RET融合遺伝子陽性進行肺腺がんに蝕まれた義父が最後の望みとしてセルペルカチニブを飲み始めてから、あと一週間で1,000日を数えます。
いろいろと紆余曲折があり、ときには肺血栓塞栓症を合併して厳しい呼吸状態に陥ったこともありましたが、肺がんと共存していまでも細々と仕事をするくらいの活動性を維持しています。
むしろ、仕事をすることで肺がんと闘い続ける活力と生きがいを得ているのかもしれません。
RET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がん患者を対象に、セルペルカチニブ単剤療法とプラチナ併用化学療法±ペンブロリズマブの有効性と安全性を比較するLIBRETTO-431試験の東アジアサブグループ解析結果が報告されていました。
一時は義父を参加させようかと模索した試験でしたが、当時の体力では飛行機で治療に通うのはさすがに無理だと断念し、もはやこれまでかと諦めかけていたときに、LIBRETTO-001試験のデータをもとに製造販売承認が下り、ギリギリで治療が間に合いました。
そういった意味で、個人的に心に刻み込まれている臨床試験です。
Efficacy and safety of 1L selpercatinib in RET fusion-positive NSCLC: LIBRETTO-431 East Asian subgroup analysis.
Ying Cheng et al.
2024 ASCO Breakthrough, Abst. #214
J Clin Oncol 42, 2024 (suppl 23; abstr 214)
DOI:10.1200/JCO.2024.42.23_suppl.214
背景:
先行研究において、RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん患者に対する選択的RET阻害薬セルペルカチニブの有効性と安全性は、地域を問わず同等であることが確認されている。既に報告されている通り、LIBRETTO-431試験はその中間解析において、主要評価項目である独立委員会判定下の無増悪生存期間(PFS)を改善した。今回はLIBRETTO-431試験参加者の多数を占める東アジア人における有効性と安全性のサブグループ解析について報告する。
方法:
LIBRETTO-431試験は、RET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がん患者に対するセルペルカチニブ単剤療法群と対照群(プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法±ペンブロリズマブ)を比較するランダム化オープンラベル第III相試験である。患者居住地(東アジア vs それ以外)が割り付け調整因子だった。対照群に割り付けられた場合には担当医の意向でペンブロリズマブを使用することになっていた東アジアの患者集団(ITT-Pembro集団)を対象として、独立委員会判定によるPFS、奏効割合(ORR)、奏効持続期間(DoR)について集計した。有害事象データは、東アジアから参加し、少なくとも1回のセルペルカチニブもしくは対照治療を受けた全ての患者を対象に解析した。
結果:
LIBRETTO-431試験全体で142人の患者が東アジア地域から参加しており、うち116人がITT-pembro集団に含まれていた(セルペルカチニブ群75人、対照群41人)。背景因子は両群とも同等だったが、東アジアの患者集団ではややセルペルカチニブ群の方が多い傾向が見られた(58% vs 49%)。東アジアのITT-Pembro集団において、追跡期間中央値はセルペルカチニブ群19.4ヶ月、対照群21.2ヶ月で、PFS中央値はセルペルカチニブ群未到達(95%信頼区間16.4ヶ月-未到達)、対照群11.1ヶ月(95%信頼区間7.0-16.8)だった。12ヶ月PFS割合はセルペルカチニブ群72.8% vs 対照群41.7%だった。奏効割合はセルペルカチニブ群86.7%(95%信頼区間76.8-93.4) vs 対照群61.0%(95%信頼区間44.5-75.8)だった。同様の傾向は、東アジア集団全体としても認められた。東アジア集団で高頻度に認められた有害事象は、セルペルカチニブ群ではAST上昇(73.6%)、ALT上昇(70.3%)、高血圧(60.4%)、ビリルビン高値(52.7%)、下痢(44.0%)だった。対照群では貧血(61.2%)、AST上昇(49.0%)、白血球減少(49.0%)、好中球減少(44.9%)、ALT上昇(42.9%)だった。
結論:
LIBRETTO-431試験は、東アジア人の患者におけるRET阻害薬の有効性と安全性を報告した初めてのランダム化試験である。全体集団での結果と同様に、東アジアにおいてもセルペルカチニブは化学療法+ペンブロリズマブ併用療法と比較して有意にPFSを延長した。治療の早い段階から包括的な遺伝子変異検索を行い、結果としてRET陽性非小細胞肺がんと診断がついた場合には、患者居住地域に拠らずセルペルカチニブによる初回治療を行うことが望ましい。