・術前化学免疫療法のCheckMate816試験について、論文抄読


 企業のプレスリリースの段階で記事にして満足してしまっていたCheckMate-816試験ですが、切除可能非小細胞肺がんの術前治療としては初めて大規模ランダム化比較試験で統計学的有用性が示された点で、間違いなく肺がん治療の歴史の転換点です。

 IIIA期非小細胞肺がんの治療戦略の大きな一石を投じます。

 今後、化学放射線療法+免疫療法や術後補助化学療法、術後免疫療法との住み分けが活発に議論されることになりそうですので、細部を振り返ることができるように改めて論文を抄読し、要点を記録に残します。

 

 

 

Neoadjuvant Nivolumab plus Chemotherapy in Resectable Lung Cancer

 

Patrick M Forde et al.
N Engl J Med. 2022 May 26;386(21):1973-1985. 
doi: 10.1056/NEJMoa2202170. Epub 2022 Apr 11.

 

背景:
 術前化学療法、もしくは術後化学療法は切除可能非小細胞肺がんにおいて、手術単独よりもいくばくか治療効果を改善する。早期臨床試験において、ニボルマブを含む術前治療は有望な臨床的活性を示した。しかし、こうしたデータを裏付ける第III相臨床試験が望まれていた。

 

方法:
 今回のオープンラベル第III相臨床試験では、切除可能Ib-IIIA期非小細胞肺がん患者を対象に、以下の2群にランダムに割り付けた。NC群:ニボルマブ+プラチナ併用化学療法、C群:プラチナ併用化学療法のみ。NC群、C群ともに、薬物療法後に外科切除を行うこととした。
 主要評価項目は無イベント生存割合(event-free survival, EFS:ランダム化の時点から、以下のいずれかのイベントが発生した時点までの期間; 外科切除を妨げるあらゆる病勢進行、外科切除後の病勢進行・術後再発、外科切除をしなかった場合の病勢進行、患者死亡(原因は問わない))と病理学的完全奏効(pathological complete response, pCR: 切除した肺と所属リンパ節のいずれにも残存腫瘍細胞を認めない)割合とした。どちらの項目も、独立委員会の評価によるとした。全生存期間(OS)は副次評価項目のひとつとした。プロトコール治療を受けた全ての患者を安全性評価対象とした。

 

結果:
 EFS中央値はNC群31.6ヶ月(95%信頼区間30.2-未到達)、C群20.8ヶ月(95%信頼区間14.0-26.7)で、ハザード比は0.63(97.38%信頼区間0.43-0.91、p=0.005)だった。pCR割合はNC群24.0%(95%信頼区間18.0-31.0)、C群2.2%(95%信頼区間0.-5.6)で、オッズ比は13.94(99%信頼区間3.49-55.75、p<0.001)だった。EFSとpCR割合はほとんどのサブグループ解析でNC群がC群より良好な結果となった。初回の中間解析において、生存期間に関するハザード比は0.57(99.67%信頼区間0.30-1.07)で、この時点では有意水準に達しなかった。ランダム割付を受けた患者のうち、NC群の83.2%、C群の75.4%が外科切除を受けた。Grad 3-4の治療関連有害事象は NC群の33.5%、C群の36.9%で認められた。

 

結論:
 切除可能非小細胞肺がん患者において、術前ニボルマブ+化学療法併用療法は術前化学療法と比べて有意にEFSを延長し、pCR割合を高めた。術前化学療法にニボルマブを加えても有害事象の発生を増加させることはなく、外科切除の忍容性を妨げることもなかった。

 

本文より:
・外科切除単独と比較して、術前化学療法を加えることによる5年無再発生存割合や5年生存割合の上乗せ効果は5-6%程度
・生存期間の予測因子となり得るpCRに至る患者はほとんどいない(中央値4%、範囲は0-16)
・術前ニボルマブ療法や術前ニボルマブ+化学療法併用療法に関する第II相試験(NADIM試験、NEOSTAR試験)において、pCR割合、生存期間、安全性の解析を行い、有望な結果が得られており、これら試験において術前ニボルマブ+化学療法平負う療法を受けた切除可能IIIA期非小細胞肺がん患者の3年生存割合は81.9%、3年無増悪生存割合は69.6%だった
・今回のCheckMate816試験では、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子を認めた患者は除外した
・NC群では、外科切除の前にニボルマブ360mgとプラチナ併用化学療法を3週間ごとに3コース行うこととした
・C群では、外科切除の前にプラチナ併用化学療法を3週間ごとに3コース行うこととした
・本来CheckMate816試験はNC群、C群に加えNI群(外科切除の前にニボルマブ3mg/kgを2週間ごと3コース、イピリムマブ1mg/kgを1コースのみ)も規定されていた
・NADIM試験、NEOSTAR試験、KEYNOTE-021試験のデータを受けて、NI群は臨床試験早期に割付を中止した
・術前療法完了後6週間以内に外科切除を行うこととした
・外科切除後、術後補助化学療法、術後補助放射線療法、あるいはこれらの併用のいずれも施行可能とした
・(外科切除後に認められた上記補助療法を含む)プロトコール治療終了後に何らかの後治療を受けた患者は、その治療を開始した日、あるいは開始する前の評価時点で打ち切り例として扱うこととした
・主要評価項目であるEFSとpCR割合について、両側検定を行うこととし、αエラーをそれぞれ0.04、0.01割り付けることとした
pCR割合の解析は、全ての患者が外科切除の機会を与えられてから行うこととした
・オッズ比3.857を両側検定でのαエラー0.01、検出力90%で検定する設定とし、術前化学療法群のpCR割合を10%と仮定して、割付予定患者数は両群合わせて350人程度と見積もった
・もし両群間のpCR割合に有意差がついたら、EFSに関する検定はαエラー0.05の両側検定で行うこととした
・EFSのハザード比0.65を両側検定のαエラー0.05で検定するにあたり、約185件のEFSイベントが発生したら82%の検出力で検定できるとみつもり、予定イベント数の80%(148件)が発生した時点で1回目、90%(166件)が発生した時点で2回目の中間解析を行うこととした
・もし両群間のEFSに有意差がついたら、続いて階層的にOSに関する検定も行うこととした
・今回の報告はEFS、OSに関する1回目の中間解析(データカットオフは2021/10/20、最小追跡期間は21ヶ月、追跡期間中央値は29.5ヶ月)と、pCR割合に関する最終解析(データカットオフは2020年9月16日)の結果を受けたものである
・2017年03月から2019年11月までに、773人の患者が参加登録し、505人がランダム割付を受け、358人がNC群(179人)とC群(179人)に割り付けられ、各群176人がプロトコール治療を受けた
・IB-II期の患者は127人、IIIA期の患者は228人で、全体の63.9%がIIIA期の患者だった
・今回の解析時点で、全ての患者がプロトコール治療を終了した
・NC群の93.8%、C群の84.7%がプロトコール治療を完遂した
・NC群の11.9%、C群の22.2%が術後補助化学療法を受けた
・NC群の21.2%、C群の43.6%が何らかの後治療を受けた
・NC群の17.3%、C群の36.3%が後治療として何らかのがん薬物療法を受けた
・NC群の15.6%、C群の20.7%では外科切除が中止された
・外科切除中止の理由は、病勢進行(NC群6.7% vs C群9.5%)、有害事象(NC群1.1% vs C群0.6%)、その他(NC群7.8% vs C群10.6%で、患者の同意取り下げ、完全切除困難、低肺機能などが主な理由)だった
・NC群では、小さな手術侵襲に抑えられる傾向があり、片肺全摘に至るケースは少なかった
・R0(完全切除)割合はNC群83.2%、C群77.8%だった
・1年EFS割合はNC群76.1%、C群63.4%だった
・2年EFS割合はNC群63.8%、C群45.3%だった
・術後補助治療の影響を補正しても、EFSはNC群が優位に優れていた(ハザード比0.65(95%信頼区間0.47-0.90)
・IIIA期の患者集団では、EFS中央値はNC群31.6ヶ月(95%信頼区間26.6-未到達)、C群15.7ヶ月(95%信頼区間10.8-22.7)、ハザード比0.54(95%信頼区間0.37-0.80)で、全体での解析と比較してNC群の優越性が際立っていた
・非扁平上皮がんの患者集団では、EFS中央値はNC群未到達(95%信頼区間27.8-未到達)、C群19.6ヶ月(95%信頼区間13.8-26.2)、ハザード比0.50(95%信頼区間0.32-0.79)で、全体での解析と比較してNC群の優越性が際立っていた
・PD-L1≧50%の患者集団では、EFS中央値はNC群未到達(95%信頼区間未到達-未到達)、C群19.6ヶ月(95%信頼区間8.2-未到達)、ハザード比0.24(95%信頼区間0.10-0.61)で、全体での解析と比較してNC群の優越性が際立っていた
・IIIA期の患者におけるpCR割合はNC群23.0%(95%信頼区間15.6-31.9)、C群0.9%(95%信頼区間<0.1-4.7)だった
・PD-L1発現割合別のpCR割合は、PD-L1<1%の患者集団ではNC群16.7%(95%信頼区間9.2-26.8)、C群2.6%(03-9.1)、PD-L1 1-49%の患者集団ではNC群23.5%(95%信頼区間12.8-37.5%)、C群0%(95%信頼区間0-7.5)、PD-L1≧50%の患者集団ではNC群44.7%(95%信頼区間28.6-61.7)、C群4.8%(0.6-16.2)だった
・病理学的著効(major pathologic response, MPR; 切除した肺およびリンパ節に認められる生存腫瘍細胞が10%以下)割合は、NC群36.9%、C群8.9%、オッズ比5.70(95%信頼区間3.16-10.26)で、NC群の方が高かった
・1回目の中間解析時点で、生存期間中央値は両群とも未到達、ハザード比の有意水準0.0033を満たさなかった
・ランダム化から遠隔転移発覚もしくは死亡までの期間はNC群で有意に延長していた(ハザード比0.53、95%信頼区間0.36-0.77)
・ランダム化から再発、もしくは後治療後の病勢進行、もしくは死亡までの期間はNC群で有意に延長していた(ハザード比0.54、95%信頼区間0.37-0.80)
プロトコール治療中止に至る治療関連有害事象は、NC群の10.2%、C群の9.7%で認めた
・術前療法に伴う治療関連死は3人、いずれもC群で発生し、内訳は汎血球減少+下痢+急性腎障害1人、急性腸炎1人、肺炎1人だった
・外科手術の延期を招くような有害事象はNC群の3.4%、C群の5.1%に認め、手術中止を招くような有害事象はNC群の1.1%、C群の0.6%で認めた
・手術関連死はNC群で2人発生し、それぞれ肺塞栓症と大動脈破裂だった
・EFS延長効果は、シスプラチン使用群よりもカルボプラチン使用群の方が高かった」

 

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 学会での結果公表前に、臨床試験の細部が企業のプレスリリースで公表されるなど通常はあまり経験しませんが、それを許すだけのインパクトが本試験には合ったということなのでしょう。

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