・第II相NADIM-II試験・・・ニボルマブ周術期(術前・術後)補助療法

 

 KEYNOTE-671試験と比較すると規模は小さいランダム化第II相試験ながらも、III期の患者さんに絞って、化学療法はカルボプラチン+パクリタキセル併用療法に絞って行われたNADIM II試験。

 術前・術後にニボルマブを併用する試験治療群においてはN2患者さんが72%を占めており、N2-III期の患者さんに対してカルボプラチン+パクリタキセル+根治的胸部放射線照射からそれに引き続くデュルバルマブ地固め療法が主流と考えられる我が国の実地臨床においては、KEYNOTE-671試験よりもNADIM II試験の方がより参考になるのではないでしょうか。

 KEYNOTE-671試験と同様に、5年、10年と追跡しないとその真価は定まらないと思いますが、pCRが確認された患者さんは今回の追跡期間(中央値26.1ヶ月)内では全員無再発生存していたというのは心強いデータです。

 

 

 

Perioperative Nivolumab and Chemotherapy in Stage III Non-Small-Cell Lung Cancer

 

Mariano Provencio et al.
N Engl J Med. 2023 Jun 28. 
doi: 10.1056/NEJMoa2215530. Online ahead of print.

 

背景:

 非小細胞肺がん患者の約20%はIII期と診断される。こうした患者に対する最適な治療について、これまで統一した見解は得られていない。

 

方法:

 今回のオープンラベルランダム化第II相試験では、IIIA / IIIB期の非小細胞肺がん患者を対象に、試験治療群と対照群に無作為に割り付けた。試験治療群では術前ニボルマブ+プラチナ併用化学療法を、対照群では術前プラチナ併用化学療法を行い、その後手術を行った。試験治療群のうち完全切除(R0切除)ができた患者では、6か月間にわたって術後ニボルマブ補助療法を行った。主要評価項目は病理学的完全奏効(pathological complete response, pCR、切除された肺がん原発巣とリンパ節に残存腫瘍細胞を認めない状態)割合とした。副次評価項目には、24ヶ月時点での無増悪生存割合、全生存割合、安全性を含めた。

 

結果:

 86人の患者が無作為割り付けされた。57人が試験治療群に、29人が対照群に割り付けられた。pCR割合は試験治療群で37%、対照群で7%だった(相対リスク5.34、95%信頼区間1.34-21.23、p=0.02)。試験治療群の93%、対照群の69%で手術が施行された(相対リスク1.35、95%信頼区間1.05-1.74)。カプランマイヤー法で推定した24ヶ月無増悪生存割合は試験治療群で67.2%、対照群で40.9%だった(ハザード比0.47、95%信頼区間0.25-0.88)。同じく24ヶ月生存割合は試験治療群で85.0%、対照群で63.6%だった(ハザード比0.43、95%信頼区間0.19-0.98)。Grade 3-4の有害事象は試験治療群で11件(19%)、対照群で3件(10%)認めた。

 

結論:

 切除可能なIIIA / IIIB期非小細胞肺がん患者において、周術期ニボルマブ+プラチナ併用化学療法は、術前化学療法単独と比較してpCR割合を高め、生存期間を延長した。

 

 

 

<本文より>

・IIIA / IIIB期非小細胞肺がん患者に対し、術前化学療法後に手術をした場合の5年生存割合は36%に留まる

・今回のNADIM II試験では、N3(肺がん原発巣とは反対側の縦隔・肺門リンパ節や、鎖骨上窩リンパ節転移を伴うもの)患者やEGFR / ALK遺伝子異常を有する患者は不適格とした

・NADIM II試験はスペイン国内の21の病院で行われた

・対象患者は、試験治療群と対照群に2:1の割合で無作為割付された

・試験治療群では、ニボルマブ(360mg/回)、パクリタキセル(体表面積1平米あたり200mg/回)、カルボプラチン(5AUC)を3週間ごとに3コース投与し、その後に手術を行った

・試験治療群では、R0切除できた患者は術後補助療法としてニボルマブ480mg/回を4週ごとに6か月間にわたって使用した

・手術は術前治療3コース目の21日目から起算して3-4週間以内に計画された

・術前治療後にあっても腫瘍病巣が外科切除困難と判断された患者は治療が無効だったと判断された

・病状はPET/CTおよびCTで経過を追い、無作為割付前28日間以内、術前療法3コース終了後、術前10日間以内の3時点で術前評価を行い、N2(同側縦郭リンパ節転移)の有無は病理学的に確認した

・術後は当初2年間は3ヶ月ごとに、その後は6ヶ月ごとにCTで経過観察した

・2019年06月から2021年02月までの期間に、計90人の患者が登録され、うち4人は適格基準を満たしていなかったため除外した

・残った86人を無作為割付し、57人が試験治療群に、29人が対照群に割り付けられた

・今回の報告は2022/06/16までのデータに基づく

・86人中、81人(94%)の患者が術前治療を完遂した

・対照群のうち、4人において術前治療後に病勢進行を認めた

・試験治療群の53人(93%)と対照群の26人(90%)に何らかの背景疾患を伴っていた

pCR割合は試験治療群で21/57(37%、95%信頼区間24-51)、対照群で2/29(7%、95%信頼区間1-23)だった(相対リスク5.34、95%信頼区間1.34-21.23、p=0.02)

・PD-L1発現≧1%の患者で試験治療の効果が顕著だった

・MPR(major pathological response, 切除した肺がん原発巣およびリンパ節内の残存腫瘍細胞が10%以下と定義)割合は試験治療群で53%(95%信頼区間39-66)、対照群で14%(95%信頼区間4-32)だった(相対リスク3.82、95%信頼区間1.49-9.79)

・奏効割合は試験治療群で75%(95%信頼区間62-86)、対照群で48%(95%信頼区間29-67)だった(相対リスク1.56、95%信頼区間1.04-2.34)

・追跡期間中央値は26.1ヶ月(四分位間17.4-30.9)だった

・追跡期間内に、病勢進行が確認されたのは34人(各群17人ずつ)、死亡が確認されたのは23人(試験治療群12人、対照群11人)だった

・初回のイベントとして遠隔転移が発生したのは試験治療群のうち10人(18%)、対照群のうち8人(28%)だった

・初回のイベントとして局所再発が発生したのは試験治療群のうち7人(12%)、対照群のうち9人(31%)だった

・中枢神経系への再発は試験治療群のうち3人(5%)、対照群のうち4人(14%)で認めた

・12ヶ月無増悪生存割合は試験治療群で89.5%(95%信頼区間81.9-97.8)、対照群で58.6(95%信頼区間43.2-79.6)だった

・24ヶ月無増悪生存割合は試験治療群で67.2%(95%信頼区間55.8-81.0)、対照群で40.9%(95%信頼区間26.2-63.6)だった(ハザード比0.47、95%信頼区間0.25-0.88)

・無増悪生存期間中央値は試験治療群で未到達(95%信頼区間27.6-未到達)、対照群で15.4ヶ月(95%信頼区間10.6-未到達)だった

・12ヶ月生存割合は試験治療群で98.2%(95%信頼区間94.9-100)、対照群で82.1%(95%信頼区間69.4-97.7)だった

・24ヶ月生存割合は試験治療群で85.0%(95%信頼区間75.9-95.2)、対照群で63.6%(95%信頼区間47.8-84.6)だった(ハザード比0.43、95%信頼区間0.19-0.98)

・生存期間中央値は試験治療群で未到達(95%信頼区間33.5-未到達)、対照群で未到達(21.1-未到達)だった

pCRに至った全ての患者は、観察期間内に病勢進行や術後再発を来すことなく、全員生存していた

プロトコール治療開始前に評価したtumor mutational burden(TMB)やctDNA解析では、試験治療群における治療効果予測はできなかった

・試験治療群のうち53人(93%)、対照群のうち20人(69%)が手術を受けた(相対リスク1.35、95%信頼区間1.05-1.74)

・R0切除できたのは試験治療群のうち50人、対照群の内17人だった

プロトコール治療開始前の評価と比較して、術後評価でリンパ節転移の範囲が狭まっていた(リンパ節転移巣のダウンステージング)と判定されたのは試験治療群のうち38人(72%)、対照群のうち8人(40%)だった(相対リスク1.79、95%信頼区間1.02-3.15)

・片肺全摘は試験治療群のうち6人(11%)で、対照群のうち2人(10%)で行われた

・試験治療群のうち4人(7%)、対照群のうち9人(39%)で手術がキャンセルされた

・試験治療群のうち1人(右片肺全摘を受けていた)が、術後13日目に術後合併症のため死亡した

・試験治療群のうちR0切除に至った50人中42人(84%)は少なくとも1コースのニボルマブ単剤による術後補助療法を受け、50人中33人(66%)が同治療を完遂した

ニボルマブ単剤による術後補助療法の平均施行コース数は4.2コースだった

・術前療法中にGrade 3-4の有害事象に至ったのは試験治療群11人(19%)、対照群3人(10%)だった

・試験治療群における術前療法中の主なGrade 3-4の有害事象は発熱性好中球減少(5%)と下痢(4%)だった

・試験治療群のうち4人、対照群のうち1人では、治療関連有害事象のため術前療法を中止することになった

・有害事象のために手術が延期されることはなかった

ニボルマブ単剤による術後補助療法による有害事象は44人中25人(57%)で認めた

ニボルマブ単剤による術後補助療法によるGrade 3-4の有害事象は44人中2人(5%)で認めた

プロトコール治療開始前のctDNA量(baseline ctDNA)は57人(66%)の患者で評価でき、無増悪生存期間や全生存期間との相関がみられた

・全生存期間予後予測において、臨床病期評価に加えてbaseline ctDNA量測定も有用であった

プロトコール治療開始前のctDNA量は、腫瘍径と相関していた

・36人の患者では術前療法後、手術前のctDNAを評価でき、試験治療群27人中18人(67%)と対照群9人中4人(44%)では術前療法後にctDNAが陰性化していた

・今回のNADIM II試験におけるpCR割合は37%で、CheckMate816試験(24%)よりは高かったが、NADIM試験(63%)よりは低かった

・NADIM試験では術前療法におけるカルボプラチン投与量を6AUCとし、NADIM II試験では5AUCに減らしていたため、この点がpCR割合の低下につながったのかもしれない

・NADIM II試験で対象とした患者のうち3分の2が病理学的に確定診断されたN2であり、複数のN2リンパ節転移を有する患者も含んでいた

・片肺全摘が必要だった患者は両群とも同等(試験治療群10%、対照群11%)で、CheckMate816試験よりは少なかった

・CheckMate816試験とは異なり、NADIM II試験では試験治療群のうちR0切除できた患者ではニボルマブ単剤による術後補助療法を行った

・後付けの解析ではあるが、ニボルマブ単剤による術後補助療法を完遂した患者集団の予後は完遂しなかったの患者集団よりも良好で、IMpower010試験と同様に免疫チェックポイント阻害薬による術後補助療法の有用性を示唆している