・第III相KEYNOTE-671試験・・・ペンブロリズマブとプラチナ併用化学療法による周術期(術前・術後)補助療法

 

 これまでのところ、肺がん領域における2023年最大のトピックスは、「免疫チェックポイント阻害薬による周術期補助療法」でしょうね。

 今回取り上げるKEYNOTE-671試験のほか、AEGEAN試験、Neotorch試験、NADIM II試験と目白押しです。

 5年、10年と追跡しないとその真価は定まらないと思いますが、生存期間の代替エンドポイントとされるpCR割合やMPR割合が向上していること、さらには腫瘍エンドポイントである無イベント生存期間がpCR割合やMPR割合と相関「しない」こと、術前に加えて術後にペンブロリズマブを加えることが術前のみと比べて無イベント生存期間を延長させそうな傍証が示されていることが、期待感を膨らませます。

 あとは、有害事象やコストとどう折り合いをつけるか、ということになるでしょう。

 

 

 

Perioperative Pembrolizumab for Early-Stage Non-Small-Cell Lung Cancer

 

Heather Wakelee et al.
N Engl J Med. 2023 Jun 3. 
doi: 10.1056/NEJMoa2302983. Online ahead of print.

 

背景:

 切除可能早期非小細胞肺がん患者においては、術前・術後の免疫チェックポイント阻害薬投与を含む周術期治療が、それぞれの治療を単独で行う場合と比べてより有効な可能性がある。

 

方法:

 早期非小細胞肺がん患者に対する周術期ペンブロリズマブ投与について評価するランダム化二重盲検第III相臨床試験を企画した。II / IIIA / IIIB(N2)期の切除可能非小細胞肺がん患者を対象として、Pembro群(術前にペンブロリズマブ200mg+シスプラチン併用化学療法を3週間隔で4コース、続いて手術、その後ペンブロリズマブ200mgを3週ごとに最大13コース施行)とplacebo群(術前に偽薬+シスプラチン併用化学療法を3週間隔で4コース、続いて手術、その後偽薬を3週ごとに最大13コース施行)に1:1の割合で割り付けた。主要評価項目は2項目設定し、無イベント生存期間(event free survival, EFS、ランダム化から予定手術施行不能となる局所進行、病巣完全切除不能、病勢進行もしくは術後再発、死亡のいずれかのイベントが発生するまでの期間)と全生存期間(OS)とした。副次評価項目はmajor pathological response(MPR)、病理学的完全奏効(pathologidal complete response, pCR)、安全性とした。

 

結果:

 Pembro群に397人、placebo群に400人の患者が割り付けられた。1回目の中間解析時点で、追跡期間中央値は25.2ヶ月(7.5-50.6)だった。24ヶ月時点でのEFS割合はPembro群62.4%、placebo群40.6%だった(ハザード比0.58、95%信頼区間0.46-0.72、p<0.001)。概算の24ヶ月OS割合は、pembro群80.9%、placebo群77.6%だった(p=0.02だが、有意水準は満たさなかった)。MPRはpembro群の30.2%に、placebo群の11.0%に認めた(差は19.2%、95%信頼区間は13.9-24.7、p<0.0001)。pCRはpembro群の18.1%、placebo群の4.0%に認めた(差は14.2%、95%信頼区間は10.1-18.7、p<p=0.0001)。プロトコール治療中を通して、pembro群のうち44.9%、placebo群のうち37.3%にgrade 3以上の治療関連有害事象を認め、grade 5(有害事象による患者死亡)がそれぞれ1.0%、0.8%発生した。

 

結論:

 切除可能早期非小細胞肺がん患者において、プラチナ併用化学療法+ペンブロリズマブによる術前療法、それに引き続く手術、術後補助ペンブロリズマブ単剤療法の一連の治療により、プラチナ併用術前化学療法とそれに引き続く手術と比較して、有意に無イベント生存期間、MPR、pCRが改善した。今回の解析では、全生存期間の有意差は確認できなかった。

 

 

<本文より>

・CheckMate-816試験において、ニボルマブ+化学療法の術前補助療法としての有用性が確認された(無イベント生存期間に関するハザード比0.63、97.38%信頼区間0.43-0.91、p=0.005)

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・IMpower010試験では、II-IIIA期、PD-L1発現陽性、完全切除後、術後補助化学療法施行後の非小細胞肺がん患者を対象にPD-L1阻害薬であるアテゾリズマブを使用し、無病生存期間が有意に延長することが示された(無病生存期間に関するハザード比0.66、95%信頼区間0.50-0.88、p=0.004)

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・PEARLS / KEYNOTE-091試験では、IB-IIIA期、PS-L1発現は問わない、完全切除後、ガイドライン上推奨される状態なら術後補助化学療法施行後の非小細胞肺がん患者を対象にPD-1阻害薬であるペンブロリズマブを使用し、無病生存期間が有意に延長することが示された(無病生存期間に関するハザード比0.76、95%信頼区間0.63-0.91、p=0.001)

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・術前、術後の免疫チェックポイント阻害薬に関する有効性がこれだけ示されているのなら、いっそ術前も術後もペンブロリズマブを使ってみたら治療成績が向上するのではないか、というのがコンセプト

・対象は18歳以上、未治療、病理学的確定診断済み、AJCC第8版準拠のII期、IIIA期、IIIB期(1ヶ所以上の同側肺門リンパ節転移もしくは気管分岐下リンパ節転移(N2相当))の非小細胞肺がん患者

・PD-L1発現状態の中央判定を必須とした

・無作為割り付けに際し、層別化因子は病期(II期 vs III期)、22C3抗体での免疫組織化学染色を用いたPD-L1発現状態(50%未満 vs 50%以上)、組織型(扁平上皮がん vs それ以外)、居住地域(東アジア vs その他の地域)とした

・術前療法として用いるプラチナ併用化学療法は、扁平上皮がんではシスプラチン+ジェムシタビン、非扁平上皮がんではシスプラチン+ペメトレキセドを用いた

・手術は初回の術前療法施行から20週間以内に、各地域の標準的方法に準じて行うこととした

放射線治療は状況に応じて適用可能とした

・術後療法は術後4週間以降12週間の期間内に開始することとした

・major pathological response(MPR)は、切除した肺がん原発巣、リンパ節に残存する腫瘍細胞が全体の10%未満であることと定義した

・病理学的完全奏効(pathological complete response, CR)は、切除した肺がん原発巣、リンパ節に浸潤がん成分が残っていないことと定義した(ypT0/Tis, ypN0)

・2018年04月から2021年12月にかけて、1,364人の患者がスクリーニングされ、797人が無作為割付された(Pembro群に397人、placebo群に400人)

・Pembro群では396人が少なくとも1コースの術前療法を受け、術前療法施行コース数中央値は4コース、325人(82.1%)が予定手術を受け、290人(73.2%)が少なくとも1コースのペンブロリズマブによる術後療法を受けた

Placebo群では399人が少なくとも1コースの術前療法を受け、術前療法施行コース数中央値は4コース、317人(79.4%)が予定手術を受け、267人(66.9%)が少なくとも1コースの偽薬による術後療法を受けた

・予定手術を受けたPembro群、placebo群それぞれの患者において、完全切除(R0切除)ができたのは92.0% vs 84.2%、不完全切除のうちR1切除は5.2% vs 9.8%、R2切除は1.2% vs 1.3%、切除不能だったのは1.5% vs 4.7%だった

・Pembro群の17.1%、Placebo群の37.2%が何らかの後治療を受けており、そのうち跡地利用として免疫チェックポイント阻害薬を使用したのはそれぞれ5.0%、21.2%だった

・解析時点までに、344人(43.2%)の患者で死亡を含むなんらかのイベントが発生した

・24ヶ月無イベント生存割合はPembro群で62.4%(95%信頼区間56.8-67.5)で、Placebo群では40.6%(95%信頼区間34.8-46.3)だった

・無イベント生存期間中央値はPembro群で未到達(95%信頼区間34.1-未到達)、Placebo群で17.0ヶ月(95%信頼区間14.3-22.0)だった(ハザード比0.58、95%信頼区間0.46-0.72、p<0.001)

・177人(22.2%)の患者が解析時点までに死亡した

・24ヶ月生存割合はPembro群で80.9%(95%信頼区間76.2-84.7)、Placebo群で77.6%(95%信頼区間72.5-81.9)だった

・生存期間中央値は、Pembro群では95%信頼区間も含めて確定しておらず、Placebo群では45.5ヶ月(95%信頼区間42.0-未到達)だった

・MPR割合はPembro群で30.2%(95%信頼区間25.7-35.0)、Placebo群で11.0%(95%信頼区間8.1-14.5)、群間差異は19.2%(95%信頼区間13.9-24.7、p<0.0001)だった

pCR割合はPembro群で18.1%(95%信頼区間14.5-22.3)、Placebo群で4.0%(95%信頼区間2.3-6.4)、群間差異は14.2%(95%信頼区間10.1-18.7、p<0.0001)だった

・無イベント生存期間とMPRやpCRに相関は認めなかった

・Pembro群、Placebo群それぞれにおいて、治療関連有害事象は96.7% vs 95.0%、Grade 3以上の治療関連有害事象は44.9% vs 37.3%、深刻な治療関連有害事象は17.7% vs 14.3%に発生した

・治療関連死はPembro群で4人(1.0%、うちわけは免疫関連肺障害1人、肺炎1人、心血管イベントによる突然死1人が術前療法中に、心房細動に起因する死亡が1人術後療法中に発生)、Placebo群で3人(0.8%、うちわけは急性冠動脈症候群1人、肺炎1人、肺胞出血1人、いずれも術前療法中に発生)認めた

プロトコール治療中止に至る治療関連有害事象はPembro群12.6%、Placebo群5.3%で認めた

・Pembro群のうち6人(1.8%)、Placebo群のうち2人(0.6%)が手術から30日以内に死亡(手術関連死)し、それぞれさらに7人(2.2%)、3人(0.9%)が手術から90日以内に死亡した

・サブグループ解析では、非喫煙者(ハザード比0.68、95%信頼区間0.36-1.30)、病理病期II期(ハザード比0.65、95%信頼区間0.42-1.01)、PD-L1発現<1%(ハザード比0.77、95%信頼区間0.55-1.07)の各因子で95%信頼区間が1.0をまたいでいた

・無イベント生存割合とMPR割合、pCR割合の間に相関が認められないことから、術前のみならず術後にペンブロリズマブを投与することになんらかの意味があるのかもしれない(術前に投与したペンブロリズマブの腫瘍制御効果が不十分だとしても、術後にペンブロリズマブを投与することが再発予防、生存期間延長に寄与するのかもしれない)

・術前療法によりpCRに至らなかった患者集団のみを解析すると、各臨床試験における無イベント生存期間の対照群とのハザード比はCheckMate 816試験で0.84(95%信頼区間0.61-1.17)、KEYNOTE-671試験で0.69(95%信頼区間0.55-0.85)と、興味深い結果を示している

KEYNOTE-671試験では遺伝子変異検索を必須としておらず、EGFR遺伝子変異陽性患者やALK融合遺伝子陽性患者も2-5%程度含まれていた(ので、便宜上は遺伝子変異検索の有無を問わずKEYNOTE-671療法は適用可能である)

・PD-L1発現が高いほど、KEYNOTE-671療法の有効性が高い傾向が見られた

・AEGEAN試験では、II-III期の切除可能非小細胞肺がん患者を対象とし、術前化学療法+手術療法を対象群として、デュルバルマブによる周術期補助療法が無イベント生存期間、MPR割合、pCR割合を有意に改善することが示された

・中国で実施されたNeotorch試験では、III期の切除可能非小細胞肺がん患者を対象とし、術前化学療法+手術療法を対象群として、toripalimabによる周術期補助療法が無イベント生存期間、MPR割合、pCR割合を有意に改善することが示された

KEYNOTE-671試験で用いた術前化学療法はシスプラチン併用化学療法のみであり、カルボプラチンは使用していない