・第III相TROPION-Lung01試験・・・ドライバー遺伝子異常のない既治療進行非小細胞肺がんに対するDato-DXdの効果

 

 datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)は以前少しだけ触れたことがあります。

 

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 Trophoblast cell surface antigen 2 (TROP2) 、直訳すれば胚盤胞栄養膜細胞表面抗原2、はTacstd2遺伝子によりコードされる膜貫通型の糖タンパクです。細胞の自己複製、増殖、浸潤、生存に関わるシグナル伝達を担い、様々な正常組織で発現されているとともに、様々な上皮性腫瘍にも発現し、予後不良因子とされています。

 Dato-DXdは抗TROP2抗体であるDatopotamabとderuxtecanの抗体薬物複合体(ADC)であり、第一三共株式会社とAstraZeneca社が共同開発しています。

 調べた限り、肺がん領域では以下のような臨床試験が設定されています。

 

 

・TROPION-Lung01試験(NCT04656652)

 ドライバー遺伝子変異の有無を問わず、既治療進行非小細胞肺がん患者を対象として、Dato-DXdとドセタキセル(DTX)を比較する国際共同オープンラベルランダム化第III相比較試験

 

・TROPION-Lung02試験(NCT04526691)

 EGFR遺伝子変異陰性、ALK融合遺伝子は陰性、ROS1, NTRK, BRAF, RET, METは未検索あるいは陰性の未治療進行非小細胞肺がん患者を対象に、Dato-DXd+ペンブロリズマブ±プラチナ製剤併用療法について検討する多施設共同オープンラベル第Ib相試験

 

・TROPION-Lung04試験(NCT04612751)

 ドライバー遺伝子変異陰性の進行非小細胞肺がん患者を対象に、Dato-DXd+デュルバルマブ±カルボプラチン併用療法について検討する多施設共同オープンラベルマルチコホート第Ib相試験

 

・TROPION-Lung07試験(NCT05555732)

 ドライバー遺伝子変異陰性、PD-L1発現<50%の未治療進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者を対象として、Dato-DXD+ペンブロリズマブ+プラチナ製剤併用療法、Dato-DXd+ペンブロリズマブ併用療法、ペンブロリズマブ+ペメトレキセド+プラチナ製剤併用療法(KEYNOTE-189レジメン)を3群比較するランダム化第III相比較試験

 

・TROPION-Lung08試験(NCT05215340)

 ドライバー遺伝子変異陰性、PD-L1発現≧50%の未治療進行非小細胞肺がん患者を対象として、Dato-DXD+ペンブロリズマブ併用療法とペンブロリズマブ単剤療法を比較するオープンラベルランダム化第III相比較試験

 

・AVANZAR試験(NCT05687266)

 EGFR遺伝子変異陰性、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子は陰性、NTRK, BRAF, RET, METは未検索あるいは陰性の未治療進行非小細胞肺がん患者を対象に、Dato-DXd+デュルバルマブ+カルボプラチン併用療法と、ペンブロリズマブ+ペメトレキセド+プラチナ製剤(非扁平上皮がん)/ ペンブロリズマブ+パクリタキセル+プラチナ製剤(扁平上皮がん)を比較する国際多施設共同オープンラベルランダム化第III相試験

 

 

 また、今回は詳しく触れませんが、AstraZeneca社が主導している周術期薬物療法の第II相試験であるNeoCOAST-2試験(NCT05061550)においても、Dato-DXdが治験薬に組み込まれているようです。

 

 

 今回紹介するTROPION-Lung01試験については、2023/07/03の時点で第一三共株式会社から以下のようなプレスリリースが発出されていました。

20230703_J.pdf (daiichisankyo.co.jp)

 

 本試験の参加条件を考えると、適用できる後治療は限られると想像され、全生存期間の延長効果がどの程度期待できるのか興味があります。

 現時点ではまだDato-DXdが有意に無増悪生存期間を延長した、という結果が示されたにすぎず、中間解析時点では全生存期間延長効果は明らかではありません。

 面白いのは組織型別の無増悪生存期間解析結果で、非扁平上皮がんではDato-DXdが、扁平上皮がんではDTXが勝っているように見えます。

 若い医療従事者はピンとこないかもしれませんが、JMDB試験における非扁平上皮がんとペメトレキセド、扁平上皮がんとジェムシタビンの関係を彷彿とさせ、懐かしく復習しました。

Phase III Study Comparing Cisplatin Plus Gemcitabine With Cisplatin Plus Pemetrexed in Chemotherapy-Naive Patients With Advanced-Stage Non–Small-Cell Lung Cancer | Journal of Clinical Oncology (ascopubs.org)

 

 今後、TROPION-Lung01試験を含め、Dato-DXd関連の臨床試験群における組織型別の全生存期間解析をぜひ見てみたいと思いました。

 

 

 

Datopotamab deruxtecan (Dato-DXd) vs docetaxel in previously treated advanced/metastatic (adv/met) non-small cell lung cancer (NSCLC): Results of the randomized phase III study TROPION-Lung01

 

M. Ahn, A.E. Lisberg et al.
ESMO Congress 2023 abst.#LBA12
Annals of Oncology (2023) 34 (suppl_2): S1254-S1335. 10.1016/annonc/annonc1358

 

背景:

 Dato-DXdはTROP2蛋白を治療標的とした抗体薬物複合体で、様々な腫瘍を対象に臨床的検討が行われている。今回は、ドライバー遺伝子変異の有無を問わず、既治療進行非小細胞肺がん患者を対象として、Dato-DXdとドセタキセル(DTX)を比較する国際共同オープンラベルランダム化第III相比較試験であるTROPION-Lung01試験について初の報告をする。

 

方法:

 対象患者をDato-DXd群とDTX群に1:1の割合で無作為に割り付けた。Dato-DXd群ではDato-DXd 6mg/kgを3週ごとに、DTX群ではDTX75mg/㎡を3週ごとに投与した。主要評価項目は効果判定委員会評価による無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)とした。副次評価項目には奏効割合(ORR)や奏効持続期間(DoR)、安全性を含めた。

 

結果:

 604人の患者を全体の評価対象(FAS)とした。43.1%の患者は2レジメン以上のがん薬物療法を受けていた。年齢中央値は64歳(24-88)だった。FAS解析において、Dato-DXdは有意にPFSを延長した(ハザード比0.75、95%信頼区間0.62-0.91、p=0.04、中央値はDato-DXd群4.4ヶ月 vs DTX群3.7ヶ月)。ORRはDato-DXd群26.4% vs DTX群12.8%だった。さらには、DoR中央値はDato-DXd群7.1ヶ月 vs DTX群5.6ヶ月だった。非扁平上皮がん集団で解析したところ、PFSが延長した(Dato-DXd群5.6ヶ月 vs DTX群3.7ヶ月)。治療継続期間中央値はDato-DXd群4.2ヶ月(0.7-18.3)、DTX群2.8ヶ月(0.7-18.9)だった。Dato-DXd群の主な治療関連有害事象は胃炎(49.2%、大半がgrade 1-2)、嘔気(37%)だった。grade3以上の薬剤性肺障害はDato-DXd群で3.4%、DTX群で1.4%に認めた。grade3以上の治療関連有害事象や、投与量減量もしくは投与中止に至る有害事象は、DTX群よりもDato-DXd群の方が少なかった。

 

結論:

 既治療進行非小細胞肺がんに対し、Dato-DXdはDTXに対して有意にPFSを延長した。非扁平上皮がんの患者でより効果が高く、全体の成績向上に寄与していた。Dato-DXdは忍容性も良好だった。本試験は現在も継続中であり、全生存期間解析の最終結果が待たれる。