によらず、切除可能非小細胞肺がん成人患者に対する術前療法として、プラチナ併用化学療法にニボルマブを上乗せすることの意義を検証した。

 

方法:

 組織学的確定診断済みのIB期(腫瘍最大径40mm以上)、II期、IIIA期(これら病期はAJCC/UICC肺がん病期分類規約に基づいて評価)の非小細胞肺がん患者であること、ECOG-PS 0もしくは1であること、RECIST ver.1.1に基づく測定可能病変を有することを適格条件とした。以下に該当する患者は除外することとした:切除不能若しくは遠隔転移を有する非小細胞肺がん、EGFR遺伝子変異もしくはALK転座陽性、Grade 2以上の末梢神経障害、活動性の自己免疫疾患、なんらかの免疫抑制療法を必要とする背景疾患がある。

 主要評価項目を解析するために必要な患者数は358人とした。ニボルマブ360mg+各患者の病理組織型に最適なプラチナ併用化学療法を3週間ごとに最大3コース投与する群(NC群)と、各患者の病理組織型に最適なプラチナ併用化学療法のみを3週間ごとに最大3コース投与する群(C群)にランダムに割り付け、プロトコール治療終了後に外科切除術を行った。

 主要評価項目は独立効果判定委員会評価によるEFSと、独立病理診断委員会評価による病理学的完全奏効割合とした。EFSは、ランダム化の時点から、以下のいずれかのイベントが発生した時点までの期間とした:外科切除不能となるに至るあらゆる病勢進行、病勢進行、術後再発、患者死亡(原因は問わない)。加えて、病理学的完全奏効は、切除後の腫瘍原発巣と摘除された所属リンパ節のいずれにも残存がん細胞が認められないと病理診断委員会に判定されることとした。副次評価項目には全生存期間(OS)を含めた。

 

結果:

 NC群に179人、C群に179人が割り付けられた。C群に対して、NC群は統計学的有意にEFSを改善し、術前病勢進行・術後再発・死亡リスクを37%低下させた(ハザード比0.63、95%信頼区間0.45-0.87、p=0.0052)。EFS期間中央値はNC群で31.6ヶ月(95%信頼区間は30.2-未到達)、C群で20.8ヶ月(95%信頼区間14.0-26.7)だった。加えて、病理学的完全奏効割合はNC群で24%(95%信頼区間18.0-31.0)、C群で2.2%(95%信頼区間0.6-5.6)だった(治療群間の差異推定値は21.6%(95%信頼区間15.1-28.2)、p<0.0001)。プロトコール規定に基づくOSの中間解析ではハザード比0.57(95%信頼区間0.38-0.87)だったが、中間解析時点における統計学有意水準には達しなかった。

 NC群では、プロトコール治療中止に至る有害事象が全体の10%に、プロトコール治療延期に至る有害事象が全体の30%に発生した。深刻な有害事象はNC群全体の30%に発生した。2%以上の患者に発生した深刻な有害事象には肺炎や嘔吐があった。致死的な有害事象はNC群には認めなかった。頻度の高かった(>20%)有害事象は嘔気(38%)、便秘(34%)、倦怠感(26%)、食欲不振(20%)、発疹(20%)だった。

  なお、本試験におけるEFSのデータは、2022年04月開催の「米国がん学会( American Association for Cancer Research, AACR)年次総会年次総会で公表される予定である。

 

 

 関連記事です。

 1年半前に小野薬品工業からプレスリリースが発出された時点での記事です。

 本来製薬会社からのプレスリリースは、こうした形式をとり、学会発表前に具体的なデータが示されるのは異例です。

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 CheckMate-816試験における病理学的完全奏効割合のデータは、2021年のAACR年次総会で報告済みです。

 こうした経緯があるので、今回EFSについて学会に先立って発表されたのかもしれません。

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 コンセプトが類似した他の臨床試験について、簡単にまとめてあります。

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